第四十一話 同族喰らい
「センは小鈴と遊ぶ前は何をしていたんだ?」
「一人遊びだよ。つまんなかったから、小鈴ちゃんや代美たちと会えて良かった!」
「その前は? ネロとかいう仲間がいるのだろう?」
「うん。よく一緒に色んなところを旅していて、でも構ってくれなくてね。外で遊びに出て……そろそろ帰らないといけないかなあ? もっと皆と遊びたいのに……」
「遊ぶことはできないが、それならネロの元まで送っていこうか。その間にお喋りでもしよう」
「いいね、それ! けっこう距離があるからね、いっぱいお喋りできるよ!」
それはとても好都合だな。
センは人間に警戒心がなく、無邪気で明るい性格だ。遊びに夢中な子どものようで、罪悪感に目をつぶれば情報収集しやすい相手である。
ヒトカゲと見過ごせないことから勝手に話を進めたが、ダーヴィスはこくりと頷いてくれる。センの手前、言葉にすることはできないがついてきてくれるらしい。
そのネロはヒトカゲであるだろうし、センのように好意的な相手ではなかった場合に備えてダーヴィスがいてくれることはありがたかった。小鈴が見つかったからさようなら、と薄情にも別れることがなくて安心である。
ノエルについてはそんなネロの存在によってやる気十分である。いつものように無表情でいるが、そんな感じがするというか推測できる。ノエルは不満の方が表情に出るので、何もないのならばそう外れていないだろう。
「んー、今はお昼かあ」
「戦と――遊んでいる間に、結構時間が経っていたんだな」
日は真上を通り過ぎて、傾いている。決して遊びではない激しい戦闘だったこともあり、お腹空いたなあと呑気にしていたら目を剥いた。センがいなくなり、その代わりに少女がいる。
「皆どうしたの? 行かないの?」
少女は首を傾げる。目が大きく、可愛らしい相貌をしている。聞き覚えのある声と見覚えのある体型と菅笠を被っていることで、察せざるを得なかった。
「…………センか?」
「そうだよ?」
「その姿は……?」
「ヒトカゲの姿だと目立つでしょ? 元の方が良かった?」
パッと色が全て黒くなる。うん。センだ。なんてことだ。
「小鈴がいるから僕は人並み以上にヒトカゲについて知っているつもりだったけど……驚かないあたり、代美とノエルは僕以上だね」
「いや、流石にこれは新事実だぞ。驚きのあまり絶句しているんだ」
重大なことを知ってしまった。ネロの元にいく危険を冒すのをやめて、この情報だけでも持ち帰れるぐらいである。どこかで文にしたためて、本部に送っておくべきだろうか。
ヒトカゲが人間に化けることができる。これは人間社会に紛れられるということだ。人間だと思っていたがヒトカゲの可能性がでてくる訳で、その危険性から冷や汗が流れる。
「ねえ、服はどうしてるの?」
「影の中に仕舞ってるよ。ほら」
「わあ、ほんとだ。一瞬で着替えられるなんて凄いね」
「えへへー、そう?」
「そうだよ。でも菅笠はなんで被ったままなの?」
「お気に入りだから! あとはー、区別するためだっけ?」
「区別? ヒトカゲの中で?」
「そう。皆真っ黒だから、分かりやすいように!」
聞くべきことはそこじゃない。いや、確かに気になるところではあるがっ。
のほほんとしたやり取りに頭を抱えたくなってくる。
ダーヴィスは最初こそ驚いているが、その後は適応能力が高すぎやしないか? 何事もなく、仲良くなっている。ヒトカゲへの復讐心から、逆対応になるよりはマシではあるが。
ノエルはボケッと突っ立っていることもあり、警戒している代美が馬鹿みたいだ。
「飯にするか……」
「ん」
素早い返事である。
食べるものを食べて、ネロに対する備えをしよう。ゆっくりして、精神的な疲れもとりたい。
*
【投影】によりカカは言葉が流暢になって、人間の色を獲得した。結局、その原型となった灰身上の女に瓜二つだ。
恨みを買うことになるのでちょっと違った方が良かったが、ヒトカゲにとっては似ない方が難しいのである。光の加減によるが、影は像の形や動きにそっくりそのまま追従する。ヒトカゲは影に連なる存在であるから、その特性を引き継いでいるのだ。
「ノエルのような強さが欲しい」
カカはそう言ってのける。どんな強さになりたいのかその方向性を訊いたのだが、なんて欲深い。
「どんな苦労を呑み、厭われようともか?」
「そうだッ」
それでこそ魔改造しがいがある。
馬鹿にされたとでも思ったのか、腹を立てている様子はまだまだ幼さを感じさせる。なんせ理性が芽生えた日を年の数え始めとするならば、生後一歳にも零歳一ヶ月にも満たないのだ。
それを考えると感情を押さえられている方である。ヒトカゲと人間の発達速度に照らし合わせるのならば。
ネロは上機嫌になって、自身の影の中を探る。色々と収納でききるのは、荷いらずで両手が空いて良いことだ。だが、技量を必要するのはともかく、体力を消耗するのでそう多くは待ち運べない。運びたくない。
現在のネロにとっては尚更である。カカにとっては復讐相手であるノエルに、分身体を【修復】不可能なまでにばっさりと斬られてしまったのだ。半身だったために、そのまま力半減である。
ヤられてしまってからなるべく力を使わないで溜め込んでいるが、半分も回復していない。半身には力を分け与えすぎていた。それを存分に生かし、二手に分かれて好きなように行動していた中でのノエルらの遭遇、ヤられての現状に繋がる。
ノエルというとびきりの情報により、そのことは後悔していない。戦闘でも思うがままいたぶることができて中々楽しめた。
そんなネロにとって、邪魔でしかなかった大剣を取り出す。
「試しに持ってみろ」
「これを使えというのか?」
「ノエルのような強さが欲しいんだろ?」
「それは例えで、人間のように武器で戦いたいのではない」
「武器は力の弱さを補う、未だ淘汰されていない人間の知恵だ」
「……」
「刀だったら元となった灰身上と同じだからな。大剣にしたんだが……どうやら、さっきの言葉は嘘だったんだな」
失望の色を見せる。演技だ。言葉だけのヒトカゲだとは思っていない。
煽り立てるのは無自覚であればタチが悪く、自覚あればよりタチが悪く楽しめて、相手を奮起させる。
「嘘ではない」
熱のある瞳で、大剣を持つ。日本では刀が主流なので、海外から手に入れてきた。
ネロは全てのヒトカゲの味方だ。ちょっと前までは大層暇だったため、弱きヒトカゲが望むなら育成をしていた。
だからこの大剣はカカのために特別に用意したものではない。倉庫品から出してきただけだ。
カカに見合ったものではないので、現にふらついている。だが、しっかりと大地に足をつけ、構えてみせた。
「重たいだろうによく持てるな」
「お前が持てと言ったのだろうッ」
「後の確認のために必要だと思ったからだよ。だからもう下ろしていいぞ。次はこれだ」
同じく影から取り出していたものを雑に投げる。その扱いとは無縁に貴重な貰い物なのだが、このぐらい受け取れなければならないからそうした。
「食べろ」
それは外も内も真っ黒で、ほんのりと暖かみがあって、時折動きもするものだ。多少は見覚えがあるだろう。カカ自身とかネロとかセンとかそのものである。
「これは」
「知らない方がいい」
詳細を知ったら面倒だし、他者だけでなく自身までも厭うことにはならない。
カカは察しがいい。弱いから、身を守るために秀でることになった。
一口でいったな。
躊躇いつつも大口で、咀嚼はすることなく嚥下してしまう。噛んだ方が【吸収】しやすそうだったが、実際はどうか知らないので黙っておく。
「同族喰らい」
きっと今は苦しくて苦しくて仕方ないだろう。それを逃がそうと、カカはのたうち回っている。先程までは力強く立っていた大地の上を転がりこみ、どうにか手で口を押さえて吐き出してしまわぬよう耐える。色を維持することなどとっくにできないでいて、そこに人間の女はいなかった。
「よっこらせっと」
少しでも負担を減らすために、日の元から隠れられる洞穴に移動する。脇で抱えこんだが暴れていて、痛みは発生しない。人間に扮している状態のネロでも、打撃系は効かないのである。
元々近い場所に位置どりしていたので移動はすぐ終わる。ここならセンが帰ってきても気づくことができる。




