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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第二章 下下は咆哮せよ、運命は巡る
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第四十四話 下下は咆哮せよ、運命は巡る

 ノエルにとって待ち遠しかった時間が始まった。


 あまりの力と俊敏さに軽い驚き、歓迎した。眼前に迫る大剣を、薄皮一枚と切り離すようにと攻撃を受ける。

 危うかったが、なんとかできた。これが決定的な証拠となり、ノエルは反撃できる。代美も止めはしないだろう。


 子どもが短い木の棒で遊んでいるかのように、ただ振り回しているといえる大剣を避けつつ、頬の傷を左手で拭う。べったりと赤に塗れた。

 右手でなくとも何かに使うといけないので、打裂羽織で拭っておく。


 カカによって開幕した戦闘は、その他の者にも及んだ。必要に駆られたノエルは勿論、代美やダーヴィス、そしてネロもだ。


「ど、どうして? なんでネロたちまで喧嘩しているの……?」


 場違いにも状況を把握できず、戸惑っているのはセンだ。何を遊びや喧嘩と称するのか理解できないが、これは戦闘である。死闘ともいえよう。

 カカは技量はともかく力だけは圧倒的で脅威だった。ネロもダーヴィス相手にからかうように避けているだけとはいえ渡り合っている。


 代美はセンと繋いでいた手を流石に離していた。ただ背を向けていて、ちょうど鎖鎌を丁度薙ぎ払った状態でいる。その相手はいないように見えて、暗闇に紛れて触手のような【伸長】があった。

 代美が持ち歩いていて今は地面に置かれるぶら提灯は、洞穴全部を照らしきる明かりではない。視界確保には不十分で、ただ外ではまだ日は高く、洞穴は入り組んだ構造ではない。つまり洞穴は完全な暗闇でなく、暗闇に慣れてきた目があればなんとかなる明るさだ。


 以上がノエルにとってのぶら提灯の利用価値であるが、代美にとっては更に安全地帯として利用価値があった。明かりがある範囲は、影を払拭する。【隠】先が限定されるのだ。【伸長】は影の中から出現している。

 代美はぶら提灯の明かり内で立ち回って、触手を撃退せんとする。


 ここで気付いたが、センに背を向けていることは警戒心のなさではないらしい。時々目を遣っているし、触手は代美でなくセンを狙っていた。それは攻撃の意味合いではない。

 センはネロとカカの正反対側にいて、囮のような立ち位置でいる。本人にその自覚はないようだが、相手はセンを取り戻そうとしていた。その相手というのはネロであろう。足元の影が不自然に揺れているし、その余裕がある。



 余裕とは縁遠いもう一体は疲れ知らずのようで、大剣を一生懸命振り回し続けている。次第に研ぎ澄まされて遊びでなく剣技となってきたことから、集中する必要がありそうだ。

 ノエルを真っ二つにしたいのか、殺意の高い攻撃を向かいうつ。初めて刃を交えたのだが、力の差を身を持って体感することになった。元々予期していたことなので、受け流しに切り替える。カカはよろめくことになったので、腹を切り裂いてみた。肌の色を残している部分を狙ったが、中身は臓腑の形もない黒だった。


 なんだ、血は出ないのか。溜め息をつくと、大剣の威力が上がった。風圧でビリビリとした感覚を肌で味わう。


「お前はどこまでも私を侮辱するッ!」


 戦闘に意欲的なのはいいが、頭に血が上りすぎでは?

 それに補い力が上がるだけならばいいが、また剣技が剣技でなくなってきている。大雑把なのだ。ノエルに狙いを定めすぎていて、避けるのが簡単すぎた。


「私とどこで会ったの」


 理性的になってもらおうとして、対話を行うことにした。未だ思い出せないが、センが言うには会って殺そうとしていたらしい。そういえば、謝った方がいいとも言っていた。


「本当に、何も覚えていないのだなッ」

「ごめんなさい?」

「――、――ッ」


 謝ったのに怒りの形相になった。余程ノエルのことが憎いらしい。


「烏、だ」

「?」

「大量の烏に囲まれていた私を、お前がいたぶり、殺そうとした」

「――ああ」


 やっと思い出した。ヒトカゲに出会えなくて飢えていた頃なのに忘れていたのは、あまりに弱かったため試し切りに集中していたからだろう。倒してもいい相手が欲しかっただけで、あまりヒトカゲと意識していたかった。

 連鎖的に、代美と共にヒトカゲ探しとなったことも思い出す。今こうして会う巡りだったのなら、必要なかった。その際に聞いたのが吸血鬼の噂だったので、忘れ去られる運命だったのかもしれない。そういうことにしておこう。


「なら、続きね」


 今は考えることよりも目の前のことだ。

 カカは「ああ」と短く肯定する。


「試し切りしよっ」

「……お前がどんな気持ちでいたぶっていたかよく分かった。ここでお前を倒し、復讐を果たしてやる!」


 ノエルは積極的に刃を合わせていく。避けてもいいが大剣と違って特別長くない刀では、懐に入り込まなくてはならない。そしてずっと接近距離いれば、数多く試し切りができる。


 耳がつんざくような音が発生するのだが、ノエルやカカと別の声は洞穴なのでよく響く。代美の声など張りがあるので尚更だ。


「その菅笠、見たことがあるぞ! その声も、喋り方も、体躯も、能力も! お前、あのときの理性あるヒトカゲか!」

「あのときっていつのことだよ。俺にはさっぱりな話だぜ」

「でも確か殺したんじゃなかったっけ? あ、分かった。分身体?」

「あのときはよくもやってくれたな! お前を倒した後、体が散々なことになったんだぞ!」

「だからあのときって――、ああくそっ話聞かねえ奴らだな! そうだ、俺がそのヒトカゲだ! もう一度操り人形にしてやろうか!」

「結構だ! 誰が好き好んで触手男にしてやられるか!」

「ほーう? 触手男だあ?」


 少し危ない雰囲気だろうか。代美は弱いので、死なないか様子を確認してしまう。


 状況は前見たときと変わっていない。センはやはりおろおろと何もできないでいる。その前で代美は戦っていたが、その相手の触手が影に引っ込んだ。代わりと噴出されたのは杭である。


「っ!」


 代美は鋭い先に体を掠めたが、間一髪串刺しにはならなかった。合計五本と一度にあれだけあって、よく避けれたものだ。新しい武器も用いるようになったし、多少は成長しているらしい。


「セン、こっちにこい!」


 杭は代美を狙った一本の他は、柱のように囲むように立っている。ネロはあくまでもセンを取り戻したいらしい。代美への攻撃に集中したためか、ダーヴィスに少し体を斬られた状態でいた。

 刃は止まっていて、できないというよりしていないのだろうか。センの話の生だろうか、ダーヴィスはネロを倒すか倒さまいか、迷っていそうである。そんな顔をしている。


「よそ見だとは、試し切りをするんじゃなかったのか!」

「するよ」


 しゃがみ込んで上空の体験と強風をやり過ごした後、ももに刀を立てる。やはり血は出ない。見える範囲の肌色は傷つけたのだが、人間の面を被っているだけらしい。中身は全部真っ黒のヒトカゲだ。


 刺突はヒトカゲに効きにくいため、傷を気にすることなくノエルに拳を振るった。大剣は捨てている。そうくるとは思っていなかったため、咄嗟に刀の刃を向ける。腹の方で夢幻が折れるのは断固拒否だ。

 カカは拳が斬れるのを躊躇わなかった。壁までぶっ飛ばされることになる。受け身をとって痛みを軽減し、直ぐに動かぬ体に叱咤する。ノエルの左斜めに大剣が刺さった。チッと舌打ちが聞こえてくる。ヒトカゲにも利き手があるようで、その反対の無事な手では狙いが狂ったらしい。


「ノエル!」


 代美は気を取られている場合ではない。センが迷いながらもネロの元に走る。人質がなければ、代美とダーヴィスに集中できる。ダーヴィスが手を抜いていたため大丈夫かもしれないが、先程ネロを怒らせていたため代美には辛い状況となりそうだ。


「小鈴、とめるんだ!」


 ここで、ぼけっとして戦闘に参加していなかった小鈴が、嫌そうにも動く。鈍かったが、ダーヴィスにもう一度名を呼ばれるとビクリと体を揺らした。そして、子犬姿に代わってセンの前に立ち塞がる。これでなんとかなるだろうか。


「ネロぉ」

「倒してでも来い!」

「うぅ。小鈴ちゃん、ごめんね」


 それで黙ってやられる小鈴ではなく、体格さゆえか人間の形になった。ポカポカという効果音が似合いそうな叩き合いが始まる。センは【分裂】しないらしい。なんて程度の低い戦いだ。


 ノエルは気を取り直して、カカまで駆ける。体の負担はもう感じない。それよりもカカの沈黙が気になった。

 カカは【修復】に集中しているようだった。これまで傷をそのままにしていたが、流石に右手が腕の方まで裂けるのは看過できないらしい。到着するまでに、その傷だけはなくなった。それでももう終わりだ。試し切りはもう十分なのである。


「やはり強いな」


 複雑な思いが籠っていても、偽りのない言葉だった。ノエルにとって強さを認められるのは嬉しいことである。それはヒトカゲでも倒す相手でもだ。

 でも、カカは憧れの相手として役不足だったよ。



 ノエルの足元から、影が這い出た。足を絡めとろうとするので跳躍する。固まって動けないカカに、刀を振り下ろした。背後でキインと大きな音が立つ。

 そのせいで刀が鈍った。肩から胸まで切り裂いて、カカの掴みこんできた手もあり勢いが止まる。ノエルは柄をしっかりと持ち、カカの体を蹴り飛ばして後退する。その中でも追撃はされて、天井や地面から杭が乱出される。どちらもネロによるものだった。


 ノエルは更に大きく後退することになる。先ほどの音の正体は、壁に突き刺さっていた大剣がノエルに向けて投擲されたのを、鎖鎌により軌道をずらしたためらしい。今はもう大剣はカカによって拾われ、代美は鎖鎌を手に戻している。

 まだ距離のあるところでの出来事だったが、跳躍して空中していたときのため危うかったかもしれない。


「協調性!」


 久しく聞いていなかったことを代美が言う。拒否は許さないと強い目力だ。


 ネロの攻撃のせいで入り混じった戦いだった。小鈴とセンを除いた三か所から二か所となって派手で、主に杭打ちのせいである。


 一応、助けになったから。


 ノエルも代美を助ける番になる。

 右足を強く地面に擦り付け、無理矢理停止する。その最中にも方向を変えて駆ける後ろを、杭が無意味に生えた。横はダーヴィスが通り過ぎる。


「俺を殺すとセンが悲しむぜ」


 それがなんだ。


 ネロはカカよりも技術が優れ、頭も回る。それでも【浸蝕】も【浸蝕】も超え、一撃を喰らわせた。まず簡単に腕を斬り落としてみる。それは初めて出会ってカカにした、同じ攻撃だった。


 ヒトカゲにとってそこまで大きな痛手ではない。それをネロは大げさによろけて見せて、叫んだ。


「逃げろ、カカ!」


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