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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第二章 下下は咆哮せよ、運命は巡る
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第三十三話 金策

 ノエルの身元調査に関して、実家の武家からも情報はもたらされていない。あるにはあったが、それこそ何も手掛かりも得られていないという内容だった。


 だからノエルを囮にするという言葉に眉を顰める心境ではあるが、何も手がない以上、それしか打つ手はない。

 以前とは反対に、ヒトカゲの出現は減少している。灰身上の手一杯だったのが暇に成り果てるぐらいだ。だから、囮として好き勝手に動くことができる。

 とはいえ、囮につられるヒトカゲがいるにしても、どこにいるかなど一切分からない。適当に歩き回る旅になることだろう。先生のときのように現地でヒトカゲ討伐と偽装しつつやっていくつもりだ。


 それにしてもあまりのヒトカゲの少なさと代美の未熟さゆえに、修行の旅となりそうだが。



 代美はノエルの隣に立つために、これまでと異なる方法を用いていくと決めた。戦闘面では作戦を立てて有利に戦闘を運んだり、搦め手や罠や道具を使っていったりと、手段を選ばないつもりなのだ。

 具体的な方法は、長い療養期間を有効に活用してリビーと考えだしている。差し当たって必要な武器を揃えていた。その中から厳選して旅に持っていくのだが、その一つが鎖鎌である。


 鎖鎌とは鎌に鎖がつなげられ、その末端に分銅もしくは鉄丸がある武器である。当然鎌で掻き斬ることができるし、鎖でもって相手の武器に絡みつけたり、分銅(代美の鎖鎌は鉄丸でなく分銅を選んだ)を撃って攻撃したりできる。

 そんな特殊な武器を、代美は将来の得物として選んでいた。


 理由の一つは鎌の斬撃性だ。ヒトカゲは殴打や刺突が利かず、斬撃が有効である。

 代美は武家の一人娘として、自衛とヒトカゲの脅威から数々の武器を習っている。柔術を扱えるのはそのためだ。その他にも刀から槍、薙刀、弓と様々に扱える。代美は実は多芸なのだ。その技量が高みにまで昇華できない凡人ではあるが、人並み程度の技量にはなる器用さがあった。

 鎖鎌は特殊すぎて扱ったことはなかったが、武家の表道具の槍や弓は刺突なのでヒトカゲには利かない。薙刀は薙ぎ斬るという形であるから、揃えた武器の中の一つにしてあった。ただ、荷物を減らすためにも旅には持っていかない。


 扱ったことのある薙刀を置いて鎖鎌なのは、理由の二つ目にある。鎖を用いた戦闘方法に価値を見出したのと、鎌による近距離の他に分銅の中距離があるからだ。

 分銅での攻撃はヒトカゲに効果は薄いが、効かない訳ではない。怯ます程度の攻撃力はある。ヒトカゲに殴打と刺突が効かないのは、打撃という衝撃に強いのと、刺突の一点突破は【修復】によって簡単に攻撃がなかったことにされてしまう。


 そんな訳で、鎖鎌の扱い方を旅の間にも習得してしまおうという腹積もりがあった。鎖鎌はその特殊さゆえに時間がかかるだろうし、だから修行の旅と称したのである。



 刀と共に鎖鎌も装備する。もう一つ武器なるものがあるが、活躍の場が限られるので他の荷と纏めてしまっておく。

 新たに揃えた武器は頼もしいものだが、目下悩みが発生していた。旅の荷としてはかさばり重いことは我慢すればいいし、戦闘の際は地面に置いておけばいいだけだ。

 だからもう一つのことで、代美は文字通り頭を抱えることになる。


「金が、ない」


 ノエルはその重要性を理解していないので、軽く首を傾げている。それがなに、とでも思っていそうだ。

 くそうと思わず汚い言葉で嘆きつつ、過去を振り返る。


 金がない理由は勿論、武器を揃えたからだ。実家を頼ってただで取り寄せたものもあるが、鎖鎌と他の荷に埋もれている武器はなかったことで購入した。それが代美の懐事情に直撃したのである。

 実家が高位武家なのだから、頼めば直ぐに解決する話だ。だが、武器を取り寄せただけでも自らを納得させる必要があった。一灰身上としては、代美の力だけで立ちたい訳で、実家の援助は拒否したいのだ。それが許されぬから本部長が色々と配慮してくれたし、今回も武器を取り寄せた際に大きな金も送ってきた。


 代美はとても葛藤した。その金に手を付けてしまおうかという誘惑に、いつもならば簡単にはねのけられただろう。だが今回は手持ちがすっからかんに近く、生活が困窮することは必須だ。長屋暮らしなら問題なかったが、旅に出るのである。

 灰身上の仕事をして稼ごうにも仕事はないと言われた。代美の出身と囮の件で本部長が手を回した結果だろう。手でなく、金が欲しい。まさか代美が金に困っているとは、本部長は思いもしないだろう。


 いやまあ、実際実家の金に手を付ければ困らないのだが、そこは融通のきかない自尊心である。あと考えなしに武器を購入した恥からだ。だって、リビーが勧めてきたんだぞ。乗せられて買うに決まっているじゃないかっ。



 結論、実家の金に手を付けた。友などに頼って借金生活を送る羽目になるなら、身内の恥となったほうがいい。

 勿論、代美としては使ったままではいない。ちゃんと後で返すつもりだ。実家に送り返すときには色をつけてやる気持ちでいる。そのために成果を出す。そして金を貰う。


「や、やるぞ。やってやるっ。私はなんだってやると決めたじゃないか!」


 ノエルの隣に立つために。そのためには実家の金に手を付けるなど躊躇ってはいけない。代美の下らない自尊心なんか、次々にへし折っていかなくては。


 酒や薬物の禁断症状に陥ったかのように、代美は追い込まれていた。その様子に、他人事でいたノエルでさえもビクリと反応している。好一対バディなのだから、ノエルも運命共同体だからな? 

 ノエルを囮に使うことに負い目あったのだが今は頭から飛んでしまって、成果を出す、金を貰う流れに執着していた代美だった。



 金がない以上、成果までは日々の生活を耐え忍ばなくてはならない。囮の話は秘密裏なため、自主的に旅に出ることになる。食事代となる金でさえも、支給されないのだ。必要だったら長屋生活して、そこで食事をとれという話になる。

 やりくりが必要だ。返す金額が少なくなくするためにも、出費は抑える。また、ヒトカゲ討伐以外の副収入にも取り掛かるとしよう。


 金策にとりかかっていた代美は、目的から逸れて迷走していた。食事代を浮かすためにノエルと共に魚釣りや山菜取り、器用さを生かして小物まで作って売った。

 ノエルが付き合いきれないと早々に脱落するのだが、すぐ気づかない程代美の視野は狭窄していた。


 *



 ノエルはムスッと不機嫌な態度を面に出していた。鍛錬が削られている。仕事がないから旅をして探しに行くことに賛同したはいいが、ヒトカゲの出現が減少している話は想像以上で全然出てこない。減少というより、もはやいないといっていいのではないか。

 そのせいか、代美の言動がおかしくなった。旅に出る前からおかしかったが、金になるものを見つけては目を輝かせてはしゃぐことはなかった。また、逆に見つけられないときは気分低下状態で、ぶつぶつと独り言をし続けたりもしなかった。

本部に連れ帰り、ドニーとかいう医者に見せる必要があるかもしれない。そうしよう。それで療養させている間に、鍛錬時間を確保するのだ。とってもいい考えである。


 代美にうんざりして、バレないよう離れることに成功していた。まずは今日の分の鍛錬を行おうと、よい場所を探す。山菜取りをしていたので、山から下りて開けた場所を探す。深いところには行っていなかったので、そう時間はかからない。そんなとき、ノエルは烏の集団を見つける。


 飛び回っていたり、鳴き声を喚き散らしたり、何やら同じものをつついている。ノエルは最初、それが何か気付けなかった。烏は黒いため、同じ色のヒトカゲが混ざっていても見分けがつきにくかったのだ。


 日の下に活動できることから、このヒトカゲは第二形態だと思われた。だが、烏にやられてしまう程、弱っている。

 ノエルはこの好機に、夢幻の試し切りをすることにした。せっかくだし直ぐには討伐しないで、色々と試してみよう。


 さっそく集中して技を磨いた抜刀を初手とする。烏は敏く、ヒトカゲを置いて逃げていった。狙い通りに斬り飛ばされた腕を拾い上げる。断面は真っ黒で分かりづらいが、なだらかであった。確認している内に端から灰になっていくので、動揺してかその場から動かないヒトカゲに投げつける。


「あそんであげる」


 確か、ヒトカゲは構って欲しくて襲いかかってくるのだったか。理性あるヒトカゲが言っていたことをうろ覚えながらに思い出して、その遊びが嬉しすぎて口角が上がる。


 ノエルは思う存分試し切りを行った。ヒトカゲが必死に応戦するが、最初の一手が大きかったらしい。【修復】が未熟なようで、返してあげた腕を元の位置にぎゅうぎゅうと押し付けながら、地面の上を転がり回っていた。

 弱っているにしても動きがいい。実体があり、ほどよく動いてくれる。その上存分に傷つけていいというのは鍛錬でできないこともあって、はしゃぎすぎた。


 次はどうしようかと考えている内に、這う這うのていでヒトカゲが逃げ出してしまう。影差すところまで追い込んでしまったのがいけなかった。影に潜ってしまって、出てこない。一本の木の影とかならば【こもり】と予想して待ったが、影は山の木々である。そんな広大な影に入られたら、どうしようもできなかった。


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