第三十六話 魔改造
「んじゃ、さっそく魔改造を始めるぞ!」
「いえーい! パチパチパチ!」
「……」
目覚めたばかりで世情に乏しいヒトカゲは、人間の姿に化けているネロとセンと寄り集まっている。自らを虐めたノエルに復讐する、その力を求めたからだ。
やけに高揚している気分の二人と差が出つつも、その胸に込められた熱意は一番高かった。
「と、その前にだ。不便だし、お前の名前を決めようぜ。まだないだろ?」
「ああ」
「何か好みなもんでもあるか?」
「そウだな……」
「ねえ、ネロが名前つけてあげたりしないの? あたしのときはそうだったよね?」
「センは俺にせがんだからだろ。そのときはまだ理性が乏しかったし、名前の必要性も分かっていなかったからな。俺が名付けることになったが、今から新しい名前にするか?」
「ううん。この名前好きだからいい! なんせ、あたしにピッタリな名前だからね」
「そうかそうか。センは俺を喜ばせるのがうまいなあ」
「えへへ……それで、どう? 名前は決まった?」
「カカにシようとおもウ」
「へえ。どういう意味があるんだ?」
「ノエルへのくつじょくヲわすれないよウにスるためだ。ことのハじまりはカラスだったから、そのナきごえからなまエにとった」
「いいじゃないか」
「覚えやすいしね!」
「んじゃ、改めて。カカ魔改造を始めるぞ!」
「いえーい! パチパチパチ!」
「……」
「カカちゃんも拍手! 盛り上がっていこ!」
「わたしノことは、カカでいい」
「ほら、カカちゃん。拍手拍手!」
「…………パチパチ」
「ここの用意したのは、一人の人間だ! とてもいきがよくて、暴れるかもしれないから気を付けろ」
影を用いて、人間の女を引っ張ってくる。
ノエルに次いでの唐突な人間の対面に軽く驚き、影を自由自在に操る手並みに感心する。カカもこういうことができるようになるのだろうか。
「ネロ。人間は大切にしなくちゃいけないんだよ? ネロもいつも言ってるよね?」
「そうだな。だが、こいつは灰身上で、察しが良すぎるもんだから俺とセンをつけてきたんだ。人間は大切だが、自分の身の上の方が優先だろう? 悲しいがとっつかまえなくてはならなかったし、どうせなら有効活用しようって思ったわけだ。人間もみすみす死ぬより、その方が嬉しいだろう?」
「うーん、そうかも? そうなのかな?」
「そうなのさ。よし、簡単に説明するぞ。カカには、これからこの人間を【投影】してもらう。主に、人間の姿をとれるようにするためにだな」
「そのひつようセいはあルのか?」
「その疑問は当然だ。正直に言うと、人間の姿を取れるようになって力が得られることはない。カカなら今の状態に色がつくぐらいだからな。だが、カカが俺達を人間と間違えたように、人間そっくりに化けることができる。つまり、人間社会にとけこめるって訳だ!」
「……ダからなんだ?」
「ぶっちゃけると、俺達の都合だ。魔改造だから短期間の特訓になるわけだが、そのときに人間に見つかったら面倒だろう? ヒトカゲは人間からしたら、討伐対象だ。面倒事の回避の他にも、ノエルに復讐するときに油断させて不意打できるし、活動範囲も広げられるようになる。カカ自身のためにも、ぜひ化けられるようになってほしい」
「わかった。……デ、どうやるんだ?」
「相手をよく知ることだ。ヒトカゲは基本、無意識に【投影】していて、だからカカはある程度人間の姿をとれている。それを意識的に行えば、もっと精密に、もっと早い速度で人間に化けられるって訳だ」
「……」
「抽象的すぎたな。つまり、やるべきことはこの人間をよく観察することだ。とにかく集中し、そいつのことだけ考えろ」
「かんたんそウで、むズかしいことをいう」
「まずやってみろ。口を動かしたって、力は身に付かないぞ」
「そのとおリだな」
「……」
「……」
「……」
「ネロー。あたし、飽きちゃった。見てるだけじゃつまらないよ。遊びにいっていい?」
「いいぞ。ただし人間に見つからないようにな」
「はーい」
「……」
「……」
「よし。化けるついでに、言葉も滑らかにするか」
ネロは人間の口を縛っていた縄を解く。
「お前らは、どうしたって人間になどなれはしない」
「……センにはきカせたくないわけだ」
「【投影】は俺のような、既に人間の姿をとっているヒトカゲにはどうしてかできないからな。それがヒトカゲの特性って言ったら終わりだが。ひねくれているが話の内容には気にせず、その発声の仕組みをよく見るんだぞ」
「化物め! 上っ面だけ人間に化けようとも、その本質までは真似できると思うなよ!」
「ネロ。このにんげんのせいりょウはオとせないのか。しゅうちゅウできない」
「なッ」
「我慢してくれ。まあ、こいつが言う通り、性格とかまでは【投影】できないんだ。灰身上は、というか人間がだな。仲間意識が強いから、他の仲間と出くわしたとき別人だと言い張るためにも、顔とか体つきは多少違っていた方がいいぞ」
「そうか」
「必ず私の仲間がお前らを見抜き、鉄槌を下す! お前らはそれまで虚しくも、人間の振りをして楽しんでおくことだな!」
「はいはい、そうだなー」
「死ね! この――、――ッ!」
知らぬ者からの暴言は特に何も感慨はない。ただネロがよく嫌われているなと思ったぐらいだ。
集中して、言葉をただの音のようにして聞いていく。一挙手一投足を逃さず観察していると、不意に視界が回転した。
「――?」
「ああ、疲れが溜まってたんだな。起こされてから休んでないんだから、そうなるのも当然だ」
誘導されて、カカは人間の影の中に入ることになった。こんなときでも【投影】らしい。その相手の影に潜みつつだと効率が上がるのだという。望むところだ。
やる気はあっても、意識は遠ざかる。ネロの独り言は大きく、限界まで耳にすることになった。
「お前は弱い。昼間に動けるから灰身上が定義する第二形態に分類されるが、本来なら第一形態だからな。だが、無理やり起こされて、理性が宿った。現状は、理性だけが特出した第一形態って訳だ」
「気張れよ。魔改造というが、お前の気持ちがあってできることだ。負荷に耐えきって進化はなる」
「俺はお前たちヒトカゲの味方だぜ。だからカカにだけ優遇し続けることはできないが――どうにかして、お前の復讐心が晴れることを祈っておく」




