閑話 小鈴がダーヴィスを嫌う理由
まあるくなだらか小石、ゆらゆらと揺らめく水草、ぷかぷかと浮いている落ち葉、流れに逆らって懸命に泳いでいる魚。
この世界は様々なもので満ちていて、興味が尽きることはない。手当たり次第に観察して、触れ合い、ときにはなりきってみる。
小鈴が小鈴と名付けられる前、魚とは逆に川の流れに身を任せているのに飽きてしまっていた。水の次は陸だと、固い感触の上でごろごろと転がってみる。身を包み込む安心感はないが、水の抵抗なく自由に体を動かせるのはいいことだ。そんなとき、ダーヴィスと出会うことになる。
ぎゅむり。
「わ、なんか踏んだ……糞?」
小鈴は人間が好きである。だが、この男は嫌いだ。
踏んだ上、全くもって失礼なものと間違われたので即刻そうなった。
飛び掛かり、首に噛みつかんとする。勢いで地面に倒すことはできたが、首は阻止された。鞘があるままの刀を口に差し込まれ、視界が回転する。青い空を背景に、ダーヴィスが見える。立場は逆転し、地面に押し倒された。
このままではいけないと、ダーヴィスの影を【浸蝕】する。打ち勝つにはそれしか手がなかった。
いっぱい力を注いで、影に縫い留めんとする。抵抗が強い。ずぶずぶと影の中に体の半分ほど入れ込んで、諦めずに頑張る。
「こ、れは、ほんとに不味いかな」
壁や地面にぶつかったようだった。突然現れたそれにより痛みが発生して、影に干渉できなくなる。これ以上体を入れ込むはできないし、抜け出すこともできないのだ。
小鈴は混乱するが、全く動けないのでどうすることもできない。
こうして小鈴はダーヴィスに捕らわれた。制限は軽くなって自由に動けることになったが、ダーヴィスから一定距離を離れることができなくなる。
してやられたことで捻くれて、【隠】で影に隠れる。だが世界に比べると影の中はとてもつまらないので、ずっと隠れたままは耐えられなかった。
そしたら最低最悪な医者兼研究者を知ることになったり、ヒトカゲ討伐に協力しないと殺すことになると脅されて協力することになったり、色々な出来事があったわけだが、紆余曲折してダーヴィスと行動することになる。
渋々受け入れている小鈴だが、ダーヴィスが嫌いなのは変わりなく、意趣返ししたい。さて、どうしたものか。
その頃の小鈴はダーヴィスの顔を合わせることも嫌だった。そんな奴よりも他の人間といた方が嬉しいし、楽しい。
人型では恐れられ、攻撃されることは経験済みだったので、そうならない子犬となって警戒心が弱く愛情深い子どもと戯れる。キャッキャウフフ。そんな楽しい雰囲気を、ダーヴィスがやって来てぶち破ってくれた。
「君……危ないから、その子を渡してくれる?」
「おじさん急になに! この子は私が先に見つけたのよ!」
「いや、だから危ないから……」
「お母さーん! 変な人がいる!」
「あんたうちの子になにしてんだい! よそもんはどこかに消えな!」
「あの、僕灰身上……ねえ、話聞いて?」
「かわいいあたしに急に話しかけてきたの! それだけじゃなくて、乱暴に子犬も奪おうとしてきたのよ! あたしもこの子も可哀想! きっとあの羽織も灰身上様から奪ったに違いないわ!」
しくしくと泣いているダーヴィスを見て、小鈴は満足していた。
「あの子恐い……」
より恐れおののけと、小鈴はダーヴィスをやっつけてくれた女の子になりきる。姿はどうにでも変えられるのだ。
定着していた人間の姿から一回り小さくなり、こっちを見ろと叩く。えっへん。どうだ。恐いだろう。
「わあ、ちっちゃい。かわいくなったね。影に潜りやすそう」
期待していた反応と違う。不満で足蹴にしても、あまり気にした様子がない。跳んで、足先に着地してやる。いつもより甲高く鳴いた。
沈没している間に、小鈴は自身の姿を見下ろす。ちゃんとそっくりだ。だが、色がないせいで効果なし。次の策を考えよう。変えた姿は軽やかで細やかに動きやすいから、そのままでいいかな。




