第四十三話 情報収集
なんだか大所帯となった。ノエルは遅めの昼食を次々と口の中に放り込み、もぐもぐと噛み締める。
子犬の小鈴から吸血鬼のダーヴィス、逃げた小鈴を追いかけてセンまで出会うことになった。連鎖的に巡り合うことになっていて、なんとも縁は不思議なものである。
次はセンが他のヒトカゲの元に案内してくれるらしい。ヒトカゲと分かっていて倒すことなく談笑していることはおかしな気分となった。
代美から情報収集のためだとこっそり言われたが、とてもそうには見えない。代美もダーヴィスも、人間と接するのと変わらない態度だ。
「へー、じゃあ代美は色んなところをいっぱい旅したんだね。いいなあ」
「なぜだ? センも旅をしていたのだろう?」
「そうだけど、大体人間がいないところだけだもん。町とか村とかはよくお留守番させられてね……あと、時々ネロいなくなっちゃうし! そしたら暫く帰ってこないんだよ。楽しいことをしているなら、誘ってくれたらいいのに……」
「ううん、センじゃあ危ないとかそういうのじゃないの?」
「ネロもそういうよ。でもあたしは暇だし寂しいし……危なくてもいいから一緒に連れていってほしい」
「そう思っていてもお留守番しているなんて、センはネロ想いだな。迷惑になると思って我慢しているんだろう?」
「うん」
「でもさ、センの考えもネロに伝えてみたら? そうだったんだって、色々考え直してくれるかもよ。連れていくことは無理でも、一緒にいる時間を増やしてくれるかも」
「そうかな。そうしてみようかな」
絶対情報収集のためだけじゃないだろうと思う。偽装だとしても真剣に相談にのりすぎだ。
そうだとしてもノエルになんら害はないので黙々と食事していると、ちょんちょんと足をつつかれる。小鈴だ。一膳飯屋と人の目があるので、机の影に隠れているのである。
じっと見つめられるが、ものを言えないので何を訴えているのか分からない。付き合いの長いダーヴィスなら違うかもしれないので、指差してそちらに行くように促す。無視して対処していたが、何度も突いてきてしつこかった。
もぐもぐしているのを非難された気がしたが、全部真っ黒で表情など見えないのだから違うだろう。
結局、小鈴は代美のところに行った。ダーヴィスには見向きもしなかった。
「なんだ、飯が欲しいのか?」
少し考えた後、人目を気にしつつ器ごと小鈴にやっていた。影に籠ったかと思うと、空の器を出してくる。
代美は流れるように頭を撫でてやって、器を回収する。
「ヒトカゲも食事が必要なのか?」
「必ずそうでもないかな。力を使いすぎちゃって疲れたなってときは食べるよ。あとはおいしいからね」
「ふうん。そうなのか」
センは当たり前のようにご飯を食べている。あれほど【分身】していたのだから必要なのだろう。
代美は小鈴のために、新たに注文していた。金欠なのに大丈夫なのだろうか。ダーヴィスに払わせるからいいのだろうか。
後そのことに気付いた代美は所持金を見て青ざめていて、ダーヴィスが気をきかせて奢っていた。ノエルの分もだ。お金の使い道がなかったらしくあり余っているらしい。
代美に分けてあげたらいいのに。そしたら金欠でおかしい頭がマシになる。
「ネロはねー、あたしを拾ってくれたんだよ。それから二人で一緒にいてね、名前も付けてくれたの。千あるほどにたくさん【分身】できるから、千ってね」
「安直な名付けだったんだね」
「ダーヴィスっ」
「分かりやすくていいでしょう?」
代美が小声で叱るが、小鈴は気にすることなく笑顔でいる。
そんな感じで情報収集を進めていて、ノエルが話半分にも重要そうなところは聞いていた。
問 ヒトカゲが人間のことが好きだから襲っていると聞いたが真実か?
答 そうみたい。あたしも人間大好き!
問 ネロ以外にもヒトカゲの居場所を知っているか? 特に理性あるヒトカゲとか。
答 ネロと一緒にカカちゃんもいるはずだよ。その理性? もある! 他の子にもあったことはあるけど、今どこにいるかは知らない。
問 カカちゃんって?
答 小さくてかわいいヒトカゲ! 生まれたてだよ!
問 ネロってどんなヒトカゲ? 性格とか、何が好きで嫌いとか。
答 優しい! 面白いことが好きで、嫌いなのは……聞いたことがないかな。
ノエルにとっては期待外れであった。優しいというネロでは、戦ってくれそうになく、その場合ノエルは代美に止められる。カカはどうかは知らないが、生まれたてといえば弱いだろう。
労力に対し、無益なことばかりしていた。どれもこれも、ヒトカゲの出現が減少していることが悪い。根本的な原因がそれで、いつになったら元通りになってくれるのかと思う。元通りといっても、ノエルの知っているのは増加していた時期ではあるが。あのときはいっぱいヒトカゲを斬れて良かった。
情報収集していると小鈴も好気心強くこちらのことを聞いてくるので、聞き話すの釣り合いが丁度よい塩梅となっていた。
打てば響く会話であったが、次の問いで途切れることになる。
「センは……私たち灰身上のことをどう思っているんだ?」
ノエルは憧れについて考えていたが、暗く緊張した雰囲気により注意を向ける。
躊躇いながらも、切り込んだ内容だった。代美は強い眼差しではないものの目を合わせようとしていて、小鈴はパチリと瞬きする。
「どうって?」
「……小鈴の同族であるヒトカゲを討伐しているについてだ」
「それは……恐いって思っていたよ。今でもそう思ってる」
「そうか」
「でもね、同じ灰身上でも代美とダーヴィスと、あと……ノエルも違うでしょ? あたしを倒そうとしなかった」
今はそうだ。この先倒すことになるかもしれない。
だが、代美とダーヴィスは辛そうに表情を歪めていて、そんなことを思っているのはノエルだけのようだ。二人とも小鈴に絆されていそうである。
もしそうだったら、ノエルが素早く倒してしまおう。それは二人の代わりにするのではなく、ノエル自身のためである。今のノエルはヒトカゲ斬りに飢えていた。
「ヒトカゲはね、皆いい子ばかりじゃないの。悪い子もいるから、皆倒さないといけないってなってる。仕方ないのかなって思うけどそんな誤解がなくなって、あたしたちみたいに仲良くできたらいいよね」
ノエルはそう思わない。仲良くしたら斬り合いが、憧れをなすことができなくなる。
だが、それとは別に少しはそんな人間がいてもいいと思った。ちらりと代美を見る。いい子すぎると、ぐすぐすと鼻をすすっている。情に厚すぎるのも問題だな。
のんびりと話しながら案内されるので、目的地までは時間がかかった。山奥だったから尚更だ。初めて出会った理性あるヒトカゲも山であったし、潜む先として人気らしい。
疲れたのか気紛れなのか、影の中にいて出てこない小鈴と異なり、センは朝も昼も夜でも活発的だ。
案内は日の高さに関係なく、速度はともかく前には進む。目印となる高い木を探して、木によじ登りもする。
「あれ? いないかも……」
到着までもう少し、というところでセンは走り出した。慌てて一同は追いかけるも、直ぐに立ち止まることになる。
「あれー?」
「セン、突然どうしたんだ?」
「前はここにいたんだよ。でもいなくなってる。そう遠いところにはいないと思うんだけど、どこだろう……」
辺りを見渡しながら表情を曇らせているセンを、代美が慰めていく。その間にノエルとダーヴィスは探していく。小鈴は影から出てきて、手伝いはしないが目を擦っていた。
茫茫と好きなように草生していて、木々も乱立している。
先は見通せなくて、ヒトカゲがいそうなところをよく見ていると、ガクリと体勢が崩れる。危ない。地面が窪んでいて、足を取られそうになった。両足でしっかりと立ちつつ、声を上げる。
「見つけた……かも?」
ノエルが足を取られたものよりも大きな、崖のような窪みに洞穴がある。どうにも怪しい。
代美に手を繋がれているセンに、洞穴のことを言うと顔を明るくする。やっぱりそうらしい。
ダーヴィスと小鈴も呼んで洞穴に入る。そんなときにノエルはセンに名を呼ばれた。
「なに」
「その、誤解があったからだと思うけど、ノエルもちゃんと謝った方がいいかも」
「なんで?」
まず誰にだ。
軽く眉を潜めると、多くの言葉が抜けていることに気づいて捕捉される。
「ノエルはカカちゃんに会ったことがあるの。それで殺されかけたみたいだから……」
「そう」
全く心当たりがない。得意の返事だけはしておき、今度こそ洞穴に入る。ダーヴィスはおらず、先に行ってしまっていた。出遅れている。
そして邂逅する。強烈な殺気に、肌が粟立った。自然と刀を構えることになり、その事実に少し口角が上がる。
両刃の大剣を苦もなく持っていた。肉つきのよい高身長の女で、次第に濃密になっていく殺気に合わせて肌が黒くなっていく。影に侵食されているかのようだった。
カカというヒトカゲには全く期待していなかった。だが、実際はどうだ。
嬉しくなってしまうほどの戦闘意欲があり、なにより強そうである。人の姿を取れているし、ネロと何事か喋ってもいた。
「私を覚えているか?」
「知らない」
だから早く始めよう。ノエルからはできないから、カカから仕掛けてきて。
早く早く、と心が浮き立っていた。限界がないのか、膨れ上がった殺気を叩きつけられる。地面が揺れるほどの踏み込みの後、大きく長い刃だからあっという間に眼前に迫る。




