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4・団長さまのこと

「な、ななな、なな、なぜ……」


 思い返すも、魔女の前で団長さまの名前を出したことはない。なのに、どうして、なんで。


「第一王女の待遇見直しを何度も国王代理に進言しては全て却下されている、国境戦争の英雄で現第二騎士団の団長。そんな男が、王女の専属侍女になった私を放置するわけないでしょ」


 魔女はつまらなそうに言い、肩をすくめた。


「と言っても直接会ったわけでも、連絡があったわけでもないわ。何回か下級騎士たちがこっそり私の手伝いをしてくれたから、何かあると思って調べたのよ」


 その結果、団長さまにたどり着いたのだという。

 ああ、あの報告書は、嘘ではなかったのだ。団長さまは本当に、私を気にかけてくれていたのだ。

 書面でしか知らなかった彼の気遣いを、この身できちんと感じることが出来る。それがとても、うれしい。


「あそこまであなたを気にかけている人がいるのに、当のあなたが知らないわけがない。だというのに、前のあなたの話には一切出てこなかった。おそらく、騎士団長は早い段階で殺された。それも死んだ時期は、ちょうど今頃ではないのかしら」

「……そこまで分かってしまうのか。薄々気付いていたが、恐ろしい人だな、魔女は」

「あなたと騎士団長が分かり易すぎるだけよ」


 こうなると、彼のことを話して、魔女にも協力してもらった方がいいか。どのみち、私ひとりでは出来ることが少なすぎる。


「隠していたわけではないんだが、リュディガー・アッヘンヴァル騎士団長……団長さまは、私を唯一気にかけてくださったお方だ。そして、そのせいで命を落としてしまった」


 魔女が知った通り、団長さまは私の待遇を改善しようと国王代理に何度も進言してくれた。そんな彼を疎んだ父は、団長さまに危険な密命を下し、その結果、命を落としたのだ。


「あの男、相当強いわよね? そんな男が死ぬような無茶な命令って、どんなものだったの?」

「団長さま単独での魔獣討伐だ。王都の北にある森で魔獣の目撃情報があり、それをどうにかしろと父が名指しで密命を出した。森には実際に強い魔獣がいて、魔獣の討伐には成功したものの、ほぼ相打ち状態で、そのまま……」


 実は、私は実際に団長さまに会ったことがない。それどころか、顔も知らない。

 私が団長さまのことを知ったのは即位してからだった。

 暇を持て余した私が城内探検中に偶然見つけた、秘密書庫。そこには裏で処分されたはずの多くの機密書類が隠されていて、その中のひとつに、団長さまに関する報告書は紛れていた。

 何かに導かれるようにその報告書を読んで、私は初めて、私を気にかけてくれた人がいたことを知った。そして、その人は私を見てくれたからこそ、死んでしまったことも。


「詳しい日時までは分からないが、私が十二歳になる前に事が起きたのは確かだ。今の私は十一歳、いつあの命令が出てもおかしくない」


 秘密裏に処分されるはずだった報告書にはいくつか黒塗りがされていて、詳細な日付も塗りつぶされていた。分かるのは、性悪貴族が私に接触する前の出来事ということだけ。

 発覚した私の今の年齢は十一歳。団長さまの死に間に合ったことには安堵したが、あまり時間は残されていない。

 一刻も早く、団長さまに進言させることを止めさせなければ。そうすれば、あの命令が出ることもないはずだ。


「魔女、頼みごとばかりで本当に申し訳ない。だが、私はどうしても団長さまをお助けしたいのだ。どうか……どうか頼む。協力してほしい」


 頭を下げて必死に頼む。

 魔女からの返事はなく、やはり虫が良すぎるかと諦めかけた、その時。


「ひとまず、顔を上げて」


 そろそろと顔を上げれば、魔女は困った顔で私を見ていた。


「……協力は、その内容次第ね。なんでもかんでも引き受けるつもりはないわ」

「あ、ああ! それで構わない、本当に感謝する!」

「それから、進言を止めさせる作戦はもう遅いから。あの男が進言した回数、既に十回は越えているらしいし」


 魔女の聞き込みの結果、本当に父に会う度に進言しているらしいとのこと。今更止めさせたところで、国王代理は団長さまが邪魔な存在と認識済。排除に動くのは時間の問題だ。


「そんな……ならば、そうだ! 討伐命令を突っぱねてもらえばいい! 魔獣相手に単独で調査と討伐を命令するのはおかしいからな!」

「それは正論だけど、騎士団長は理不尽な命令に一切反論せず、一人で森に赴いたのでしょう? たぶん、交換条件を出されたんじゃないかしら」

「交換条件……まさか、私に関すること……?」

「でしょうね。一人で討伐に向かう代わりに、王女に関する何かを約束したんでしょうけれど。あなたの結末を省みるに、反故されたんでしょうね。その内容を知るのは当事者二人だけ、片方が消えれば守る意味なんてないもの」

「そんな……」


 本当に、私のせいで団長さまは命を落としたのか。私のために、本当に命を賭けてくれたのか。

 ……もしかすると、私が覚えていないだけで、私と団長さまは何処かで出会っているのかもしれない。だとしたら、尚更に私を気にしないように伝えねばならない。


「私のことは気にせず、その命令に反発しろと伝えねば。うむむ……そうだ、手紙。手紙だ、手紙を書こう!」


 私が直接出向き、会って伝えるのは難しい。私は離宮どころか、本来この部屋から出ることも許されない、幽閉された王女。書庫にこっそり出向くくらいならともかく、堂々と外を出歩けるはずがない。

 そもそも団長さまが進言していることを、本来の私は知るすべを持たないのだ。

 だから手紙で伝えようと思う。匿名の手紙で、父の企みを教えるのだ。信じてもらえなくていい、それによって警戒を強めてもらうのが目的だ。うん、我ながらいい作戦である。

 出歩けない私に代わりに、そんな重要な手紙を託せるのは、信頼できる魔女だけ。全ては彼女に託すしかない。頼りきりで情けないが、出世払いで許してもらいたい。


「魔女。さっそく手紙を書くから、団長さまにそれとなく、渡してもらえないだろうか?」

「嫌よ」

「……、え?」

「嫌よ、絶対に嫌」

「…………へ?」


 ……いきなり作戦が暗礁に乗り上げたのだが、どうしたらいい?

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