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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第二章 下下は咆哮せよ、運命は巡る
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第三十七話 吸血鬼

 代美は手持ちの金銭を数えて渋面となっていた。吸血鬼探しは聞き込みの成果もあって、その足取りを確かに追えている。吸血鬼は隠れて行動することはなく、その容姿が人目を引くから順調なのだ。

 ただ追いかけるだけにも時間はかかり、その分費用もかさむ。吸血鬼は拠点をもたないのか、歩き回っているせいで尚更だった。


「ヒトカゲがいないせいで、討伐を頼まれないからな。金が消える一方だ」


 そういうことは一切合切任せているノエルなので、一生懸命悩むのは代美の役割となる。他人事なのが気に食わないのか、文句を言ってきた。


「ノエルが食べすぎなのも影響しているんだぞ」

「そう?」

「ああ。食いしん坊の分類に入るんじゃないか。そのぐらい食べているんだからな」


 ノエルとしては目の前に出されたものを食べていただけなので、自覚はなかった。


「代美がいっぱい作ったり、注文するから」

「私のせいか? だって、少なかったら物足りなさそうにしているじゃないか」

「してない」

「そう否定しなくともいいぞ。食べ盛りの時期なんだろうから、いっぱい食べてその分成長すればいいんだ。そういえば、ノエルは初めて会ったときより多少は大きくなったな」


 体は細いままだが、とじろじろと見たり、肉付きを触って確かめられる。ちょっと鬱陶しくなって、同じ仕返しとして二の腕をつねってやる。うぎゃっと変な悲鳴を上げていた。

 別にノエルほどではないにしろ、太ってはいない。そこまで驚かれるとは意外だ。


「乙女だからな」

「そう」

「……ノエルもだからな? もっと興味を持った方がいいぞ。いくら見目が良くても頓着すぎては、嫁の貰い手がなくなる」

「ん」


 適当に分かったふりをしておく。それが察しが良くてバレてきたこの頃だから、盛大な溜め息をつかれた。




「吸血鬼と言われている人を探しているんだが、心当たりはないか? 蒼白の痩せた男で、八重歯が特徴的らしい」

「吸血鬼かどうかは知らないけど、そんなような奴ならさっき見たぞ」

「なに。どこに行ったか分かるか?」

「あっちのほうだな。変な奴だったし、よく覚えているよ」


 村に入って直ぐに聞きこんだ朗報だった。本当につい先ほどだという。ようやく探索の終わりが見えた。

 影の有無に関してはなかったら気付くものだと言われていたので、ノエルにはそこまで気合いが入っていない。代美は人間であっても、人々の不安を払拭できることを目的としているので、意気軒昂としていた。


 あっちと指差された方向に少し歩けば、なにやら人が群がっている。


「あそこに吸血鬼がいそうだな。それにしても不穏な雰囲気だ」


 確かに、遠巻きからでもそう見て取れる。


 そこから駆け足でやって来た子どもらがいた。後ろを警戒していて、逃げてきたという感じだ。ノエルと代美に気付いたのはほど近い場所になってからである。後ろばかりで、前が疎かになっていた。


「その羽織……灰身上?」


 灰身上の証とあって、灰色の打裂羽織は他者からは分かりやすい。こうしてヒトカゲ討伐を頼まれたり、その親切さを勘違いして問題事を頼まれたりもするのだ。


「なあ、灰身上だったら、あいつをやっつけてくれ!」


 必死な表情で少年が頼み込み、その後ろでは一人の少女を子どもらが囲んでいる。


「あいつとは誰のことなんだ?」

「吸血鬼だよ! あいつ、影がないんだ!」

「この子を寄こせって言ってきたの。嫌だって言ったら、無理やり奪おうとしてきて……」


 それは守られているような立場の少女かと思ったが、違った。少女の腕の中には小型の黒犬が抱かれている。つぶらな瞳で、世にいう可愛らしさを訴えていた。。


「きっと食べようとしていたんだ!」

「血でも吸おうとしてたのかも。ヒトカゲと同じ化物だよっ」

「助けて! 今はお父さんたちが足止めしてるから、早くっ」

「分かった。このままお前たちは安全な場所に移動しろ。ただ、その子犬は私達に任せてくれないか?」

「……なんで? 俺達がこいつを守るから、早く吸血鬼を倒しに行ってくれよ」


 早く吸血鬼の元に行かないのかと不思議だった。代美は警戒する子どもと睨み合うことになっても譲りはしない。ノエルは子犬をより注意深く観察してみた。

 すると、それまで大人しかった子犬が暴れ出す。抱えていた少女がわあっと悲鳴を上げて、取り逃がしてしまった。


「ノエル、捕まえろ!」


 もうやっている。


 代美が子どもに塞き止められているので、助力は期待できそうになかった。

 それにしても捕まえろか。殺しては駄目なのだろうか。

 子犬は小さい上にすばしっこい。ジグザグに動き回るし、そのうち物陰に逃げ込まれてしまいそうである。そうなる前にと小刀を抜く。一応配慮して鞘の方を投擲し、見事直撃した。


 だが、この子犬は一瞬怯んだだけだ。痛みなどないと、動きも変わらずである。人間でもないし、もう配慮なんていいやと次に小刀を投擲する。なんか代美が叫んでいるが、わあわあという子どもの声と混ざっていて聞き取れない。

 投げ終わっているし手遅れだ。お叱りの言葉なのは察しがついているノエルだった。


 その小刀だが、当たりはしなかった。ノエルの腕が悪かった訳ではない。同じ投擲された小刀によって弾かれたことで、軌道を曲げられたのだ。

 これは代美ではない。手出しできなかったようで、子どもに埋もれているから無理だ。


 男がいた。話に聞いた通りの蒼白の痩せた男で、くぼんだ目の下にはクマができている。


「殺されたら不味いんだぁ。あれで死ぬとは思わないけど」


 のんびりとした口調だった。打刀を佩いているが、手にはかけずだらりと両手を下げている。ノエルは構わず、夢幻を抜いた。


「ええと、争うつもりはなくてね、子犬を傷つけられたくなかっただけだから……先に子犬を追いかけない? このままじゃ、見失っちゃう」

「もうなってる」


 妨害されたことで、子犬は身を隠してしまった。ここから探すのは一苦労で、この男のこともあるから優先順位は下がっていた。


「吸血鬼、合ってる?」

「そう呼ばれてるみたい……一応、こんななりでも人間だよ」

「影がない」


 顔の彫りや前髪などによる影はあるが、足元の影がないのは致命傷だ。


「これは…………えっと、」

「それに、子犬はヒトカゲ。違う?」


 ヒトカゲは人間の形をとっているが、極稀に動物のもいるらしい。確か、初めの頃代美が言っていた。


「そうだけど、それこそ簡単には説明できない話でね」

「そう」


 ノエルは吸血鬼の懐に入り込み、夢幻を振るう。咄嗟にも相手は抜き身の状態の刀身で、防いでみせた。


「わぁ、危ない……」


 そういうが、危機感は薄かった。もしあれば、殺気だっているノエルを前にして手ぶらと無防備の状態でいない。

 そのまま二撃、三撃と超接近戦をこなす。争うことになっても穏便に済ましたいそうで、鍔で鳩尾を狙われた。


 斬ることに特化したノエルだから、早々に不利を悟って距離を取る。刀の間合いで、自称人間なら害しても問題ないだろうかと今更に考えていた。


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