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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第三章 姫の祈りと罪の身代わり
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第四十六話 護送

 山間でのヒトカゲとの戦闘ののち負傷。前回は重症を負うも討伐した。今回違うのはかなり危うい場面はあったものの軽症で、一体逃がすも残りは捕獲といっていいか分からぬ結末だ。


「ネロはあたしのことをお留守番させすぎだと思うの。ネロは楽しいからいいけど、その間あたしは暇だし寂しいんだよ」

「そうか。そうとは見えなかったな」

「そりゃ一人遊びも楽しいところはあるけど……あたしはネロと一緒にいる方がいい」

「なら、これから行けるところは連れていってやるよ」

「ほんと!?」

「ああ。ちょうどセンには色々仕込みたいと思っていたからな」


「それ、私たちの前で堂々と言うことか?」


 代美は呆れをふんだんに含んだ声を意識的に出す。


 センをヒトカゲ質にとった代美の下劣な作戦により、ネロは手出しできなくなった。とはいえヒトカゲの特性上、影を自由自在に操りその中に入って逃げることも可能だ。

 またセンの善良さに漬け込み、騙してヒトカゲ質としている。ネロが正しい状況を教えていたら、センはネロの味方をして戦闘か逃走されると思われた。


 だが、実際センはヒトカゲと灰身上の死闘を喧嘩と称し、全員が謝罪することで仲直りさせた。そんなものは表向きでしかないが、本気でそう思っているセンにネロとて否定できなかった。



 そんな訳で現状に至る。

 代美と手を繋ぐことでセンとのヒトカゲ質を続行し、ノエルやダーヴェスに囲まれ監視されながらもネロが陽気に喋りあっている。


 一応、灰身団本部へ護送中なんだがな。絶対にどこかで隙を見て逃げ出すに違いない。その前提で、どこか連れていってやるとか言っているのだ。

 阻止したいが、やはりヒトカゲの特性が問題となってくる。縄で縛っても簡単に抜け出せせるので意味がなく、ずっと気を張って警戒していてはどこかで隙ができる。


 そうと分かっているから、ネロの顔はにやけていた。どれくらいもつかな、とか思っていそうだ。

 代美はネロに操り人形とされ、徹底的に心を折ろうとあれこれ言われたことがある。これまで苦手な相手はいたが、これほど嫌いと思う相手は初めてだ。


「触手男」

「あえて精度を落として、そうなっていただけだ」

「遠慮なく体に巻き付いていて操ったのに?」

「だからこそだ。お前を人質にして、斬られにくいようにしてたんだよ」

「へえ、そうか」

「お前、絶対そう思っていないな?」


 軽口を応酬しつつ、こいつは討伐してしまった方がいいのではと思えて仕方がない。口が軽いし情報は見込めそうだが、不利益デメリットが大きすぎる。


「……そういえば、そういうお前こそそう思っていないだろう」

「何の話だ?」

「ヒトカゲの愛についてだ。初めて出会ったとき、ヒトカゲは人間に構って欲しいから人間を襲うと言っていただろう」

「え、そうなの?」


 ダーヴィスが口を挟みつつ、自分の影を一瞥する。疲れたのか、小鈴は影に潜り込んで出てこなかった。


「小鈴とセンはともかく、ネロは人間に愛など持っていない。人間の姿になれるのなら、襲う必要なく普通に話せる」


 代美はダーヴィスに、ネロが突然襲い掛かって来たときのことを説明する。愛どころか敵意しかなかった。


「おいおい、俺は人間が好きだぜ。ちょっと愛が歪んでいるだけだ。なんせ、人間はヒトカゲが嫌いだからな」


 ネロに胡乱な視線を向ける。嘘っぽい。軽薄な態度だから、余計そう思えて仕方ない。


「こんなに想ってるってのに、信じてくれないなんて酷いぜ。なあ、セン?」

「うん! 誤解しちゃうかもしれないけど、務めがあるからね」

「務め?」

「それはねー」

「セン。それは秘密だろ?」

「あ、そうだった」


 言わないぞー、とセンは口を両手で押さえている。かわいい。ネロのせいで荒んだ心が癒される。

 だが、その務めが何か、そのせいで人間を害しているとなれば放置はできない。また、その他にも聞きたいことがある。


「務めとはなんだ。ヒトカゲはなにを企んでいる。……ノエルを傷つけず捕えようとするのはなぜだ?」


 今回の戦闘でもそうだった。ネロはノエルに攻撃こそしたが、負傷には至っていない。


 ノエルに関してなにかしら情報を持っている。それが人間でなくヒトカゲだということに嫌な予感がしてならないが、現段階で何も情報が見つからない以上、とても貴重で聞き出しておきたいことだ。

 代美にとってそれはヒトカゲの謎と同じくらい大事なことである。ノエルの好一対バディであることや先生の教えを継いだことをなしにしても、ただその身を案じる者として、どんな情報でも欲しかった。


「さあ、なぜだろうな?」


 ネロは嘲笑う。言うわけないだろバーカと言われたような気になって、代美は青筋を立てた。



 本部まで無事護送できなかったときのためにも、情報収集は行っていく。ネロは嫌がらせのため、誤魔化したり流したり適当なことを言ったりした。

 そんな中で、ダーヴェスが灰色の羽織を着た者を見つける。灰身上である。


「手伝ってもらおうか」


 勿論護送についてで、そのことによってネロが行動を起こすかもしれないと警戒を強める。幸い、その灰身上を追いかける必要なく、相手の方から来てくれた。その顔はとても見覚えがある。


「リビーじゃないか」

「これまた奇遇やな、といいたいところやけど。やっと見つけたで」

「一人か?」


 口にしてから、吸血鬼の件だと思い至る。

 前に会ったときは吸血鬼を追っていたときだ。仕事帰りもあって離れることになったが、何か情報を手に入れたら連絡すると言ってくれた。


 興味がなさそうだったので、リビーはともかく仁はいないのだろう。仕事でもないのに、ずっと二人でいる必要はない。


「リビー、すまない。もう吸血鬼については終わったことなんだ」

「そうみたいやね。そこの男がそうなんやろ?」

「知っていたのか?」

「知らされた、が正解やね。どうも、うちはリビーや」

「初めまして、だよね? 僕はダーヴェス」

「あたしはセンだよ!」

「おお、元気でいいなあ」

「ほら、ネロも!」

「……ネロだ。よろしくな、灰身上さんよ」


 ネロは肩をすくめながら言う。こいつ、センの前ではいい奴そうに振る舞うんだよな。猫被りめ。



「吸血鬼の噂について話したら、事情知ってる本部長に頼まれてな。ノエルとか好戦的やし、揉め事になる前にとめろって。遅れたけど大丈夫みたいやったな」


 リビーはそう説明する。

 ダーヴェスの話から、本部長の存在は見えていたので驚きはない。まあ、本部長の立場で、ダーヴェスと小鈴の関係を知らないはずがないしな。


「大丈夫ではなかったがな」

「あー。戦闘になったん?」

「その後でなんとか誤解が解けたが」


 リビーはしゃがみこんで、ダーヴェスの影を覗き込む。

 小鈴は人の目があるため隠れていたが、興味があったのかほんの少し顔を出していた。ぽんぽんと頭を撫でて、立ち上がる。


「小鈴については問題が起きん限り、このままやから見逃してやってな」


 代美ではなく、ノエルに向けた言葉だった。


「……ん」

「よし。それにしても大所帯やなあ。どういう繋がり?」


 ネロとセンは人間にしか見えない。なんと言おう。


「実は……」

「灰身上といったらヒトカゲ関係だろ?」

「どっかでヒトカゲを見つけたん?」

「くははっ。目の前にいるぜ」

「はあ?」


 じろじろとネロを眺めて、意味分からんと代美に助けを求める。全くの真実なので頷いておいた。


「この男が?」

「ああ。センもそうだぞ」

「??? ヒトカゲが人間の形だとはいえ、色までこんなそっくりに? しかも普通に喋ってるし」

「信じられないだろうが、本当なんだ」

「見てて見ててー」


 センが証拠として自身の影を揺らす。手の色を黒く変えたら、決定打だ。


「まじか」

「まじまじー」

「…………ちょっと待って。一旦考えさせて」


 ダーヴェスについて言いに来ただけで、こんなことになるとは思わぬことだろう。あとセンは軽すぎる。配慮してやってくれ。

 リビーはぶつぶつと呟いた後、代美の両肩を押さえる。


「説明」

「あ、ああ」


 気迫に押されつつも、今度は代美が説明する番となる。


「つまり、確保できたから、情報収集のために本部まで連れていこうって?」

「まとめるとそうなるな」


 センを見ると、意味が分からずともにっこりと笑いかけられた。ネロへの警戒のため、センは代美と繋ぐことになっている。そんな近くにいては、話していた内容は丸聞こえだ。


 代美たち灰身上にとって都合がいい話をどう思っているのだろう。センは本部に行ってもいいとは言ってくれた。そうでなければ護送は成り立っていない。

 心変わりしないのだろうか。代美は不安と共に純粋に疑問を抱いていると、リビーはセンに情がないので明け透けにものを言う。


「ネロに襲われたんやろ?」

「まあ……そうだな」

「情報収集は大切や。うちもそう思う。だけど抑えられないかもしれないのに、無理してすべきほどではないやろ。倒しておいた方がいい」

「なんでそんなこというの?」


 はっと息を呑むのはリビーだ。


「ネロは悪いヒトカゲじゃないもん」


 センにとってはそうなのだ。ネロは人間を害しているが、センの前では誤魔化せるくらいのことしかしていなかったかもしれない。


 センはネロと親しい関係にある。こうなることは予期すべきことで、代美はリビーの話をとめるべきだった。

 怒ってしまえばどうなるか分からない。子どもの癇癪といえども、強力な力を持っているなら被害がでる。その程度で終わるならいいが、死闘に発展してしまえば最悪だ。


 手遅れの後悔を引きずりながら、センを警戒する。センは瞳を涙で濡らした。その量は多く、ぎょっとリビーは驚く。


「じょ、冗談や」


 もしかしたらただ怒るだけと想像していたかもしれない。見た目は子どものセンの涙なのに、リビーは焦っているようだった。


「悪い冗談やった……すまん」

「…………いいよ。ネロにも謝ってね」

「……分かった」


 センはしっかりしているが、これは育てが良かったということだろうか。共に行動しているネロに疑いがいって、センの生来の性格だろうと思うことにした。ネロはそんなできた奴ではない。


 ネロはくつくつと喉の奥で笑いながら、謝罪を受け取っている。話を聞いていただろうに、全く気にしていないらしい。


 何を考えているのか分からないやつだ。戦闘にならなかった点では無事にリビーが加わったとはいえ、油断はできない。代美は警戒を強めて、最短距離で本部に向かった。


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