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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第三章 姫の祈りと罪の身代わり
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第五十八話 出発と道中

 代美は風呂場で会った女のことを、木丞に報告の文を出した。直接話すにはちょっとしたことで、過度に騒ぎ立てることではないと判断した。


 出発は予定通りの日程で行う。

 その準備として特注の仕込み提灯を早めに作ってもらったし、ノエルが乗馬できるように練習した。

 第一支部までの道中は馬を足とすることになったのだ。本部長がネロとセンの件の伝達も兼ねて正式の使者としたので、借りることができた。


 代美は実家の方針として、ヒトカゲの脅威に備えて女でも武芸を教えられている。乗馬は習得済みで、反対にノエルは初心者だったが、木馬で一通り練習させたらあっという間に習得した。代美の倍以上の速さだった。

 それを文字や身の周りの生活を覚えるのも生かしてほしい。移動時間を短縮できると、乗馬の有用性を見出だしたからだろうが、代美の苦労が報われない。



「忘れ物はない? 文はちゃんと持った?」


 朝早く、ようやく日が出てきた頃には出発とした。見送りは茜だけとひっそりとしている。

 代美とノエルの知り合いが少ないのもそうだが、使者となって第一支部に行くことは内密にされているのだ。裏の目的が、本部長が信頼する第一支部長と協力体制を築くことだ。そのため代美が遣わされることになったが、普通使者にはなるはずがない人選だ。ネロとセンの件の当事者だからとしても、怪訝に思う者はいる。


 それを避けるために、早朝の時間帯を選び、専属の奉公人の茜にだって表向きの事情しか知らされていなかった。

 茜の身を守るために必要以上に知らせるべきではない。代美は騙している気分になりながらも、笑顔を努める。


「何度も確認したし、大丈夫だ。文もノエルにちゃんと持たせている」

「なくさないようにね。……ちょっとお節介すぎるかしら? でもこれは、本部長も言っていたことだし」


 文は本部長からの指令が書かれたものである。代美のなすべきこと、注意すべきことに加え、第一支部長に渡す文もあった。代美と第一支部長は知り合いではないし、本部長の意向だと証明するためにだ。


「いいや。このぐらいが私にはちょうどいい。ノエルには足りないぐらいか?」

「……なくさない」


 ノエルが口にするぐらいだから、信じておこう。

 代美が文を持たずに預けているのは、文をヒトカゲに見られたり、取られたりしないようにするためだ。

 ノエルは護衛のために連れていく。協力体制を築くのはいいが、その道中が代美一人では実力不足で危険だからだ。好一対バディだから、一人残していくのは不安だからとノエルには説明しているが、真実はそんな情けない理由である。許可を取る前に、指令の文に書かれていたぐらいだ。


 ……代美たちの動きを察して、襲撃されるかもしれないからなっ!

 また、ヒトカゲが現れずともなったと言っても元から蔓延っているヒトカゲや賊の脅威がある。対抗策として、ノエルがいてくれるなら安心だ。


 それでも、見送る立場の茜は心配なのだろう。他にも気になる点を口にしてから、送り出してくれる。


「いってらっしゃい。気を付けて、お役目もしっかりね」




 代美は道を十分に確認しながら、馬を走らせる。第一支部に行くのは初めてだが、致命的な間違いさえ犯さなければ迷うことなく到着できるはずだ。


 終幕の灰身団の本部は信濃に、第一支部は出雲にある。その経路として、代美は中山道と山陰道を使うことにした。

 中山道は江戸から京都に至る街道だ。三都と数えられていた江戸・京都が栄えていたとき、それは重要な街道だった。その証として道標となる石碑や宿場町が残っており、今でもよく使われている。

 代美はまずその石碑を見つけて、信濃に経由している中山道に入って進んでいく。


 順当にいけば京都に付くのだが、陥落してヒトカゲが蔓延る地だ。行けるところまで行ってから迂回し、山陰道に移ることになる。

 山陰道は日本海の海岸沿いに通じている街道だ。参勤交代のための主要道路や、縁結びとして有名な杵築大社(きづきたいしゃ)の参拝に利用されていた。代美たちは山陰道で出雲まで、その国にある第一支部に行くことになる。


 京都辺りと第一支部は街道を外れ、道が分からなくなることが予想されるが、そこは人に聞いて補完する。第一支部は本部に次いで設置され、規模は大きく有名だ。

 道に迷う点に関しては、そう気負うことはない。襲撃者やヒトカゲと賊の脅威に関しては、ヒトカゲを除き心配いらなかった。襲撃者はおらず、監視者もいないようである。灰の打裂羽織を着ているお陰か、賊に出くわさない。女子どもの見目で狙われやすいのに、灰身上の威光には感謝だ。


 ヒトカゲに関しては、助けを求められる形で相対することになる。

 日が暮れるにはまだ早い時間に、一家の主人が代美とノエルを引き留めた。


「いいから泊っていきな。長旅で疲れてるだろう?」


 必死さが隠れきれていない声だった。最初は事情を話さなかったので、判断に迷ったものだ。人里離れた民家だったこともあり、襲撃者の可能性を疑った。ヒトカゲは人間に化け、それを見抜く方法はない。

 ノエルが「泊まる」と言わなければ、おそらく断っていたはずだ。


「ノエル、私たちは先を急がなくてはならないのだぞ」

「……多分、ヒトカゲ。斬りたい」

「確かに、その可能性はあるが」

「いつも止めない。今回は駄目なの? 人のため、でしょう?」

「うっ」


 ノエルが弱いところを攻めてくる。


 使者となって情報を伝達、また協力体制を築くのだから、先を急いだほうがいいに決まっている。だが、それを言い訳にして、ヒトカゲの脅威に困っている人を放置していいのか。

 天秤にかければ、放置できないと人を救うことに傾いた。本部長はそこまで急いでいなかったし、と代美は心の中で言い訳しておく。


 なんせ指令の文が届いたのは、それを示唆した話の二日後なのだ。書くのに時間がかかるとしても、ここまで必要ではない。

 後回しにしたと考えるには、これ以上に優先するべきものはないだろう。わざと時間を置いたのだ、と代美は勝手ながらに思っている。出発までの準備に時間をかけていても、急かされなかった。



 結局、ヒトカゲが出て困っているから、討伐して欲しいとのことだった。代美が急いでいることを察した主人が、正直に言っては断られると思ったらしい。打算がありつつも、もてなしを精一杯してくれるいい主人だった。

 ヒトカゲについては、ノエルがさくっと討伐した。逢魔が時にしか出現できない第一形態だったせいか、降りるまでもないと乗馬したままでだ。ついこの間まで初心者だったのに、乗りこなしすぎだ。


「まあ、それがノエルだからな」


 それに尽きるので代美は気にせず、長旅で蓄積した疲れを癒しておく。ノエルは構わず鍛錬をしていた。


「体を休めるのも大切なんだぞ」


 ノエルは無視して、刀を振り続ける。


「ノエル」

「うるさい」


 空気を鋭く斬って、音となる。連続して何度も、絶やすことがない。


 分かりやすく怒っているな。

 その理由がなんだろうか、と代美は考える。ノエルをよりよく理解するのに本人に聞くのが一番いいのだが、静かにしていないとその刀を向けられそうで恐い。


 前にもネロが逃げたことで怒っていたが、時間が経つにつれて収まっていた。最近起こった出来事で考えるなら、強いヒトカゲと期待していた分、落胆が怒りになったのだろうか。

 どちらにしても納得がいかなかったので、代美は翌日馬を走らせつつ聞いてみる。操縦するしかない暇な状態であれば、答えてくれるだろう。


「昨日は鍛錬に熱心だったが、なぜだ? 睡眠も少し削っただろう?」


 初めの頃は真夜中でもこっそり鍛錬していたが、身長を伸ばすために睡眠は取るようになっていたはずだ。


「………………最近、」

「ああ」

「成長、遅くなった。もっと、頑張る必要ある」

「剣技がか」

「『姿勢』も。停滞してる」

「……つまり、焦っているのか?」


 返答を聞く前に、代美は深く納得した。


「そうかも?」


 自分でもよく分かっていなかったようだ。ノエルは少し考えてから「多分、そう」と頷く。


 元々焦っていたのだろう。昨日のヒトカゲ討伐で、それが表出したのだ。

 憧れのために成長を望んでいて、それを見込める強い相手が良かったが弱かった。後は考えた通り落胆の分怒りとなって、代美にぶつけたのだ。


「成長はしているのだから、別に焦ることはないと思うぞ」

「代美とは違う。わたしはもっとできる」

「私だって成長しているからな!? 浅く広くになるが、できることは増やしている!」


 代美はちょっぴり泣きそうになりながらも訴える。


 興味がないからというより、拗ねているのだろう。贅沢な悩みを理解しなかったせいか、ノエルは代美を見向きもしない。道も分からぬというのに先に馬を走らせて、代美は後をついていって道順を細かく指示することになった。


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