第三十話 団子は何本?
代美から好きなものを買えと銭をくれた。どうやら、褒美として貰った金の一部らしい。
「ノエルは何を買うつもりなのですか。その金額以内で考えるのですよ」
「ん……」
特に欲しいものはない。ノエルは刀の夢幻を得たことで満足していた。
とはいえ、町を練り歩いていると団子屋を発見する。これでいいか。
「団子ですか。値段はいくらか聞いてみてください」
「いくら?」
「四文だよ」
「はい。手持ちのお金から、出してください。一本では足りないなら、その分も出すのですよ」
銭を手一杯にもって、取り敢えず四文出す。銭はまだまだ大量だ。
一、二、三、四、と二本目。一、二、三、四、と三本目。一、二、さ……ああもう、面倒くさい。
ノエルは手持ちの銭を、全部ぶちまけた。
「きゃあ!? 何やってるのですか!」
「これだけ欲しい」
「あんた…………どれだけ食べるつもりだい? ちょうど十本分だよ?」
「大丈夫」
手持ちの銭が全部さばけるし。
「こちらとしては金があるならいいが……」
まずは焼けてあった分の団子を貰ったので、椅子に座って食べる。もぐもぐ。直ぐなくなった。
「ほら、これで全部だね」
「ありがとうございます」
「……ありがと」
皿の上で、団子は山となってやって来た。ノエルは櫛を指の間に挟んで、椅子から立つ。たれが落ちてくるのが難点だ。
「いく」
鍛錬場である川辺まで、向かいつつ食べればいいだろう。
奈々子はにこやかすぎる笑顔で、腕をガシリと掴んだ。
「座って食べます」
「……」
「座って、食べます」
「…………ん」
団子を皿の上に戻す。渋々、座って団子を腹に収めていった。
「団子、おいしいですか」
「ん」
「だから食べようと?」
「前に食べたことがあるから」
「もう一度食べたくなった、という訳ですか」
納得しているし、そういうことにしておこう。本当のところは目についたからだし、あとは串と持ち歩きやすいからだ。
全部食べ終わると団子屋の店主は嬉しそうに一本おまけでくれた。
ノエルは鍛錬し、己を磨いていく。夢幻は手に馴染む握り心地で、なぞるべき剣の軌道である幻の線の白銀と全く同じだ。斬れ味は試していないが、それだけで大量生産ものや代美の刀と段違いの性能である。
見に来るのを欠かさない正吾やその他から「カッケー!」「綺麗!」という歓声をもらいつつ、細かいところを修正していく。夢幻のおかげで、完成度はかなり高くなっていた。
ただ、やはり見本がない抜刀や姿勢は進捗が芳しくない。姿勢は一旦鍛錬から外しているからいいとして抜刀だ。梅蔵から指摘されたことをノエルは結構気にしていて、前より改善されていても満足できないのである。
という訳で、本部の屋敷にある武芸場にやってきた。お目当てはカティンカである。いなかったら弟子で腕が立つ者を狙っていくつもりだ。
前にカティンカとその他大勢に断わられたことをノエルは忘れてはいない。覚えている上で、やり方を変えたのだ。教えてくれないなら、勝手に学べばいい。
ノエルは目がいいので、目で技術を学べばいいだけなのだ。わざわざ頼みにいったのはその方が観察しやすいし、代美が快く教えてくれた先例があったからだ。それは例外だったと判明したので、こっそりと隠れて武芸場の様子を見る。
…………見る側なのに、見られている気がする。これは駄目だ。そういえば、カティンカと初めて会ったときも、見つけられて囲まれることになった。
取り敢えず一時離脱する。目立つのは避けなければ。観察するためには、先ず身を隠せるようにならなければならない。ノエルの知識として思い浮かんだのは、気配が消える効果のある姿勢である。姿勢を学びたいのに、姿勢ができるようにならなければならないとはなんたる矛盾か。
当然それ以外の方法で挑んでみる。武芸場側から見えにくい物陰に隠れる。武芸場にやってきた者から発見された。見晴らしがよく広い庭が場所なので、身を完全に隠せる物陰がないのだ。
ないならもってくるかと考えていると、ふと感覚に何かが引っ掛かった。ノエルは周囲を見渡して、誰もいないと首を傾げる。
見られているようだったが、気のせいだろうか。人の気配や視線に神経質になっているのでありえることだ。
そんな不自然な挙動に人目が集まったらしい。気のよさそうな男が「鍛錬したいなら入れば?」と声をかけてくる。ずっと武芸場にいたから、ノエルの存在をよく知っていたのだろう。
ノエルはピーンとくる。鍛錬しながら観察すればいいのでは?
木を隠すなら森の中というではないか。この隠れ方ならノエルでもできる。
堂々と武芸場に足を踏み入れる。視線を一斉に寄こされるが、直ぐに逸らされた。皆、鍛錬熱心である。
ノエルも木剣で鍛錬を始める。真剣の夢幻でないのは、流石に空気を読んだからだ。そこそこ人がいるので危険なのか、現状使っているものはいない。
…………うん。やっぱり先生の剣技が一番だ。
その場にいる者を一通り見て、悦に浸る。ノエルの憧れとなるぐらいだからな。
目に適う実力者はいなかったが、良いところはあるにはあるのでノエルは目で盗んでついでに実践してみる。ふむ、まあまあ。
後はノエルがより良いものに仕上げてあげよう。仕組みを感覚的に理解したり、既存のものと組み合わせたりする。
木を隠すなら森の中方法は、カティンカといった険悪な関係の知り合いがいれば、見せてもらうことはできずに難しかったかもしれない。対象が絞られるがその日は来なかった。その次も、次も、次の日も来ない。先生の弟子は、いったいどこで何をやっているのだ。腕が未熟なものはちらほら見かけるが、彼等には用はない。
そうこうしている内に、茜から小刀ができあがったと言われる。夢幻に続いて、梅蔵が打ったものだ。灰身上は刀を大小と帯びるのが一般的だ。使う頻度が少ないが、前の戦闘のようにいざというときに役立つ。
ヒトカゲは斬撃以外の効き目は薄いので、無手は避けるのである。代美がヒトカゲを投げ飛ばしていたが、普通ではないらしい。負傷した腕を見せつつ、当人が言っていた。
「ちょっといいか」
短刀を受け取った翌日に、仁は訪ねてきた。仁は自主的にノエルに会いにきたことはないので、また何か代美たちから頼まれたかと思ったがそうではないらしい。
「俺と好一対を組まないか」
一拍分考えてから答える。
「ん」
「そうだよな、いきなりだから――って、それどっちの答えだよ」
「いいよ」
「いいのかよ。まだ理由も言ってねえのに……」
「実践したい。あと、夢幻でヒトカゲ斬りたい」
「なるほどな。ノエルらしい」
仁は理由を話してくれたのだが、まとめるとこうだ。
「仕事はめんどうだが――生活が、ある」
リビーの療養により仕事をしなくとも許されているが、一応生活できる金銭は与えられるものの、仕事をしているときと比べたら最低限らしい。ノエルは金を扱わないので知らなかったが、ヒトカゲ討伐の活躍に応じて貰える金銭は変わるという。また、その他の面でも厚遇される。
暇を満喫していそうな仁だったが、手持ちの金から焦っているらしい。褒美としてもらった金銭は使い切ってしまったとか。ノエルのように団子をいっぱい買って食べたのだろうか。ノエルはまだ使い切っていないので、どのくらい団子を食べたのだろう。
「何本団子食べたの」
「は? 食べたことねえよ。ここ最近はな。それで、本当に俺と組んでいいんだな」
「ん。…………いいよ」
さっき言われたばかりなので、分かりやすく付け足しておく。
「なら、準備でき次第行くぞ。もう仕事は貰ってきてるんだ」
ノエルは奈々子に手伝ってもらって準備し、その日の内に出発した。仁はいつものように気怠そうに、溜め息まで吐いていた。




