表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第一章 欠落少女は憧れを胸に抱く
16/100

第十五話 代美の価値

「あほノエルッ。うちの分まで斃すなあああああ!」


 リビーは協調性なく突撃したノエルに叫ぶ。ノエルは悪びれもしないで刀を収め、遠回りしてリビーを避けようとしていたが詰め寄られていた。

 懇々と怒られているノエルを見て、代美はいい仲間を持ったなと思った。親切に身勝手な行動を叱ってくれるのだ。これ以上なく厭われていたら、説明などされずに放置や無視される。灰身団の中での代美の立場はそうで、その影響からノエルの人間関係は限られていた。気にかけてくれる存在はとても貴重である。



 リビーと好一対バディである仁とは一回だけでなく、何度も共同で仕事をすることになった。代美が先生の弟子ばかりの灰身上から厭われているので、消去法でそうでない二人と組むことになっているのだろう。

 二組の関係は良くも悪くもなかった。リビーは歯に衣着せぬのだが、気が悪くならなく逆に清々しいものだ。だから、良い関係とならない理由は仁にある。


 仁を一言で表すなら、やる気のない男だ。暴走するノエルのせいもあって、ヒトカゲを斃す姿はまだ見たことない。また言われたら何かしら行動はするが、それは言われなければ行動しないということだ。

 仁から話しかけることはなく、代美から話しかけても長続きはしない。何を考えているのか、よく分からないでいた。

 灰身上はその職業上、名誉を得られるがその他の実益は乏しい。給料は多くないし、なにより命の危険がある。ただヒトカゲによって人生を狂わされたため、復讐のためやる気ある者は多かった。だから、仁は灰身上ではあまり見かけない人物である。



「仁のこと? いけ好かない奴やと思ってるで」


 代美より少し仁との付き合いが長いリビーに聞いてみた。男女に分かれた風呂屋なので本人はいないものの、あまりにも明け透けで悪口に近い。代美は率直な意見を求めたものの、悪口を言われた経験もあって、する側になるのは嫌だった。困ってしまって、結局遠回しに物言うことになる。


「ええと、辛辣だな」

「だってあいつ、男のくせに頼りないやろ? 庇えとは同じ灰身上の手前言わんけどさあ、『俺に任せとけ!』って言うぐらいの気概でうちはいて欲しいんや。代美も思っとるやろ。あいつ、見るからにやる気ないからなあ」

「私もそう思うが、何か訳とかあるかもしれないだろう?」

「あいつがあ? ないない。初対面のとき、なんて言ったと思う?」

「さあ」

「『俺は命を懸けてまでヒトカゲを斃すつもりはない』って言ったんやで! じゃあ何のために灰身上やっとんねん! 死にたくないならやらなきゃいいだけやん! ああ腹立つっ。ああいう奴、うちめっちゃ嫌い!」


 怒り心頭に発するリビーは、手早く体を洗って湯に入りに行く。

 代美は仁への理解を深めたようでいて、深められないでいる。灰身上をやる理由は人それぞれだから代美はとやかく言うつもりはないが、なぜだろうと疑問は抱く。

 とはいえ目先のことが優先で、座り込んでいるノエルの背を洗ってやる。放っておくと、背中は届かないからと終わってしまうからだ。布を使って背中を丁寧に洗い、桶の湯を体全体にかける。最初の頃は背だけでなく、前の方も洗ってやらねばならなかった。今は手間を惜しむ背中だけで済んでいる。


 ノエルは痩せている細い体が標準だ。食べるものは食べているのに、全然太らない。

 日に焼けにくい肌は白磁ようで滑らかだ。手のひらだけは刀を握るのに適応して固くなっているが、それ以外は裕福な町娘に見える。筋肉は目立たないので、とても灰身上には見えない。この少女が、いまや代美を超える実力の持ち主なのだ。

 代美自身も体を洗ってしまって、共に湯に入りに行く。熱い湯なのだが、まだリビーは入っていて顔を真っ赤にしている。


「仁は強いの」


 ノエルが珍しく自分から話しかける。リビーは口元まで湯につかってしまう。言いにくいことらしい。


「…………うちとて、仁が戦っている姿はまともに見たことない。でも、多分、強いんじゃないん?」

「どのくらい?」

「ええー……少なくとも、一般的な灰身上ぐらいはあるよ」

「?」

「分からんか。つまり、代美と同じくらいかなあ」


 代美は才能がないので、人並みの強さだ。これから努力をしても、その域を大きく超えることはないだろう。


「そう」


 ノエルが一番乗りで湯から上がる。リビーも限界だったようで「あっつー」と続いていった。

 代美はそっと手で胸に触れる。このまえ仁に三人一まとめにして子ども扱いされたことが気にかかっていた。代美は一番年上なのだが、リビーとどっこいどっこいだった。


「なーにしてんや? 大きくしたいならうちが揉んだろか」

「け、結構だ!」


 脱衣所からリビーが響く声で言う。仕切りなどないので、丸見えだったらしい。極部を隠して代美も着替えに行く。揶揄う笑みが嫌で、目を向けないように逸らすので精一杯だった。




 仁の話をしたことで、ノエルは興味を持ってしまったらしい。目を離した隙の出来事で、二人はリビーのときと同様に鞘で打ち合っている。

 仕事先に向かっている途中で、ヒトカゲ討伐を終えていないことから怪我する可能性は看過できない。旅籠屋から駆けつけたのだが、気怠そうにも仁はまともにノエルと渡り合っていた。リビーのような剣の冴えはないが、これは凄いことである。少なくとも代美にはできない打ち合いとなっていた。


本気マジになるなって。おい、聞いてんのか?」

「……っ!」

「殺す気でやるな! ったく、だりぃってのに……」


 代美は仁の思わぬ実力に衝撃を受けてしまって、リビーの接近にも気付かないほどだった。肩に手を乗せられ、素早く振り返る。


「やっぱあいつ強かったんやなあ」

「あ、ああ」

「どうしたんや、代美。もしかして……焦ってるん?」


 それは疑問ではなかった。確信した様子で、代美の顔を覗き込んでくる。

 代美は退いて距離を取り、無理やり笑顔を作る。


「どうしてそんなことを言うんだ?」

「だってあのままいけば、ノエルはもっと強くなるで? 代美は追いつけんと思うし、その気もないやろ。そしたら先生のときと同じになるで」

「……どういうことだ?」

「分かってるくせに。身分不相応だとか、お荷物って言われるんや。あんた、このままでいいん?」


 そんなこと、苦労も知らぬリビーに言われたくはない。

 カッとなって胸倉を掴み、込みあがってくる感情を訳も分からず言葉にしようとした。だが、以前にもノエルにしてしまった苦い経験を思い出し、唇を噛んで怒りを抑える。


「そうやって耐えるんか。諦めて、惨めにも自分可哀そーって慰めるん?」

「お前に、私の何が分かる」

「分からんよ。うちは何てったって、天才リビーやからな。それ以上の天才がそこにいるけど」


 ノエルとリビーの引き分けとなった一度目の打ち合いは、それから何回も数をこなしている。二回目からは勝敗がついていて、最初はリビーが、だが最近ではノエルが勝ち続けている。そこまで優劣はないのだが、その成長ぶりに代美と同じように才能を感じたのだろう。

 リビーの気の弱い表情が、ノエルの怒りを鎮めてくる。


「私には才能がない」

「そうかもなあ。でも、若い内からそう決めつけていいん? あの才能の塊を見れば、そう思うのも無理はないかもしれないけどなあ」

「……」

「うちな、あんたの面倒見がいいところは感心してんやで? あのノエルにずっと付き合える奴、そうそういない」

「だが、無理すれば誰でもできる」


 ああそうだ。だから、代美はリビーと言ったように焦っている。

 代美に才能はなく、ありふれた灰身上である。終幕の灰身団は拠点として本部と支部は四か所あるのだが、特に本部では優秀な者ばかりだ。ノエルの世話が唯一できることを除けば、代美自身に価値はなくなる。


「うちはそう思わんけどな。だから、あんな危険なノエルの側には代美に居続けて欲しいんや」


 他者に望まれたことはそうそうない。灰身団に所属してからは全くだ。

 リビーは湯にのぼせたように、頬が赤らんでいた。リビーも分かっているのか、パタパタと手であおいで、誤魔化している。


「リビーは好一対バディのことを言っているのだろう。だが、実力があまりにかけ離れていれば、普通解消されて別の者に変わることになる。ノエルの場合、先生のときのようにはならないだろうからな……」


 ノエルは実力が高い相手を望むだろう。先生の場合、実力が離れていても代美が供になれたのは、看病役としてしつこく願い出た理由もあった。


 重い雰囲気になっていたのを打ち破ったのは仁だ。


「お前ら突っ立ってないで、ノエルをとめろ!」


 いつのまにか打ち合いから恐怖の鬼ごっこに変わっていた。ノエルが鬼で、逃げる仁を追いかけながら、狙いを定め鞘を投げつける。仁は悲鳴を上げつつ、間一髪で避けていた。

 代美とリビーはすぐさま助けに入る。打ち合いをまともに付き合ってくれなかったため、不満なノエルを慰めている内は先のことを悩まないで済んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ