第十四話 協調性
「私は代美だ」
「……」
「自分で言うんだぞ」
「……ノエル」
「皆さん、仲良くね。今回の仕事はヒトカゲが複数いるから協力するのよ」
複数であっても、ノエル一人で斃せばいい。協力する必要などないのではないか。
「ノエル。協調性よ、協調性」
「!?」
「いい報告を楽しみにしてるわね」
茜は本部長ではないが、逆らえない雰囲気がある。圧がなく逆に柔らかなのだが、ノエルの考えを把握してこのように先手を打ってきたりする。また、茜の言うことを聞かなければ、仕事を回してもらえなくなってヒトカゲ討伐ができなくなる。
そんなことからノエルはこくこくと頷いておく。協調性、やる。頑張る。
「なあ、代表決めよ!」
挨拶はそこそこに、仕事先まで移動していた。リビーが「うちやりたい!」と、言った本人が手を上げている。
「文句あるやつおる?」
「別にいいが……必要か?」
「好一対が二組おるからもめないよう、必要に決まっとるやろ! 仁はええ?」
「勝手にすればいい」
「ノエルは?」
「ん」
「……それ、どっちやねん」
「ノエルは興味ないだろうし、いいという返事だろう」
「なら決まり! 了承したからには、うちの言うことには従ってもらうでー。特に代美!」
「わ、私か?」
「そや。悪い噂についてよく聞いてるで。直接見る限り、眉唾物かとは思うけどな」
「……そうか?」
「そうやって否定しないやろ? どうせ言いたい放題されていて、噂が一人歩きしてるんや。うち、本部に来てそう時間ないけど、誇張されすぎててつい笑ってしもうたもん。高名な和人の弟子が顔真っ赤にしてたで」
代美とリビーがよく喋ることから賑やかで、これまでの旅とは違った感覚である。残りもののノエルと仁は、どちらも口を開かず黙々と歩いている。話しかけられないので楽なものだ。
「本部に来たって言うが、言葉が訛ってるし、リビーはどこからか異動してきたのか?」
「第二支部からやな。うちは支部なんかでは留めておけない才能持ちやからねー。ふふん」
「じゃあ、仁とは短い付き合いなのか」
「そうやね。三回一緒に仕事をしただけやし。なあ?」
「ああ」
「愛想ないなー。女三人と花に囲まれてて、嬉しくないんか?」
突然リビーに肩を寄せられる。邪魔なのでべしっと手を払っておく。
「ここにも愛想ないのおるやん」
「……俺はガキに囲まれて嬉しく思う趣味はしていない」
「はあ~? 代美とノエルならともかく、うちのどこがガキやって?」
「口で指摘した方がいいのかよ」
「どこ見てんねん。はったおすで」
「私もガキ……十五歳なのに」
「うちは十四歳や。そう変わらあへんよ」
好きに喋るのはいいが、歩みが遅いのはどうにかならないのか。
「遅い」
リビーが無言で近づいてきて、頬を上に引っ張ってくる。
「あははっ。ぶっさいくな顔―」
「邪魔」
今度は手を払う前に軽々しく避けていた。
「笑えばかわいいやろうに。勿体ない」
「ノエルは滅多に笑わないからな」
「何したら笑うん?」
「憧れ…………戦っているときかな」
「へえ。なら、一戦交えてみる?」
「おいっそれは……」
「ええやん。時間はあるし、元々やってみたかったねん。勿論、代美もな。だからずっと挑発してたけど、全然反応しいへんやろ?」
「……してたか?」
「ああもう鈍いなあ」
「鈍いというか、慣れているんだと思う。別に直接言ってくれればよかったのに」
「代美がやる分にはいいん?」
「まあな。実力はお互いに知っておいた方がいいと思うし、ただノエルがな……手加減を知らないというか、なんというか」
「うちは強いから、やられるつもりはないよ。ノエル、やらへん?」
「やる」
人とやり合ったことは二度しかない。代美とカティンカのことだ。本部長は拳だったので、数には入れないでおく。
貴重な戦いは鞘を武器にして行うことになった。真剣でないことが残念だが、ノエルは現在人を害すことはできない。やり合ううちに抑えがきかなくなりそうなので、丁度よかったかもしれない。
ノエルとリビーは向かい合って、鞘を構える。不格好なのは、どうしようもならなので割り切る。
合図は代美がかけてくれた。
「始め!」
向かい合った真ん中の位置で、鞘を交えることになった。
「速いなあ」
リビーとて同じことだろう。
鞘は滑りやすいので、落とさぬようしっかり握って打ち合う。リビーは負けず応戦してくる。楽しくなってきて、振るう速度を上げてみる。眉を上げるも、リビーは合わせてきた。
「余裕?」
「そう見えるん?」
鋭い突きが肩に迫ったので防ぐ。今のは危なかった。ノエルはやり返すが、同じように防がれる。
リビーはあっと驚くような筋力はないが、いなすのが得意なのだろう。打ち込むがどれも受け流されて、現在のノエルでは実力が拮抗する。慣らしから始まった戦いは、中々終わることはない。
「そこまで! 時間もあるし、引き分けにしよう」
「はあー、見かけ以上にやるなあ。勝つ気でいたからびっくりしたわ」
「またやりたい」
決着をつけられなかったことに、もやもやと煩悶していた。
「勿論! でも、年下で勝てなかったのは初めてや。いつから剣を始めたん?」
「このまえ」
ノエルは詳しい日付を覚えていなかった。
「は?」
「ええと、大体二か月前だな。出会ったときに、初めて剣を握ったらしいから」
「はあー? んなあほな。うちとて二年もかけてるのに…………嘘やろ? 天才リビーが、才能負け?」
リビーは顔を青ざめ、ぶつぶつと呟いている。復活するまで時間がかかりそうなので、ノエルは仁に誘いかける。
「仁ともやりたい」
「……気が向いたらな」
そううまくいかないようで残念である。
リビーは仕事先に到着するまでには立ち直って、明るい声を出した。
「まだ負けた訳じゃないし、負けたとしても逆転してやればいいんや!」
「……流石、私とは違うな」
隣にいた代美の声は暗く、小さかった。
代美はノエルと違って才能の打ち切りなのか、剣の腕前は上達していない。可哀そうだ、と他人事ながらに思う。
「さあ、張り切ってやるでー!」
ヒトカゲは街道に現れるらしい。数は二体で、さっそくその内の一体が現れる。さっそく斃しに行こうとして、代美に首根っこを掴まれる。
「こら! あれほど協調性と言ったのに、もう忘れたのか?」
「……覚えてる」
協調性、やる。頑張る。
「行く」
「また先走っていくんじゃない! 全く、協調性の意味を分かっているのか?」
「協力する」
「誰と?」
「皆と」
「よしっ」
「なんか不安になるやり取りやなー。ノエル、うちが代表でも良いって言ったやろ? 命令やからまだ大人しくしておいてな。二体目が見当たらないうちは奇襲されるかもしれへん」
「撃退すればいい」
「油断して死ぬのは、俺はごめんだ」
「安全第一、という訳だな」
「ときには危険を承知で行く必要もあるけど、完全に日が落ちるまで時間があるからなあ。様子見しても出てこんかったら、一体目だけでも斃そうや」
ノエルは我慢するのが嫌いだ。体がうずうずするのを代美は察して、手で繋ぎとめてくる。
「中々出てこないなあ。囮になってもいいなら、一体目斃してくる?」
許可は出た。返事も惜しくて、ヒトカゲの元まで行く。代美の手は緩くなっていたから簡単に抜け出せた。
ヒトカゲは第一形態なのだがあまりに鈍い。至近距離でやっとノエルに気が付くぐらいなので、一撃と呆気なく終了する。ヒトカゲを断つ感覚は、水の中でうまく動けないような抵抗感に似ていた。
「後ろや!」
警告に従い、その現れた気配に向けて刀を水平に振るった。「うわあ!?」という変な声は代美がノエルの刀を避けたときのもので、気にせず二体目のヒトカゲを斃しておいた。
「危うく斬られるところだった……」
「こりゃ、協調性ってしつこく言うのも納得やな」
代美だけでなく、リビーも駆けつけていた。仁だけは動かないでいて、「終わったなら、さっさと帰ろうぜ」と気怠そうにしていた。




