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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第三章 姫の祈りと罪の身代わり
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閑話 正吾、奈々子を遊びに誘う

「奈々子に伝えはしたが…………遊ぶ暇はない、と」


 町を歩いているところを捕まえた代美が困り顔で言う。遠方に向かう準備で忙しいから、と去っていくのを正吾しょうごたちは引き留めることはできなかった。ノエルならともかく、代美は子ども相手でも邪険にしないで話し相手になってくれる。言った内容は本当だろうし、申し訳なさそうな態度であれば余計邪魔はできない。


「さて、どうするか」


 皆で顔を寄せ合う。年の近い集まりで、正吾のほかには親友のエトという少年と蘭という少女がいる。この二人に何人か加わることがあるが、突発的な集まりなのでいつも固定の顔ぶれだけで話し合う。奈々子と遊ぶためにはどうしたらよいか。


「やっぱりこっそり会いに行くしかないんじゃない?」

「前もそう言って、失敗した」


 蘭ははきはきと意見するのに対し、気が進まなさそうなのはエトだ。


「再挑戦よ。初めてで惜しいところまで行けたのだから、今度こそうまくいくわ」

「また灰身上に見つかるに決まってるよお。また怒られることになるの、僕は嫌だ」


 子どもの遊び場ではない、と追い出されたことは記憶に新しい。奈々子が住まう長屋が終幕の灰身団の本部の敷地内にあり、軽々しく人を訪ねに行ける環境でないのが問題だった。奈々子が滅多に町に来ないのもいけない。

 正吾はエトのように恐いからというよりも、腕利きの灰身上相手だから敵わないだろうと蘭の意見には消極的だった。エトに対して頷いていると、「言い出しっぺなんだから何か言って」と蘭が代わりの意見を求める。


(ふみ)を出すのは?」

「代美に頼んだときみたいに断られるに決まってる。奈々子、私たちと遊びたいって思ってないんだもの」


 すげなく却下されるが、気の強い蘭の相手には慣れている。別段思うところなく、うんうんと考え込んでいると、「そもそも!」と蘭が叫ぶ。


「遊びたくない子に、遊びに誘ってもつまんないわ。それなのに、こんなに必死になる必要ある?」

「確かに……なんで僕たちこんなに必死に悩んでたんだろう?」

「さっき私が言ったばかりじゃない」


 蘭はエトに呆れつつ、正吾を見遣る。

 正吾が奈々子を遊びに誘いたいと言ったから、何をするのも一緒が基本の二人は悩んでくれていたのだ。

 正吾は別に特別な理由はないと、自身の心を素直にさらけ出す。


「だってさ、可哀想だろ? 奈々子はずっと仕事仕事って遊んでるところ見たことないし、同年代の友達もいないみたいだしさ」


 一時期、代美の代わりに奈々子がノエルの世話を焼いていた。川辺で鍛錬するノエルを呼びに来ていて、正吾たちは奈々子の存在を知る。

 奈々子は正吾よりも年下で、終幕の灰身団に身を寄せているにしても遊ぶのは普通であり、そうしたいと思うだろう。何か特別な事情があるにしても、あんなに仕事に励まなくてもいいはずだ。


「正吾ってほんと誰とでも仲良くできるよなあ」

「だって、皆で遊んだほうが楽しいだろ?」


 親友と話し合った結果、本部まで訪ねて正吾たちの正体を知らせず人に奈々子を呼んでもらうことになった。これならばいっしょに遊ぶかどうかはさておき、直接交渉できる。


 さっそく行動に移り、代美のように人がよさそうな灰身団員に頼み込む。本部に侵入しないのであれば問題ないのか、快く引き受けてくれてのこのこ奈々子がやってくる。


「よ!」

「……何の用ですか。聞かなくてもなんとなく分かりますけれど」


 奈々子は不愛想な表情に変えるも、逃げるようなことはなかった。一応正吾たちはかねてよりの打ち合わせ通り、奈々子をとり囲む。驚かせてしまったのか、奈々子はたじろぐも、強い眼差しでいた。


「遊びに誘いに来た」

「それは断ったはずです。それでは失礼します」

「行かせると思ってるの? せめて納得できる理由を言いなさいよ」

「……」

「蘭、言い方きついよ。僕たちじゃないんだから」

「奈々子はそんなたまじゃないわよ。ほら、言いたいことがあるなら、言ってみなさいよ」

「なら遠慮なく。迷惑なんです。あなたたちみたいに私は暇ではありませんし、今もこうして話している間に仕事が溜まっています。遊んでいる暇なんて、私にはないんです」


 正吾は最後の言葉が引っかかる。なんだか自分に言い聞かせているようだった。そうであったらあまりにも自分に厳しすぎる、と考えている内にも蘭と奈々子は言い合っていた。


「奈々子がちょっと休んだ分なんて、他の奉公人が何とかしてくれるわよ。奈々子なんかより皆は体が大きいんだから」

「だからこそ、私はいっぱい働かなくてはならないんです。あなたたちの暇つぶしに私を巻き込まないでください」

「なによ。私たちが気を使って遊びに誘ってるのに!」

「蘭、ちょっと落ち着け」

「そうだよ。流石にそれは言い過ぎ」

「~~何よ、二人して! 二人が言わないから、私が代わりに言ってあげたのに!」


 蘭が涙を浮かべてどこかに走り去る。追いかけたい気持ちに駆られたが、「僕が行くよ」とエトが止めた。


「頼む。俺の分まで謝っておいて」

「それは直接自分で言って」

「後でも言うって」

「なら了解。そっちも任せたよ」


 そう。正吾には奈々子の相手がある。だから蘭のことをエトに任せた。


 奈々子はもう止められることはないのに、ばつが悪そうにもその場に残っている。正吾は頭を下げ、「ごめん」と謝る。


「別に謝罪するほどではありません。私も悪かったところはありますし…………彼女にはすみませんでしたとお伝えておいてください。直接ですと、また言い合いになりそうですから」


 こんなつもりじゃなかったのにな。

 喧嘩別れさせてしまったことに後悔しつつ、奈々子が背を向けたことに対して、正吾は引き留めはしなかったが、声だけはかける。


「なあ、俺たちが嫌じゃなかったら、暇ができたときでいいから遊びにきてくれよ。いつでも歓迎だからさ」

「……なんで」


 奈々子は足をとめ、呟く。背を向けたまま、正吾の顔を見ずに問いかけた。


「なんで私なんですか。あなたはノエルに用があって、私に用はないはずです」

「用があるって……。確かに俺は灰身上にあこがれてるから、ノエルの剣技に興味はある。ノエル面白いしな。だけど同じくらい奈々子に興味はあるぞ」

「ッ!?」

「奉公人がなにやってるか話を聞いてみたいしさ」

「ああそういう……」


 話づらいのかなんなのか、振り返った奈々子は失望している様子だった。言う順番を間違えたと、「奈々子自身にもだぞ」と誤解しないように伝えておく。


「嫌がりつつもノエルの世話してたし、ちゃんと話聞いてくれるじゃん。いっつもツンツンしてるのに、律儀なのが面白いなって」

「それは……! 仕事でお給金は出ましたし、人として最低限の対応で」


 羞恥で顔を赤くしてもごもご話すから、言い訳にしか聞こえなかった。正吾はそれも面白くて笑ってしまう。声にすると怒りそうだから、顔に浮かべるだけにとどめておいた。


「働くにしても休みの日ぐらいあるだろ? そのときとかよろしくな。まさか休みがつぶれるぐらい、働かされる訳じゃないだろ?」

「勿論です! 皆いい方で、逆に休ませてくるぐらいですから…………は!」

「なら、近いうちに遊べるな!」

「……考えておいてあげます」

「俺、待ってるからなーッ!」


 いつまでも話していては仕事の邪魔になる。奈々子が何か言っているが、聞き取れないので「また遊ぶときになー!」と両手をぶんぶん振っておいた。



 それから暫くして、正吾たちは奈々子と遊ぶことになる。その頃には蘭の怒りは鎮まっていて、互いに謝り倒すことになった。

 そのせいか女同士なのもあって、奈々子は蘭との仲が一番よくなった。何度か遊ぶ内に仕事をすることにこだわっていたのは、ヒトカゲの被害に関係なく、親に捨てられたところを引き取られたことに負い目を感じていたからと知るが後の話のこと。


 敬語で正論立てるのが得意な奈々子と強気な蘭が合わさり、男側が不利になって言い負けてあやとりやお手玉、人形遊びをすることになる。まあこれはこれで楽しいか、と正吾は奈々子を加えた友人に囲まれて楽しい日々を過ごした。


暫く更新とめます。

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