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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第四章 母か姉かの手のひらは愛おしく
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閑話 利光の礼回り

 利光(としみつ)は武士である。南部家の嫡男で、陸奥の危機を聞きつけてヒトカゲ討伐に参戦した。終幕の灰身団が主導しているのは気に食わないが、相手が専門にしているヒトカゲだ。武家もヒトカゲを討伐することはあるが、領地内で脅かすものだけに限られる。


 百年ほどもヒトカゲ討伐だけに力を注いできた、灰身団の手並みを見てやろう。まあ、武家と灰身上のどちらが優れているかはすぐに分かるはずだ。武家の方が歴史は長く、それを基にした教養がある。利光は日々武芸の研鑽をし、ヒトカゲを討伐した経験は幾度かあった。かなりの数のヒトカゲがいるようであるし、灰身上どもに利光の剣技を披露してやるのもいいだろう。

 と、討伐戦前は思っていた。


 ヒトカゲの力を舐めていた。討伐したことのあるヒトカゲは弱い分類だったようで、余裕な考えは直ぐに吹っ飛んだ。

 連れてきていた家臣と必死に抗うも、一人、一人と命が奪われていた。撤退を余儀なくされ、悔しくも灰身上に手助けされながら、選ぶ余地なくヒトカゲがいない道を走る。だがその道の先にもヒトカゲはおり、ちょうど戦っている灰身上もいたが、人間に化けることができる第三形態らしき女いることもあって手いっぱいのように見えた。


 それでもその灰身上は手を差し伸べた。二度に渡る灰身上の手助けだ。

 武家だけに許されていた帯刀をしているから、親を亡くしたなどの理由で行き場を失ったならず者の集まりだからと見下げ、見栄を張っていたにも関わらずだ。

 利光は少なくとも、討伐戦を共にした灰身上を見直した。生き残った者で掃討戦をすることになって、利光たち武家も引き続き参加することから、再びその灰身上と顔を合わせたときには礼を言うことを考える。


 一度目に手助けしてくれた灰身上には、直ぐに出会えることができた。礼ついでに話してみれば、ならず者の集まりとはいえ情に厚いようだと知る。南部家以外にも討伐戦に参加した武家がいて、これまでのように武家同士でつるんでいては分からなかったことだ。討伐戦前ではヒトカゲが現れても、利光の知る中では灰身上を呼ぶ必要なく武家内で解決できたことで、よく話を交わしたのは初めてだった。

 そのことがあり、二度目に手助けしてくれた灰身上は積極的に探した。一番覚えているのは、まだ幼さが残る顔立ちの少女である。灰身上でありながら同じ武家であると言って、勇猛にヒトカゲと戦っていた。


「藤堂家の娘らしいが」


 百年ほど前にヒトカゲが三都に現れて、幕府は兵を掻き集めるも壊滅することになった。そのまま領地までヒトカゲに呑まれたり、失った兵力により存続できなくなったりした武家は多い。

 当時の当主の判断や地方在住の距離の遠さによりそれを免れたのが、今の武家である。伊勢にある藤堂家は、地方の南部家と異なり派兵を求められる立場にありながらも生き残った武家だ。当時の詳細は伝わっていないが、陥落した三都の内の京都から近い位置にあっても存続を保ち続けている辺り、優れた治政をしているのだろうと有名だった。


「だが、本物なのかどうか」


 その藤堂家の子で、女でもありながら灰身上になった話も有名だ。ヒトカゲにより激減した武家は他家との結びつきを強化しており、陸奥まで話が流れていた。武家と終幕の灰身団の仲であるので、酒の肴として良かったこともあるだろう。

 そのため利光は娘からの話もあって直ぐに正体が思いついたが、落ち着いて考えてみればそれを証明するものは何もない。


「……ああいう女も悪くはないが」


 武家の女であるが、臆することなく自らヒトカゲと戦っていた。決して優れた実力者ではなく、年と性別を考えばよいか、という評価をつける程度でだ。実家の後ろ盾があるためかもしれないが、利光相手にしっかり物申すことができる胆力もあった。


 利光は思い返しながら、廃墟の町の外に設立した拠点内を歩く。連れている家臣に藤堂家の娘を含めた例の灰身上を探させていた。

 利光は家臣に守られながらヒトカゲと戦っていたが、家臣を守る者は自身しかいない。命を救われた者は多く、恩を感じて灰身上を探す意欲は高い。


 家臣はその傍らに、灰身上の話をして盛り上がる。


「俺はもう少しで死にそうだったところを、石でヒトカゲの注意を引いてくれた一瞬で逆に死なせてやったんだよな」

「ははっ、石でか。確か髪の短い女の子だろ」

「石以外にも、ちゃんと槍を使ってたぜ」

「俺としては先頭を走って、ばったばったヒトカゲを斬っていた少女が印象的だな。ありゃ俺たちより、よっぽど強えや」

「見た限り、刀を交えた奴は全部灰にしてたよ」

「そういや髪色は灰だったよな。……もしかしたら、ヒトカゲの灰に(まみ)れてそうなっちまったんじゃねえか」

「ああそれ、他の奴も話してたぞ。人に化けられるヒトカゲを倒してたって言ったら、『灰塗れ』って通り名がつけられてた。石投げてた女の子もつけられていて、『器用貧乏』だったな」

「『器用貧乏』? なんでそんな微妙な名なんだ?」

「さあ? 灰身上が言うには、色んな武器を使えるからだとよ」

「ったく見つからないなあ。女ばっかの班だったし、一人でも見つかりそうなもんだが」

「ばあか、おめえ。終幕の灰身団全体で女が多いんだよ。ヒトカゲのせいで身寄りがねえ奴が集まっているからな。さっきからちらほら見かけてるだろ」

「羨ましいなあ……」

「うちんとこは男ばっかりだからなあ……」


 口ばっかりを働かせているが、中には同意できることや通り名と興味深いこともあったので咎めないでおく。

 ただ家臣の頼りなさもあって、利光自身も周囲を見渡して探した。話をしていた少女二人ではないが、もう一人の見覚えがある、年回りの近い少女が速足で歩いているのを見つけた。


「いたぞ」


 先に利光が見つけたことで、家臣は一気に静まり返る。じろりと一瞥すれば、申し訳なく居心地悪そうにしていて、小気味がよかった。

 利光は少女に声をかける。


「おい、そこの者」

「……」

「お前のことだ。無視をするな……っ!?」


 顔を向けられることもないので肩に手を置くと、眼光鋭く睨みつけられる。


「触んな」


 圧に押されてつい肩から手を離すと、少女はそのまま早歩きで去っていた。


「なんだあの者は……っ!」


 利光は人として非礼な行いに、わなわなと怒りで震える。

 家臣より先に弁明したのは、見覚えのある男だった。


「俺の好一対(バディ)がすまないな。普段はああじゃないんだが、気が立っているんだ。……ん?」

「お前は、同じ班の」

「ああ、討伐戦のときの武家か」

「……あのときは、その、助か――――」

「悪い。リビーを見失うからもう行く。話があるならまた今度にしてくれ」


 男は走り去っていき、利光たちはぽつんとその場に残される。


「なんなんだ、あいつらは」


 用があったところに突然話しかけたのは悪いと思うので男は許せるが、少女への怒りは収まらない。


「し、仕方ないですよ! あの子、確か家族を目の前で殺されたらしいですから」

「……そんなもの、他の奴も似たようなものだろう」


 ただ気持ちは分からなくない。利光も、信頼がおける家臣を殺されている。

 少女への怒りはなくなり、暗くなった雰囲気でも他の灰身上を探すことは続けた。同じ班として行動は共にすることは多いだろうと、少女と男と出会った周辺を中心に見ているといきなり声をかけられる。


「こんにちはー。誰かお探しかな?」

「!?」


 気配がなく、驚いて刀に手を添える。ヒトカゲとの戦いにより、癖がついてしまったかもしれない。

 その女は気にした様子なく、にこにこと笑っている。


「……ちょうど、お前を探していたのだ」

「へええ。もしかしてお姉さんを忘れられなくて、会いに来ちゃった感じかな?」

「別にお前に限って探していたのではない」

「なるほどなるほど。おおーい、安重くーん!」


 手を上に伸ばして、その場でぴょんぴょんと跳ねる。大の大人が、小さな子どものような振る舞いをしていて目を疑った。

 安茂という男はそれで居場所の目星をつけてやってくる。


「なんですか、エレオノーラさん」

「多分安茂君もかなって呼んでみた。違うかな?」

「合っている。……礼を言うために探していたのだ。討伐戦のときは助かった」


 利光に合わせて、家臣も「「「ありがとうございました!」」」と頭を下げる。

 周りの注目を集めたなかで、エレオノーラは「ふんふん」と得意げに頷く。


「いいってことだよ。終幕の灰身団は人助けが大好きだからね」

「そうですね。皆さんが無事のようで良かったです」



 その後、まともそうな安茂から、まだ会えていない二人の少女である代美とノエルは拠点にはいないことを聞いた。ノエルが最後に見たときからずっと気を失ったままでいるので、負傷者を治療している村にて寝かせているらしい。好一対(バディ)である代美はそんなノエルの様子を見に行っているらしい。

 翌日、翌々日には拠点に戻ってくるというので、利光たちは出直す。確実に出会える翌々日ではなく、翌日にしたのは、それほど二人の少女に興味がある現れだった。


「今忙しい」


 当の少女ノエルには、興味も欠片もなく斬り捨てられてしまったが。

 この灰身上の班は変な女しかいないのだろうか。


「こら、ノエル。きちんと挨拶をしろ」

「知らない人」

「討伐戦で会っているだろう。……いや、あのときは先駆けだったし、気を失っていたから知らないか」


 ノエルを引き留めるのは代美だ。「すまないな」と利光に見た顔は整っている。髪を短く切っていることがもったいなく感じた。


「討伐戦のときは忙しくしていて、ろくに挨拶はできていなかったな。私は代美だ」

「私は南部家の嫡男である利光です。助けていただき、ありがとうございました」


 藤堂家は南部家よりも立場が上であるので礼儀正しい言葉でいると、代美は苦笑する。


「あらたまなくていいぞ。あのときは手っ取り早く実家の笠に着たが、普段の私は灰身上の立場を優先している。乱暴な手段を用いてすまなかったな」


 藤堂家の娘なのは本当なのか、証拠はあるのか。

 尋ねる必要なく察した。立ち姿は背が伸びて綺麗で堂々としており、生まれの気品さは滲み出ている。言葉には相手への思いやりがあり、利光を見る瞳は曇りがなく真っすぐで、嘘偽りはないという清廉さを感じた。



 ノエルが早くヒトカゲを斬りたいという戦闘狂であることから、話をするのは短かった。

 代美との別れは名残惜しかった。今まで出会ったことのない武家の女として利光は惹かれ、また話をしてみたいと思った。


土曜更新はストップします。

更新自体、暫くないと思います。

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