第二十五話 褒美話
ノエルはカティンカ探しをするも、武芸場にはいなかった。他にも見回ってみるが、見つからない。ヒトカゲ討伐と、仕事に出ているのだろうか。
元々探し始めた時間は昼が大分過ぎてからであるし、一朔に呼び出されて割を食っていた。夕食のため奈々子の迎えが来て、散々に文句を言われる。
「もうっ、何をしていたのですか。いつもと違う行動をするなら、事前に言うべきでしょう。とんだ無駄足です!」
「ん」
「ん、じゃありません! 何をしていたのかと尋ねているのです! あ、こら無視しない! 逃げるな! しゃーべーろーッ!」
奈々子の怒り方は段々代美に似てきている。
足にしがみつかれて動きづらくなり、ノエルではカティンカのいる場所も知らぬ。面倒だが、話すことにした。必要があれば、話すのもそこまで厭いはしない。
「カティンカはどこ? 探してる」
「……なぜ探しているのですか?」
「教えてもらうため」
「剣技を、ですよね。やめておいた方がいいですよ。カティンカとは争った仲なのでしょう?」
「ん」
「代美ほどではないにしろ、ノエルも嫌われているでしょう。そんな相手から教えを乞うなんて――」
「いた」
話すまでもなかったらしい。カティンカは夕食の最中で、ノエルは一直線に向かっていく。
「カティンカ」
「何の用よ」
見向きもしないので、素っ気なかった。
「先生の姿勢を教えて」
一拍置いて、箸を置いていた。ようやく目を向けられるも、じろりと睨みつけられている。
「もう一度言ってみなさい」
「先生の姿勢を教えて」
「幻聴ではなかったようね。冗談でもなさそう。……教える訳、ないでしょう」
「できないから?」
「あんた、馬鹿にしすぎ。代美じゃないんだから、多少なりともできるわ」
「代美はできてたよ」
「ふうん。とはいえ、ほんの一瞬でしょ」
その通りである。
カティンカは席を立つ。器は空っぽで、綺麗に食べ終わっていた。
「カティンカ」
「断る。先生の姿勢は簡単にできるものではないし、それまで付き合うのは嫌。それに先生の教えを、ノエルでなくともむざむざ伝える訳ないわ」
カティンカに、横にいた四人が続いていく。見知った顔で、前もカティンカと共にいた者たちだ。いつも一緒につるんでいるらしい。睨みつけてくるあたり、同じ行動ばかりしている。
「予想通りですね。ノエルは人の気持ちを考えられるようになった方がいいですよ」
「いい」
「そう思っているから、姿勢とやらも教えてくれなかったのでは?」
「……むう」
ノエルは今更に、稽古時に代美に言われたことを思い出す。
『他の弟子に見せてもらうには難しいだろうし、できる者ほど出払っているだろうから』
嫌われているのは代美だけでなく、ノエルもだった。カティンカ以外にも先生の弟子に尋ねてみたが、全部断られる。能力的にできないものが大半だった。
ちなみに一番弟子のアヴェラは、遠方までヒトカゲ討伐に出かけているらしい。いつ帰ってくるかもしれないし、帰って来ても挨拶回りなどしないで、知らないうちにまた出かけるという。
アヴェラは代美と同じぐらい、嫌われているのだろうか。いや、代美よりも酷いか。交友関係がなさそうな話に、ノエルはそう結論付けた。
*
「私の場合、ノエルの憧れにあたるのが一朔さんなの」
茜はもぞもぞとそんなことを言う。どうやら言葉が足りなさ過ぎたかもしれない。
ノエルとしては一朔の隙のない佇まいに、剣士として強いのかどうかを聞いたつもりだった。
「だって、とても優秀じゃない? 当主様の補佐もしているから滅多に本部には来ないのだけど手際はいいし、困っていることがあったらわざわざ声をかけてまで助けてくれるのよ。その、私がそうだったのだけどね」
「強いの?」
「え? ええと、剣の腕前のことよね。分からないし、そんな話は聞いたことがないけれど、一朔さんなのだから剣を扱えても不思議ではないわね」
待っていればいつまでも続きそうなので、話をぶったぎる。
茜は顔を真っ赤にして答えてくれた。関係ない話だったことに気付いたらしい。
「そ、そうそう! ノエルは昨日本部にいたそうだけど、まだ会議は開かれているのだからあまり立ち寄っては駄目よ。立ち入り禁止の場所には行ってはいないみたいだけれど」
「なんで?」
「会合だからよ? 各支部長がいらっしゃって、本部長を交えてお話ししているの。前にも話したのだけど……次からは気を付けてね」
茜は怒らないところが長所だと思う。代美と奈々子とは大違いだ。
茜は代美の療養以前もそうだったが、よく足を運んでくる。重要事項を話してくれるのだが、ノエルにとっては重要ではないものばっかりだし、世間話が多い。
殆どが話を聞き流しているのだが、今回はノエルにとっても重要な話らしかった。言われた通り、連日続けての代美とリビーの病室に行く。二人はにこにこ笑顔で待ち構えていた。
「昨日の今日で、一朔殿が手筈を整えてくれたみたいでな」
「いいか、落ち着いて聞くんやで。ほら、お座り」
「……」
一体何の話なのか。茜は勿体ぶって、詳細はなにも言わなかった。知っているのならば、話してくれれば手間がかからなかったのに。
「あの理性あるヒトカゲを討伐しただろう? その褒美を貰えることになったんだ。私たち全員にそれなりのお金をくれてな」
「ん……」
「まだあるぞっ。ノエルだけ、特別にな」
興味がないのが伝わったのか、慌てたようにしている。
話の内容を知っているものからしたら楽しいだろうが、ノエルはそうではないのだ。早く鍛錬したい。
「ノエル専用の刀を打ってもらえることになった」
「――本当?」
「はい、落ち着くんやでー。お座りお座り」
さっきからリビーはなんなのだ。ふざけてる?
とはいえ、代美の報は本当に重要な話だった。ノエルは結構疑っていたので、姿勢を正して言葉を促す。
「戦いで刀が折れてしまったのだろう? また同じ支給品って話もあったが」
「大量生産の?」
「そう嫌な顔をするな。もう立派な…………剣士としてなら一人前になったからな。あのヒトカゲを討伐できる実力があるのに支給品の刀はどうなんだ、と本部長とは元々話していたんだ。それを一朔殿が賛同してくれて、刀を打ってもらう手筈を整えてくれた。ノエルのためにわざわざ労してくれたのだから、今度会ったら感謝しておくんだぞ」
「ん」
「よし。じゃあ、さっそくだが刀匠のところへ行ってくれ」
「暇しとる仁が案内することになっとる。自分好みの刀を打ってくれるけど、あんまりはしゃいで迷惑かけんようにな」




