第二十八話 癖が強すぎる面々
男が深く腰を折り、頭を下げた状態で謝罪を述べていた。緊張のせいか、言葉は違えど同じような内容を繰り返している。木丞はその様に悲愴さを感じて、その伝令に下がらせる。手を鳩尾に添えている様には、つい同情した。
残った面々は口々に物言う。
「とうとう出席さえしなくなったわね」
「あの奔放さはどうにかならぬのか。一灰身上だった頃はともかく、今は立場があるというのに……」
「第三支部長には、どのような経緯でなったのでしょうか?」
「人望よ。あの子は周囲を振り回すのだけど、どうにも好かれる性格をしているのよね。能力だけの貴方とは大違い」
「ではその能力が不確かな貴方とも大違い、という訳ですね」
「言い返さないということは、自覚はしているのね」
「私にはとても優秀で、信頼できる忠実な部下がいますとも。それにしても、先程から喧嘩を売っているので? 口達者で人を誑かすしか能のない貴方にしては、品位が問われますよ」
「まさか。そんなことないのだけど……考えが狭いと、勘違いが多くて大変そうね」
「二人ともやめい。全く、もっと仲良くできんのか。毎度毎度仲介させて、老骨に鞭打たせるな」
「その御歳で現役であるのに、よく言うわ」
「そういうお前だって、儂に次いだと――」
「それ以上言いますと、口を縫い合わすわよ」
「若作りに必死にならずともいいだろうに……」
「ディマリアス。針と糸を持ってきなさい。至急よ」
「…………その、できかねます」
右腕たる副本部長のディマリアスに飛び火したところで、木丞は静観をやめる。この三者、癖が強すぎる。これに第三支部長が混ざれば、混沌が起こることだろう。
両手を打ち鳴らして、朗々と声を響かせた。
「一名欠けているけど、始めるとしよう。五部長会議ならぬ、四部長会議をね」
速記のためにいるディマリアスを除いた、本部長である木丞とその他第一から第四までの支部長の会議だった。
遠方にある第三支部なので、欠席だと報が入るまでかなりの日数があった。その間、四人である程度話はしている。そのため対外的には会議は開かれたとして、本部の屋敷は一部立ち入り禁止としていた。主に口を開けば喧嘩ばかりの低俗さを秘匿するために。
そんな面々による会議が、今、本格的に始まる。
「…………いっちょまえに取り纏めているが、それこそ木丞も癖は強いよな」
「よし。針と糸だ! いや、物言えなくなるまでぶん殴っちまった方が速いか!? 今日こそ一言多いジジイの口を矯正してやる!」
そして会議は始まろうとして、始まらなかった。
*
ヒトカゲとの戦いとノエルの苦労が遠のいたからか、代美は驚くぐらい心穏やかに過ごせていた。
療養部屋と場所が場所なので、森閑としていた。同室にリビーがいるが、仕事の付き合いから気の置けない仲となっている。共に一日を過ごしていても肩の力は遠慮なく抜けられて、そんなあまりに穏やかすぎる生活だから逆に心配になるぐらいだ。
「私は、こんなにゆっくりしていてもいいのだろうか」
「いいんやないの? 一朔さんが言ってたぐらいやし。てか、傷が悪化するから無理無理」
「だが、最近はヒトカゲが活発化していただろう? 私達でも休みなく討伐に向かうことになっていたからな」
「元より灰身上不足だった付けが回ってきたこともあると思うけど……お偉いさんが判断して休ませてくれてるからにはいいんやって。それに本格的に手が負えなかったら、ノエルと仁まで休ませとらんやろ」
「確かにそうだな」
「もしかしたら解決したんとちゃう? 五部長会議もやってるみたいやし、とんとん拍子でうちらの時代でヒトカゲを淘汰できたらええんやけどなあ」
「ああ。そんな平和な世の中になったらいいな」
人の生活圏に出現するヒトカゲに手一杯で、奪われた土地に根付くヒトカゲは手に負えない現状だから夢物語に近い。だが、理性あるヒトカゲを発見できたのだ。このまま謎を明らかにしていったら討伐も進むことだろう。
理性があっても襲ってくるのだから、ヒトカゲとは相容れない。ヒトカゲの淘汰は必須だった。
リビーによって心配は和らいだものの、代美が療養のため齎された穏やかな時間はそのまま享受するつもりはない。
正直、話し相手のリビーがいても、一日中寝床で過ごすには暇ばかりなのだ。せっかくたっぷりと時間はあるのだから有意義に使いたい。代美は復帰してから自身にできることを考えていた。
ノエルは代美が隣に立つことを当然のように許してくれた。だが、代美はそれに甘えてはならない。他者にも認めさせなければ、代美は隣に立ち続けることはできなくなる。ノエルはそれほどまでに才能に満ち溢れている。例えノエルがヒトカゲ討伐を独り占めしたいからと、代美には高い実力を求めていなくともだ。
代美に才能がないことは、痛いぐらい思い知っている。伸ばせる能力は現段階で打ち切りに近い。年月を経れば多少は伸びることだろうが、そんな悠長な時間はない。
代美はノエルのような突出した能力は諦めるしかなかった。だから、残された答えは万遍と力を持つことだ。これなら一部の能力が低くとも、全体的に見ればそれなりに能力をもっていると判断されるのではないか。つまり、器用貧乏といわれる奴である。
これならノエルの意向にも沿う。ヒトカゲ討伐の際、補佐するぐらいの実力なら文句は言わないだろう。一人でできるなら任せればいいが、数で攻められ対処できなくなったときに手助けするぐらいなら文句は言えぬはずだ。なんせ命が懸かっている。
元々、近いことはしていた。ノエルの世話役として身なりを整えてやったり、食事を促したり、剣技や文字などと教えていたことだ。記憶喪失のためにノエルの身元を探ることも、含まれるだろう。
今の代美に足りぬのは、当然戦闘面である。どのようにしたら役立てるのか。剣の腕はない。ならば、他で補ったらいい。作戦を立てて有利に戦闘を運んだり、搦め手や罠や道具を使っていくのもいいだろう。
これは対人戦であったら、卑怯と言われるものだ。なんでもありの戦い方は、蔑まれることにもなるだろう。代美は武家の家系だが灰身上であるから誇りは捨てられるし、言われ慣れている。
ただ罠や道具を使うということは、刀一本の戦闘様式をやめるということだ。代美は先生のようになりたくて灰身上を志したのだが、諦めることになる。
「私には向かなかった。ただ、それだけの話だ」
決意は速かった。半分は諦める。
先生を表すのは、何も刀を使うことだけではない。刀でヒトカゲを討伐する姿は格好よかったものだが、病弱ながらも討伐に務めようとする高潔さがあったではないか。その精神の気高さを、代美はもっていこう。
「なんか、すっきりとした顔やな」
「やるべきことは定まったからな。後は具体的な方法を考えるだけだ」
「そりゃよかったなあ! うちも知恵は貸すから、一緒に考えさせてや」
「私から願うことはあれど、拒否などしない。リビー、いつもありがとうな」
「なんや改めて……照れるやん」
リビーは相談に乗ってくれたり、過去には意地悪なことを言ってでも奮起させようとしてくれた。
心強い友は不意を突かれると、よく照れる。可愛らしいなと思っていると、話を逸らしにかかるのも、いつもの流れだった。




