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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第一章 欠落少女は憧れを胸に抱く
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第十三話 スパーンと登場

 終幕の灰身団の仕事は勿論ヒトカゲ討伐である。だが、動物を見間違って依頼されたり、酷いときは便利屋と勘違いでもしているのか雑用を依頼されたりする。


「灰身上見習いはその可能性が高い仕事を回されやすいんだ。これも灰身上になるための経験だと思って、取り組むことだな」


 ノエルは不満なようだが、奉公人が仕事を取り次いでくれなければ、灰身上はヒトカゲを討伐したくともできない。灰身上は尊ばれているが、奉公人の縁の下がなければうまいこといかなくなる。指示に従い、着々と仕事をこなす。そうしていけば、信頼されて重要な仕事を任されるようになる。


 ノエルにとっての初任務は、報酬の代わりに一食分しかならない銭と、持ち帰れる分の農作物で終わった。灰身団は慈善事業に近いが、無報酬では生活に困窮する。依頼者は今後も灰身上の庇護を受けるためにも寄付をして、相互の関係が成り立っていた。

 今回は猪と間違った仕事だったが、猪をご馳走として振る舞ってくれたことを加味すれば、二人にとっては満足の報酬である。腹を満たして本部まで帰り、報告すれば仕事は終わりだ。


「お疲れ様。ノエル、初任務だったけど、どうだった?」

「最悪」

「ふふっ。次はヒトカゲ相手だといいわね。次の仕事があるけど……初めてで疲れているなら一日体を休めてからにする?」

「行く」

「代美さん」

「大丈夫だろう。夜はちゃんと寝ていたからな」


 ノエルは寝静まった後に、隠れて刀を振ることがある。鍛錬熱心すぎるのだ。身長が伸びないぞと睡眠の大切さを説けば、回数は大幅に減り、耐えきれなくて稀にするぐらいにはなったが。


「ただノエルは私の言うことを聞かなかったからな。危険なのに猪に立ち向かっていったんだぞ」

「あら。なら、この仕事は難しいかしら。ノエルはお留守番で、代美さんだけに任せようかしらね」

「やだっ」

「でも、代美さんの言うことを聞いて行動することすらできないのでしょう? 私、心配だわ……」

「代美の言うこと、聞く」

「私の言うことは? 元はといえば私から代美さんに、ノエルの身を案じてお願いしたことだったのだけど。私の言うこともちゃんと聞けるなら、私、ノエルのことを信じられそうだわ」

「ん。茜の言うことも聞く」

「そう! なら安心ね。次の仕事もお願いするわ」


 茜は愛想がよく、男女に渡って親しまれていた。嫌われ者の代美とは正反対であり、悪い噂を知っていても良くしてくれる。世渡り上手なのもあるが、打算などなく根っからの善人だからだ。

 茜がノエルを手懐けたことに、流石だと感心する。ノエルは自分勝手な性格なので、他人を気にせず好きに振る舞うのだ。これからは言うことを聞いてくれるようになって、楽になるだろうか。期待しておこう。



 次の仕事は正真正銘ヒトカゲの討伐となった。とはいえ第一形態であり、ノエルは一度ヒトカゲを討伐した実績がある。代美がノエルを守ろうと戦い、逆に守られたときのことだ。

 ノエルは一撃と簡単に倒してしまった。代美は見守っていたが、介入する必要はなかった。


 それから何回か回数をこなした。初仕事のときのように、変な仕事が一度混ざっていたがあとは通常のヒトカゲ討伐だ。本部から仕事先まで距離が遠く、何日もかけて歩く負担が出てくるが、ノエルはものともしない。安心して見守られる戦闘をこなしている。

 代美は休みの日、ノエルを誘って木剣で打ち合った。もうやる前から負ける結果は見えていた。抵抗空しく刀を突きつけられたとき、代美は心から称賛の言葉を贈れた。

 ノエルは代美を通して先生の教えを身に付けていった。才能だけでなく、 ひたむきな努力の上での結果だとよく知っている。最初の頃と違ってノエルのことを認める。劣等感と嫉妬は、格が違う相手だとさっぱり消えてしまうのだった。



 代美は打ち負けて、逆にすっきりとした心地となっていた。代美の目的であった先生の教えは全て受け継いでもらっている。後は研鑽して後世に先生の名を残してもらうだけだ。

 それに関して、剣技はいずれ先生ほどの腕前に到達すると確信をもっているので不安はない。だが、ノエルの人間性には不安だらけだった。言わなければ髪や体は洗おうとしないし、着物を着させれば帯はめちゃくちゃ、憧れに重点を置きすぎて自立させられないほど壊滅的なのである。

 そういう訳で、先生の教えを受け継いだ後も、代美にはやることがあった。立派な灰身上になってもらうため、側を離れずあれこれと教えていく。そんな世話役であると同時に、記憶喪失に関しても解決を図る。


『こちらとしては、頼まれてできる限りの調査はしたよ。それ以上のことは独自でよろしくね』


 本部長の言葉だ。代美の実家は結構な額の寄付をしていることもあって、融通を図ってくれる。今回、代美は初めて意図して融通してもらった。実家の権力に頼ることは厭っていたが、ノエルとの出会いの場はヒトカゲだらけで、それほどまでに危険だ。ヒトカゲの脅威に対処しながら、記憶を調査するのは難しいのである。


 後は独自にということだったが、本部長は気を遣ってくれた。仕事先がノエルとの出会いの場と近かったことが三度もあったのだ。灰身上の仕事の片手間になるが、記憶の調査ができる。

 代美はやる気のないノエルを連れて、聞き込みを行った。だが、誰もノエルを知る者はいない。


 日本はおよそ百年前までは、海外との交流は限られていた。幕府が鎖国政策を取っていたからだが、ヒトカゲが出現して解禁される。日本が海外に助けを求めたからだ。結局、海外にもヒトカゲが渡ってしまったことで、海外は自国の対処に追われて救いの手は差し伸べられなくなる。ただそうでないものもいて、ヒトカゲ発生地にわざわざ来航する変わり種の外人――主に商人や征服者がいた。

 日本にいる外人の一人であるノエルはそんな変わり種の家族かその子孫だと思われる。ノエルは日本語を話せても読み書きはできないことから、日本育ちだと当たりをつけて調査もしていく。だが、目撃情報すら得られない。


「実家を頼るしかないか……」


 代美は実家を出奔した身なので気は進まないが、ノエルの記憶がかかっているのだ。実家を頼れれば、行方不明の娘を探している親や名前を知る者を見つけられるかもしれない。人の手を増やせるだけでも、調査が捗るものだ。

 代美は恥と思いながらも、実家にふみを送る。実家は灰身上でいることをよく思っていない。条件を突き付けられそうだと思いつつ、実家以外に頼れる相手はいないので調査の協力を乞うた。


 *



 ノエルが灰身上見習いとして、十回仕事をこなしたときだ。


「おめでとう、ノエル。今回の仕事でもって、灰身上見習いから晴れて灰身上に認められたわ」

「おお! 良かったな、ノエルっ」


 茜と代美が祝う。ノエルは見習いか、見習いでないかの括りは気にしていなかったので、淡々とした感情しかない。


「灰身上になったら何か変わるの」

「一人前と認められるようになって、難易度の高い仕事が回されるようになるわ」

「変な仕事はしなくてよくなる?」

「ええ。よっぽど嫌だったのね」


 茜が苦笑するが、勿論そうに決まっている。ヒトカゲでなかったときの落胆は、かなり心にきた。


「でも、ヒトカゲ討伐以外にも、その護衛もあったりするのよ」

「したくない」

「そういうのは実績のある灰身上の仕事だから、今のところは大丈夫よ。ノエルは向いていなさそうだしね」

「護衛を放り出して、ヒトカゲを追いかけていそうだしな」

「ふふっ。ありありと想像できるわ。でも、集団戦闘があったときのために、協調性は身に付けて欲しいわね。というわけで、今回の仕事は二人加えた四人で行ってもらうわ」


 ノエルと代美は茜に呼ばれて本部の屋敷内にいる。スパーンと襖が開け放たれて、登場したのは二人の男女である。


「天才リビーとはうちのことや! 今回はよろしくなあ、お二人さん」

じんだ。まあ、よろしく」


 金髪碧眼の女は騒がしく、くすんだ茶髪と眼の男はぶっきらぼうに言う。


「なんか、癖の強そうな奴らだな」

「それ、あんたらにも言えることやで」


 リビーは細目にしてせせら笑う。確かに、と代美は気にしていない。ノエルも特に何も感じないので、次に男に目線を向ける。どうにも冴えない風貌だ。目と目が合うが、興味がなくなってノエルから先に逸らした。


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