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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第二章 下下は咆哮せよ、運命は巡る
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第四十話 楽しい遊び

「この中かな」


 ダーヴィスが足を止めたので、その洞穴を皆で覗き込む。


 小鈴は村から結構遠くまで逃げ出していた。理由として、ダーヴィスのノエルに対する応戦を挙げる。加減したらやられるかもしれないことで、小鈴への枷を緩くせざるを得なかったのだ。その結果、移動範囲が広くなってしまって、そのことに気付いた小鈴は限界まで遠ざかっていた。

 ただ応戦が終わり誤解は解けたことで、接近に伴って移動範囲を徐々に元通りにしていた。代美とノエルの手もあるので、これで取り逃がすことはないという。


 洞穴は先を見通せないぐらいに暗かった。断続的に音がするが、反響してしまって聞き取れない。


「ちょっと待っていろ」


 代美は荷から、柄があるぶら提灯と火打ち袋を取り出す。


「持ち歩いているの?」

「備えとしてな」


 荷でいらぬものを減らすのは、旅をするのに常識である。かさばるので以前の代美ももっていなかった。

 実はこれも武器として買い揃えたものなのだ。現在持ち歩いている鎖鎌と、もう残りであったぶら提灯である。本来の用途と異なる機能が備えつけられているが、提灯なのだから普通に明かりとしても使える。


 火打石を用いて火縄に火をつけ、蝋燭へとうつす。


「先導するから、僕がもつね」

「ありがとう」


 ダーヴィスにぶら提灯を預ける。


 洞穴を照らすことで、視界を確保できた。相変わらずその先までは見通せないが、ダーヴィスを頼りとして後を続いていく。音の発生源が近くなってきて、それは足元に転がってきた。


「なんだこれ……っ!?」


 もぞもぞと動いているのはヒトカゲだ。唐突で、しかも子犬姿でなく人型だったことで驚いてしまった。

 姿は一定でなく、変えられるのだな。捕獲しようとして、ダーヴィスに肩を押さえられる。


「小鈴じゃない」

「なんだと? じゃあ、このヒトカゲは……」


 そのヒトカゲと顔が合う。真っ黒で目はないので、そう表すしかない。つまり目が合うと、あわあわと慌て始めた。

 ノエルは冷静に刀を抜くが、代美と同じようにダーヴィスに止められる。


「ちょっと待って。様子をみよう」

「なぜ」

「ほら、小鈴の友達かもしれないし」

「友達だから斬らない訳にはいかないと思うが……もしそうだとして、小鈴が暴れることがないようにしておきたいな」


 不満そうだが指示に従ってくれる。融通が利くようになったなあ。


 ヒトカゲは襲ってくることなく、奥に逃げていった。ダーヴィスが進み、奥を明かりで照らす。その光景に、あんぐりと口を開けることになった。


「はあああああああああああ!?」


 なんだ、これは。


 物凄い数のヒトカゲが山のようにいる。思わず大声を出してしまったことで、蠢いていたヒトカゲが一斉に代美たちを見る。


「代美」

「戦わないぞ! 逃げるんだ!」

「あ、小鈴いた」

「ダーヴィスもなぜそんなに呑気なんだあああああ!」


 これだから非凡は!

 まだ襲ってこないことをいいことに、ダーヴィスはヒトカゲに歩み寄る。刀を抜くなど、すぐさま戦える準備もしていない。ノエルをあしらえる実力を持っているのは分かっているが、それでも無謀すぎるだろう。恐れ知らずなのか?


「僕はダーヴィス。君達は小鈴の友達かな? 僕は保護者みたいなもんで、引き取りに来たんだけど」

「小鈴?」


 ダーヴィスの呑気さも、ヒトカゲからの返答には対応しないようだった。

 小鈴を除いたヒトカゲは全て子どもの大きさなのだが、その内の一体が菅笠を被ってとことことやってくる。その途中、子犬の小鈴を腕に抱きあげた。


「小鈴ってこの子のこと?」

「あ、ああ。そうだ」


 ダーヴィスは固まって動かない。恐る恐るといった挙動で引き渡してくれるのを、代美が応じることになった。理性あるヒトカゲによって、喋るヒトカゲに耐性があるからだ。小鈴は大人しくされるがままなので、すんなりと事が済んだ。

 ノエルが代美の裾を引っ張って、もういいかと訴えてくる。代美は首を横に振った。


 ヒトカゲなので放置はできない。だが、話が通じるヒトカゲなので、情報収集はしておきたい。以前は仕方ないとはいえ倒すしかなかったので、報告された本部長は惜しんでいた。


「……もう行っちゃうの?」


 なにより寂しそうな態度である。代美は折れた。ヒトカゲ相手なのに、折れてしまったのだ。


「小鈴と遊んでいたのか?」

「そうだよ。あなたたちは……灰身上?」

「知っているのか?」

「うん。あんまり恐くないんだね」


 ぴょんぴょんと跳ねながら近づいてくるので、思わず退いた。流石にヒトカゲに襲われないか不安すぎる。

 それが伝わったようで、その場に立ち止まる。俯いてしまったことで、悲しんでいることが分かってしまった。代美としては罪悪感が募るばかりである。


「お前は……」

「あたし、センだよ」

「……センは、私達人間を襲わないのか?」


 前の理性あるヒトカゲは、人間が好きだから構って欲しくて襲うのだと言っていた。それは本当なのか。そうだとしてもセンは例外なのか。


「襲わないよ」

「一度たりともないのか?」

「うん。人間にはまだ会っちゃ駄目って言われているの。だから、お姉ちゃんたちとお兄ちゃんが初めて会うし、本当は駄目なことで……」


 菅笠で顔を隠しながら、ぶつぶつと呟いている。ダーヴィスはそこで復活を果たした。


「夢かな」


 違った。まだ頭の回転が鈍いらしい。


「現実だぞ」

「……そっかあ。じゃあ、小鈴も頑張ったら話せるのかな? あ、僕が預かるよ。小鈴、おいでー」


 代美の腕に抱かれている小鈴は、ダーヴィスの手を払った。


「……小鈴―? おいでふう!?」


 腕から抜け出したかと思うと、ダーヴィスは地に伏せることになっていた。小鈴はその上に載って、思いっきり飛び跳ねている。その姿は人型だ。四、五歳ぐらいの見目だとはいえ、着地する度呻いていて痛そうである。

 しばらくして、満足そうに腹の上で仁王立ちしている。ダーヴィスはちゃんと生きていたようで、震える手を小鈴に伸ばした。


「こ、すず……うぎゃ」


 顎を蹴り上げられて、沈没する。あまりの容赦のなさに、代美は戦いた。


「ダーヴィス、お前……めちゃくちゃ嫌われているな」

「照れ隠しだよ……」

「いや、それはない」


 断言できる。小鈴はダーヴィスを欠片も好いていない。



「決めた」


 センの声で、はっと緊張感を取り戻す。


「会っちゃったのはしょうがないよ。ネロに怒られるけど、誤ってくれれば許してくれるよね。だから――」


 とても嫌な予感がする。山のようにいるヒトカゲは再び蠢き始めていた。

 反射的に刀の柄を掴む。慣れのせいで鎖鎌でなかったが、洞穴と空間が限られているのでその方がいいだろう。


「せっかくだし、いっぱい遊ぼう!」


 センばかりに警戒していたのが悪かった。小鈴がヒトカゲの山につっこんでいく。子犬姿でないので、小鈴の方が小さい以外に違いがなくなってしまっている。真っ黒な容姿のため、区別は困難だった。


 そして、ヒトカゲの山が一体一体と崩れていく。向かう先は代美たちで、ひいぃと悲鳴が漏れた。ノエルがいつもより声を弾ませる。


「斬るしかない」

「小鈴は斬らないようにね」

「あぁ、やるしかないのか……」


 二人がこんな感じなので、代美だけ逃げるわけにはいかない。あまりの物量に、ちょっぴり泣きたくなってきた。



 ヒトカゲの襲うは、代美の考えていたものと差異があるらしい。

 まるで押しつぶす勢いのヒトカゲに、ノエルが先陣となって刀で斬って灰となす。代美も這いよる個体を斬りつけた。ノエルだから簡単そうに見えたのかと思ったが、そうでもないらしい。手ごたえのない強さで、代美でも十分に渡り合える。


「お姉ちゃんたち強ーい! あたしも負けないぞー」


 ヒトカゲの勢いが増す。飛び掛かってくるのを防ぐが、いくら一体一体が弱くとも数で押され、ついには腕をとられた。


「うわっ」


 右も左も上も下もどんどんやって来るので、腕のヒトカゲにだけ構ってはいられない。

 腕を振れば、手が離れて壁にぶつかっていた。本当に一体一体は弱いな。それに攻撃といえる攻撃はしてこない。


「これ、全部あの子の分身体かなあ」

「そんなことが可能なのか?」

「現にそうっぽいからね。皆同じ体形だし」


 ヒトカゲの特性に【分身】があるが、普通は一体二体だ。センは理性があって対話でき、その他の能力も優れているらしい。子どもの見た目だからと侮っていたつもりはなかったが、代美たちが刀を振り回していてもまだ遊びの延長線でいられることに心底良かったと思う。


 小鈴を除いた全てのヒトカゲが分身体とするならば、全てがセンだということである。分身体は各々違った動きをして自立しているが、弱いし大雑把な動きしかしない。代美たちの元に行けとでも指示しているのだろうか。

 センは押しつぶしが人間にとって脅威だと分かっていない。殺す意図はないようなので、この遊びはセンを倒すか、満足してもらうまでは終わらない。


 後者に関しては基準が分からない。どの程度で満足するのだろうか。分身体を全部倒せばいいのか? いくら斬っても、最初の量から変わらないように見えるぞ。


 話が通じたことで気が引けるが、本体を倒すにしてもどこにいるのかは数の多さ的に不明である。とにかく必死になって目の前のヒトカゲを斬ったり投げつけたりしていると、「わあっ」とダーヴィスの声が上がった。目だけを向ければ、動きが異なるヒトカゲが正に襲い掛かっている。小鈴だ。


「ダーヴィス!」


 代美では助けにはいけそうにない。ノエルもだ。現状互いに背を向け合って目の前のヒトカゲを斬り続けているので、助けにいったら穴を空けることになる。そしたら背後にも気をつけないといけなくなるので、自力で解決してもらわなくてはならない。


 それはできるのか。小鈴に嫌われて遠慮ない攻撃に合わせて、分身体の対応だ。


「小鈴。おいたがすぎるよ」


 通常と変わらぬ声の調子で、刀を煌めかせていた。一瞬で分身体の五体は消え去っている。そんな空いた空間で、小鈴は不自然な格好で動かないでいた。襲い掛かる寸前だったのに、なぜ。


 とはいえ、悠長に考える暇など代美にはない。過程でなく、結果を求める。


「どうなった! なんとかなったのか!?」

「うん。もう大丈夫だよ。だから好きにやってくれていい」

「ん」


 ノエルの前方のヒトカゲの固まりが吹っ飛ぶ。小鈴がいたことで力を押さえていたのか。


「本体は倒さないでくれ」

「……」

「分身体なら全部倒してもいいぞ」

「そう」


 若干とはいえ、微笑んでいるなんて珍しい。

 ノエルは刀を鞘に収める。ヒトカゲが間近まで迫って、一閃。灰が降り注ぐ中を、前に突き進んでいく。


「いきいきとしてるなあ」


 ノエルが次々と倒しに向かったので、喋れるぐらいの余裕が生まれていた。その流れでノエル無双に任せてゆったりしているダーヴィスと尻を地面につけてちょこんと座っている小鈴を見る。ダーヴィスはそんな感じでも戦っているのだが、小鈴は眺めているだけだ。


「なんだか拗ねていないか?」


 小鈴がそう見えて仕方ない。


「縛ったせいかな」

「つまりなんだ?」

「小鈴の意思に関係なく、動けないようにするんだよ」

「そんなことができるんだな。……どうやって?」

「気合かなあ」


 なんとなくで小鈴を自身の影に縛り付けた男であるので、返答は期待していなかった。どうせ代美にはできぬことだ。


 ノエルに任せっきりにするのはなんなので、(本人にとっては嬉しいことだろうが)代美とダーヴィスも次々と刀を振るっていく。分身体が数えられるほどに減って気付いたが、菅笠を被っている個体が見つからない。洞穴は小さいので、行き止まりとなっている。

 どこに隠れたのだろうか。それとも菅笠を外して分身体と紛れていたら、判別はつかないぞ。小鈴のときのように動きの異なる個体はいない。時々センのはしゃぎ声が聞こえるので、逃げてはいないだろう。【隠】によって影の中にいるのだろうか。


「セン! どこにいるんだ!」


 両手で数えられるまで減らしたところで叫んでみる。反応はない。分身体だと思って、実は倒していたとかはないよな? 

 本体を倒して、分身体が動くことはないはずだ。そう聞いているが、あってもおかしくはない特殊なヒトカゲである。焦っていると、「えいっ」と元気のある声。


「代美!」


 声は背後から聞こえた。振り返りながら刀を振ろうとして、先に分身体と同じように飛び掛かってくるセンを見ることになる。きっと、ここが分かれ道だ。

 代美は刀を離した。からんと音が立つ中、代美は両手を広げる。そのときの表情は引き攣っていたに違いない。


 灰身上としては馬鹿なことをしている。大いに自覚がありながら、センを受け止めた。くるくると回って、勢いを殺す。


「えへへー」

「どうだ。もう満足だろう」

「うん! 楽しかったあ!」


 代美は肉体的にも精神的にも疲れてしまって、地面に座り込む。頬をすり寄せてきて、ぼーっとしながら頭を撫でてやる。


 分身体はもういない。最後はノエルが終わらせた。

 羨ましく思ったのか小鈴も寄ってきたので、センと同じことをしてやる。蹴られることない。嬉しそうにしていて、その様子をダーヴィスが眺めている。多分、お前では嬉しそうにしないと思うぞ。子犬姿で子どもと触れ合っていたこともあるし、ダーヴィスだけがとても嫌われているのだろうな。それ以外の人間には好意的なのだろう。


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