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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第三章 姫の祈りと罪の身代わり
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第六十一話 もっと強くなれる

 なにやらノエルは試されるらしい。


 剣の腕を見るのに、適当な相手を用意すると言われれば、ノエルに拒否はない。喜んで副支部長についていくと、随分と時間をかけ、馬まで走らせて遠方まできた。


「おー! 青々としてるなあ」

「本当だな。好き放題に草が生えてて、手入れも……人が歩いた形跡もない。ところで、どうして源太がいるんだ?」

「暇だし、面白そうだなって!」


 源太は一定距離をあけ、つけてきていた。ノエルは監視されていると気付いた場合、報告するようにと言われているので、代美は今知ったことではない。そもそも源太は隠れなかったので、代美自身で気付いていた。

 ただ近づいて話をしようとすれば逃げたし、副支部長は『放っておきましょう』と追及しなかった。


「それで、ここには何しに来たんだ?」

「知らないで、面白そうだと思ったのか?」


 代美が呆れる。


「それもそうだけど、大方気になって仕方なかったのでしょう。源太、本部長によく絡むし。私がいるし、何か命を受けていると察した」

「……俺、ジジイに絡んでないし。ジジイが絡んでくるんだよ」

「揃いも揃って素直じゃない。馬を勝手に借りているし、帰ったらいっぱいしごかれることを覚悟しておきなさい」

「うえ。内緒にしてくれないのか?」

「負担だけならしも、危険を増してくれたから。源太なら放っておいても無事でしょうけど。……この先一帯はヒトカゲが蔓延っているから、迂闊な行動は控えるように」


 最後の言葉はノエルと代美にも向けられている。


 用意するというので人間が相手かと思ったが、ノエルの相手はヒトカゲらしい。

 まだまだ日が高い時刻もあって、期待で胸を膨らませる。ノエルの剣の腕を見るために、それは相応しいヒトカゲなのだろう。


「もういましたね。それも二体」


 ノエルも見つける。夕方以外でも活動できる、第二形態。人の形をはっきりと保てる、ネロほどではないにしろ強敵。


「一体でも危険なのに……腕試しなので違う個体にしませんか?」


 代美が不安がって言うが、ノエルの実力であれば問題ない。


「倒していい?」

「……そうね。片方は私が受け持つから――」


 許可は貰った。その先の言葉はいらない。

 ノエルは駆け出して距離を詰めると、ヒトカゲは無造作に腕を薙ぎ払った。【伸長】しながらなので、有効範囲内だ。

 ノエルは体を左下にずらしつつ、足は止めずに加速する。抜刀すると同時に斬り、【修復】される前にもう一度大きく斬る。灰に化すのを見届けることなく、二体目へ。こちらのヒトカゲは芸がない。突進してくるので、真正面から迎えうつ。苦労することなく、一撃で終わった。第二形態の中でも、弱い個体だったらしい。


「これは…………想像以上ね。無茶だと思ったけど、この実力なら適当な判断か」

「……いる」


 試すというのは、証明することだ。そのために、ヒトカゲを斬る数は多い方がいいはず。


 ノエルは次に発見したヒトカゲへ駆け出す。


 なぜ試すのか、ノエルは説明されていないし、興味がないので、証明することに必死になることはない。嘘っぱちの理由を考えたのは、文句を言われたときに納得してもらうためだ。


 ノエルはヒトカゲを斬りたいだけだ。正確に言うなら、憧れをなしたい。現状ではあらゆる要素が不足しているため、その一つの剣技を高める。


 センのときのように手加減しなくていい。思う存分、致命傷を狙って夢幻を振るう。

 感覚を研ぎ澄まし、よりよくなるよう修正する。影の兆候を読み取って、【伸長】などの特性を用いた攻撃を払いのけたり、避けたりもする。センの体力を削るために特性を何度も見たので、兆候が分かるようになっていた。


「もっと」


 焦りで気持ちが急く。

 成長の停滞。代美から指摘されて気付くと、より焦りは加速した。この絶好の機会を逃したりしない。


「もっと」


 代美や副支部長、源太が留める前に。夢幻を振るって振るって、振るい続ける。

 全体を見て、いち早くヒトカゲを見つけてもいく。灰身上にとって厄介な、手付かずのヒトカゲだ。怒られることなく、良かれと褒められることだろう。文句を言われたときの理由として、新たに加えておく。


「もっと」


 ノエルは強くなれる。成長の停滞は打ち破られた。

 成長を体感できていて、焦りがその分消えていく。余裕が生まれたら、鍛練でない戦闘に入れ込むことになった。


 憧れをなしたい。先生ほどではないにしろ、ノエルだって。


 ノエルと、相手のヒトカゲ。強さは命を懸けるほどではない。剣技は劣っている。ない血は……少量なら出せる。


 憧れの要素と比較して、未だ足らぬことが多い現状を把握する。少しでも補うために、左手首に夢幻を当てて少し引く。浅く斬ったのに、想像以上に血は流れた。まあ、多生の誤差か。

 気にせず左手を振ると、血は飛び散る。合わせて夢幻を振るいつつ、うっとりとした。いい感じ。



 早く先生と同じ高さまで背が伸びたらいいのに。剣技を身につけて、強い相手を見つけて。最高の憧れをなす。

 普段からノエルの頭を占めていることだった。この望みのために、ノエルは全力を尽くしている。


 だからその他のことなど、邪魔なだけだ。


「ノエル!」


 ノエルは思わず、代美を斬りそうになった。腕を取られつつ、寸止めが間に合う。

 代美は溜め息をついた。ノエルを止めるために必死に追いかけて息が荒いので、次には大きく息を吸う。深呼吸になっていた。


「暴走しすぎだ、馬鹿……」


 本部長が恐くなければ、ヒトアゲと戦うためとはいえ灰身団に所属しなければ。その他に煩わされることもなかったのに。


 本部長のことはともかく、ノエルが必要だと思ってやっていることだ。面倒事の世話をしてくれる代美の意向には従う。

 応急処置として左手首を布で押さえられつつ、ノエルは問いかける。


「試すの、いいの?」


 まだと言ってくれないだろうか。


「もう十分すぎるわ。剣の腕は確かね…………人格は考えさせられるけど」

「そう」

「どうにかしようとする気持ちをもてっ」

「やっぱ本部の灰身上ってすごいんだなあ!」


 源太は瞳を輝かしていて、それを見て代美はそっと目を逸らした。本部の灰身上でも強くない者はいる。源太の近くにいる者とか、そうである。



 物足りなさはあるが、すっきりとした心地で第一支部まで帰還する。支部長に結果を報告すると、ノエルは話し合いの場から追い出された。ノエルなしで、話したいことがあるらしい。


「あれ? ノエルだけか?」


 無関係だと最初から追い出されていた源太が待ち構えていて、ノエルを捕まえる。こくりと頷けば、「なんで?」と訊かれる。


「さあ」


 説明するのは面倒臭い。何を話し合っているかは知らないので、『さあ』で合ってることにする。言い訳を考える癖がついてきた。


「なあなあ、本部ってどういう感じなんだ? 支部と違って変わっているところとかある?」


 源太はノエルを離そうとしない。二人っきりでは、代わりに話してくれるものはおらずどう対処しようかと考える。素っ気ない態度をしても、しつこく訊いてくるのだ。全くめげない。

 反応しないでいたら「おーい」と目の前で手を振ってくる。目を合わせてやると、「あ、気が付いた」とにっかりと笑った。最初から気付いていたが? 


「武芸場」

「うん?」

「連れてって」


 案内されたので一人で行けるが、何か役割を与えておけば多少静かになるだろう。置いていこうとしても、勝手に付いてくるだろうし。


「いいぞ! 武芸場に興味があるんだな」

「ん」

「ノエルも一緒に鍛錬するか?」

「ん……いや」


 鍛練もしたいが、それよりも剣技の見本が見たい。よい見本があれば、模倣して剣技を高めることができる。

 案内されたときは支部の灰身上は本部より劣っていたが、今日は腕のいいものがいるかもしれない。すれ違った中で、優れた立ち振る舞いをする者がいた。


 源太ははい、いいえであれば、ノエルが答えてくれると分かったらしい。移動中であれば答えておいた。適当に。


 武芸場には一人、腕のいい灰身上がいた。観察していると、「やっぱりここにいたか」と代美がやってくる。


「源太もいたのか。ノエルが迷惑をかけなかったか?」

「全然! 逆に俺が迷惑をかけたかも!」


 その通りである。

 反応しなかったが、代美にそう思ったことを察されて軽くはたかれる。ノエルが人間を害せないことをいいことに、なんて奴である。傷にならないぐらいに、やり返しておいた。


「いたっ。ここまでやってないだろ!」


 ノエルはそっぽを向いて、気にしないでおく。


「全く……今日はもう休んでいいそうだ。ノエルのせいもあるが、移動が大変だったからな。今日のところはゆっくりと疲れを癒そう。血を流しているし、鍛練はさせないからな」

「あ、それなら俺がまた案内する! もうすぐ夕食だし」

「源太ならそう言ってくれると思った。ありがたく頼らせてもらう」

「おう!」

「…………それと、ノエル」


 代美がこっそりと耳打ちする。


「明日もまた試されることになる。今日と違って楽しいことではないかもしれないが、頑張るんだぞ」

「……」

「頑張ってくれるよな?」


 肩におかれる手が重い。それでも答えないでいると、源太が不思議がったので代美が先に諦めた。


 楽しいことだったらやるけど。

 今日みたいのがいいが、違うのだろう。今度は人格を試されるのだろうか。折を見て、代美から詳細は明日話されると知らされる。利がなければやらないでおこうっと。

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