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「知らない天井だ...」


 日本では有名になったセリフをつい言ってしまったが、本当に知らない天井だ。間違いなく家ではない。


 辺りを見渡してみると、見慣れない木製の部屋である。

 特に何も置いていない。机もなければ椅子もない。お見舞いの花もない。

 強いて言うなら非常にボロいということがあげられるだろう。


 唯一家具としてあるのは、今寝ているボロボロのベットのようなものだけである。


 目線の先には扉が1つ、振り返ると後ろ手には窓が一つある。

 ここはどこだろうか。


「ウオオオオオオオオオオォォォォ」


 突如、猛獣のような叫び声が聞こえた。叫び声に続いてガンガンと何かを打ち付けるような音が聞こえる。


「ひぃ」


 なんだここは、なんでこんなところにいるんだ。

 思い出せ俺の記憶。蘇れ俺の記憶


 頭をフル回転し、最後の記憶を探る。

 確か、最後に覚えているのは....


 目の前に迫り来るトラックの光景だった。


「そうか、俺は死んだのか...」


 体がバラバラになるような強い衝撃を覚えている。

 あのスピードでぶつかったらどうみても死んでいるだろう。


 確かにこの部屋もどう見ても病院じゃない。

 病院にしてはボロボロすぎるし、ナースコールの1つもないのはおかしいだろう。

 体には包帯もないし、植物状態であったら点滴なり、心電図なりが付随していると思うが、そうした付属品もない。


 となると


「もしかして異世界転生か?」


 異世界転生は、昨今ネット小説で流行っている、死亡後、別世界で冒険する物語群だ。

 おじいちゃんたちがみるような水戸黄門のように、物語の展開が分かりやすく、勧善懲悪に近い安定した物語が多いのが特徴だ。


 こういうのって神様からチート能力貰うんじゃないのかよ...

 しかし、今のままでは異世界転生したかどうかわからない。

 ということは、これを言ってみるしかないだろう。


「ステータスオープン」


 近藤 歩夢こんどうあゆむ

 Lv.1

 異世界転生者

 18歳


 HP 100

 MP 550

 ATK 35

 DEF 5

 INT 55

 MGR 5

 AGL 25


 持ち物 なし


「いよっしゃ」


 目の前にステータス画面が現れる。

 これも異世界転生小説ではお決まりのパターンだ。


 それにしても、HPは体力、MPはマジックポイント、ATKは攻撃力かな、DEFは防御力、INTは賢さとして、MGRはなんだろうか?


 MagicResistだろうか?魔法防御力?


 まあわからんが、AGLはアジリティ、素早さだな。


 ただ持ち物もないし、スキルとかもなさそうだ。

 なんもないのかよチート能力。物語の鉄板じゃないんですか?

 つらたん


「キィィィィィィィィィ」

 今度は甲高い鳥の鳴き声のような音が扉越しに聞こえる。

 もうダメだわここ。


 絶対危ないだろ。なんとかしてくれ。


 意を決して扉を開けようとしてみると、扉はこちらを拒むかのようになぜか開かなかった。


「嘘だろ」


 俺閉じ込められてるじゃん。

 こんな異世界転生ある?いきなり監禁から始まるとか物語終わりよ終わり。


 はぁ...異世界転生の現実は厳しいですな。


 しかし、せっかくの異世界転生、こんなところで諦めている俺ではない。

 気を取り直して窓を調べてみると、


 なんと窓には窓ガラスがなかった...


「.......」


 ぴゅーぴゅーと生暖かい風がガラスのない窓から吹き込み、室内をめぐっている。


 なんという灯台下暗し。

 人間の思い込みって恐ろしい。


 こんなボロ屋に窓ガラスなんてハマっているわけがないのだ。

 というより窓ガラス自体の歴史は古いが、17世紀イギリスでも窓ガラスをハメず、小さい窓枠に鉄格子のようなものをつけていたという話もある。


 窓に窓ガラスがついているというのは思い込みなのだ。


 つまり、俺は自由だ。


 何もはまっていない、ただの窓を通り抜けると俺はなんなく脱出に成功した。


 なんともあっけないことだ。



 窓を抜けると外は森であった。

 建物同様薄気味悪い雰囲気が残るその森は、いかにも鬱蒼としていて、お化けの1つでも出そうである。


 振り返ると先ほどまでいた建物がある。


 この建物の裏手が森になっているのだろうか。

 どうやら建物は木製の長屋のようで、古い学校の校舎のようにも見える。


 窓枠の数からかなりの部屋数があるようだ。

 俺が出てきた窓以外には、鉄格子のようなものがハマっている。


 完全に監禁施設じゃん........


「ウオオオオオオオオオオォォォォォォォォ」


 部屋の一つから声が聞こえる。


 なんだここはお化け屋敷か何かかよ。どうしていきなりこんなところに転生するんだ。

 もっと普通の森の中とか、平原とかにでるとか、いきなり王城で勇者召喚をしましたとか、そういう流れじゃないのかよ。

 小説だと大抵、ご都合主義でなんとかなるものだが、どうやら厳しい現実は厳しいようだ。


 などと、異世界転生という辛い現実から、現実逃避をしていると

 その音は、俺が出てきた部屋の隣の窓から聞こえてくる。


 恐る恐る窓の鉄格子を覗いてみると、隙間から見えていたのは、虚ろな瞳、漂う腐臭、ボサボサの髪


「......」



 その生物は、目はギョロっと飛び出て、焦点は合っていない。腹からは内臓が飛び出ている。



「おぇぇぇ」


 吐いた。

 気持ち悪すぎる。


 これはたぶんゾンビというやつだろう。

 ファンタジーでもオカルトでもお馴染みの生きる死体だ。

 よくゲームでゾンビが撃ち殺されている作品をみる。俺はやったことはないが...


 あんな気持ち悪い生者がいてたまるかよ。あっちいけしっ、しっ。


 俺の祈りが通じたのか、ゾンビ(仮)はふらふらと窓のそばを離れていく。




「早く逃げないと」


 俺は気づいた。

 ここはヤバいところだ。


 どうみても普通じゃない。ここで助けを呼んでも、助かる見込みを感じない。

 異世界転生で誰に助けを求めるんだよという感じだが。


 考えるにもしかしたら実験施設なのかもしれない。

 もしくは、捉えた生物を閉じ込めているとか?


 なんのために?


 わからない。

 でもここにいてはいけない。

 それは間違いなく感じる。


 逃げなくては、どこか遠くへ。

 でもどこに?


 ゾンビは現実にはいない。

 ということはやはりここはファンタジーの世界だ。

 俺はただ一人。

 あるのはいつも着ている普段着だけ....


 トラックにひかれた時はこんな服装じゃなかったような?まあわからないが


 ともあれ、こんな状況となれば、まずは情報収集に人間が集まっている場所に行くべきだろう。


 ステータスにレベルにゾンビ。

 ゾンビが登場しなければ俺の好きな異世界転生物語の序章としては最高なのだが、実際に転生または転移をするということは、こういうことなのだろう。


 まずは、森に逃げておこう。生き残るために...




 森は想像していた場所と違い、草はあまり生えておらず、鬱蒼としており昼間にもかかわらず薄暗い。


 草が生えていないのは木が覆い茂っているため光が入ってこないからだろうか。

 森で遊んだのは中学生の時、冒険遊びプレーパークとかいう森の中の公園で遊んだのが最後か。


 異世界に来るんだったら、もっと運動して体力をつけておけばよかった。



「ギィギィ!!」


 後ろから不快な音がする。

 ぎょっとして振り返ると、そこには緑色の身長140cm程度の生物が2匹いた。


 手には棍棒のようなものを持っており、こちらをニヤニヤと見ながら、涎を垂らしている。顔はこの世のものとは思えないほど醜く、とてもみるに耐えない。


「ギャアギャア」

「グギャグギャァ」


 2匹のおぞましいほど気持ち悪い生物は何やら、こちらを見ながら話している。

 手でこちらに手招きしているようにも見えるのは気のせいだろうか。

(おいこっちこいよ坊主、ちっ反応なしか、おい相棒、さっさと捕まえようぜ、俺正面からいくわ)

(じゃあ俺は右手から回り込むわ)

 などとでも話しているのだろうか。


 見た目から察するに、ファンタジー生物特有のゴブリンだろう。あんなに醜悪な生物だとは思っていなかったが、緑で小柄で二足歩行の人型でいやらしく笑っているのは間違いないだろう。


 逃げるしかないな。


 俺はわき目もふらずに森の奥へダッシュする。


「ギャアギャア」


(待て)とでも言っているのだろうか。

 しかし、モンスターに言われて待つわけないだろう。


 はて

 あのゴブリンたち森の先のあの建物のあたりから来たよな。

 もしかすると、あの建物を作ったのはゴブリンなのか?

 となると俺を閉じ込めたのはゴブリンということになる。


 ゴブリンはファンタジーだと雑魚モンスターの定番だが、賢く意思疎通可能な場合もある。


 先ほどの鳴き声から考えるに、少なくとも日本語は話せない、もしかしたら、俺の言葉とは違う言語を話しているかもしれないが....


 もしかしたらこの世界のゴブリンは知的生命体なのかもしれない。


 やだなぁゴブリンが天下をとっている世界だったら。


「グギャグギャ」


 かなり走ったつもりだが、

 1匹のゴブリンはまだ追ってくるようで、俺の後方をマークしている。


 しつこいゴブリンだ。

 思ったよりも足が速く、持久力もある。


 人間は持久力にすぐれた生物だと、聞いたことがあるが、ゴブリンも持久力に優れているようだ。

 俺は運動経験がたいしてないので、ぶっちゃけもう限界だ。


 俺の疲労が貯まってきたのか、段々距離を詰められてきている。

 ほどなく捕まってしまうだろう。


 覚悟を決めるしかない。


 俺は地面に落ちていた石を拾った。

 体勢が崩れてまた距離を詰められる。


 しかし、これでいけるはずだ。


 振り返ると土と根が剥き出しの地面をゴブリンはひょいひょいと走ってくる。

 この辺りを走り慣れているのだろうか。


 まあいい、今はそれよりタイミングだ。

 これを外したら死ぬ。

 また、あの場所に戻されて、今度はゾンビにされるかもしれない。


 落ち着け、落ち着け.........


「すーー」


 まだだタイミングを図って...今だ!


 俺は反転をして顔面に蹴りを叩き込む。

「グェ」


 蛙が潰れたような声がした後、ゴブリンは木に頭を打ったようだ。


 俺は持っていた石でゴブリンの頭を殴りつけた。ゴブリンの頭は柔らかく、1発殴るとボコっと凹んだ。

 ゴブリンは青色の血を流し、苦しそうにぎえぎえと叫ぶが3、4回殴ると大人しくなった。


「はぁはぁ、俺の勝ちだ」


 思った通り、ゴブリンはそこまで強くなかった。

 武術の心得もない俺が、石一つでなんとか倒せたのはラッキーだろうが、ゴブリンも不意を突かれて動けていなかったのだろう。


「ステータスオープン」


 近藤 歩夢こんどうあゆむ

 Lv.2

 異世界転生者

 18歳


 HP 100→110

 MP 550→560

 ATK 35→37

 DEF 5→6

 INT 55→58

 MGR 5→6

 AGL 25→27


 持ち物 尖った石

 ロープ


 やはりステータスを見ると、レベルが上がっている。

 この世界はレベル制なのだろう。

 となると、ゴブリンはなるべく殺しておいた方がいいな。

 レベル制は経験値とセットであることが多い

 正直なぜ、レベルが上がるとステータスが上がるのかはよくわからないが、ゲーム的にはよくある話だ。


 経験値が欲しい。


 ゴブリンの持ち物を漁ってみると、ロープがあった。


 某ゲームのようにモンスターを殺したら、消えてドロップ品だけ残してくれると楽なのだが、この世界ではリアル路線なのか、当然のように死体が残っている。

 よく小説で、モンスターから剝ぎ取りをしている描写を見かけるけど、俺にはできそうもない。


 というより、ゴブリン臭いし触りたくもない。

 絶命した顔も、あまりにも醜くいっそのこと顔を潰してあげた方が優しいように思うほど醜悪だ。


「ロープか」


 ロープがあれば、かなり便利だ。というよりこのゴブリンは何のためにロープを持っていたんだ?もしかすると捕まえて縛るためだろうか。


 まあ考えていても仕方がない。

 思考を切り替えよう。


 俺は、森の中に入って真っ直ぐ逃げてきたつもりだが、ぶっちゃけ追いかけれて、どこにいるかわからない・・・


 正直に言おうそう、遭難しているのだ。

 森は薄暗く、太陽の光も入ってこないので、どっちの方角にいけばいいのかもわからない。


 異世界で一人、森の中を遭難

 とてもでないが、生き残れる気がしない。

 しかしだからといって立ち止まっていても仕方がない。


「とりあえず進むしかないか」


 止まっていては、あのゴブリンたちが追いかけてくるかもしれない。




 歩き続けること3時間。

 喉がカラカラだ。


 水が欲しいが、辺りは相変わらず、薄暗い森である。

 そろそろ見飽きた光景だ。


 湖や池、川の気配もない。しかし歩き続けるしかないだろう。


「キャーーーーーーーー」


 突然、甲高い悲鳴が聞えた。静かな森に似合わない、悲鳴。

 それも、おそらく


「人間の声?」


 人間の女性だと感じる声だ。

 これはもしやと感じ、音の聞えた方向へと俺は急いで走った。


 森は次第に草が生え始め、木の感覚もまばらになった。

 そして、日の光が差し込み、森を抜けると、そこは大きな岩のある草原が広がっていた。


 ジ〇リ作品で見たことあるような雄大な光景だ。

 現代日本ではなかなか見ることのできない美しい景色だろう。


 しかし、美しい景色の中に、残念ながらまた、緑色の小柄な人型がいる。

 ゴブリンだ。


 そして、その2匹のゴブリンは1人の人間の女性を襲っているように見える。


 おそらくさっきの悲鳴は、彼女のものだろう。


 先ほどのゴブリンと同じく、醜悪で体からは異臭が漂っている。


 俺は迷うことはなかった。


 護身用に手に持っていた尖った石で、素早くゴブリンを殴りつける。

「ぐげ」

 そして、もう1匹のゴブリンがこちらをぎょっと見てきたので、顔面に石を叩き込んでやった。


 ガツンと最初に殴ったゴブリンの頭に石を突き刺してとどめを刺し、次のゴブリンをロープで首を絞め、絞殺する。


 ゴブリンは人型だけあって、首を絞めればちゃんと苦しいようだ。バタバタと凄まじい力で暴れている。


「はぁはぁ」


 しかし、絞め続けること数分?もっと長くも感じたが、ゴブリンはその汚らしい顔をさらに汚くして、息絶えていた。



 大変だった。


 異世界でゴブリン倒すの大変すぎないか?

 体重は重いし、力は成人男性並みにあるし....

 俺が素手だからなのか?正直、こんなのが闊歩している世界で生きていける気がしない。

 たしかにファンタジー小説だと、魔法やら剣やら使って倒しているから、魔法や剣があればたいしたことないのだろうか。


 ファンタジー小説でも、ロープと石で倒すなんていう話は見たことがない。


「あっあっあの.......」


 ゴブリンの近くには女の子が腰をぬかしていた。

 歳は大学生ぐらいだろうか。若くとても美しい女性だ。

 粗末な麻でできたとみられる貫頭衣を着ている。


 教科書の縄文時代や弥生時代の人々みたいなイラストの所にありそうな服装だ。


「あっありがとうございました。助けていただいて」

「いや、なんてことないよ。ところで、この辺りに住んでいるの?村とか町があったら案内して欲しいんだ。」


 本当は大変だったけど、かっこよく決めてみた。

 これはフラグ立ったな。


 俺は女の子の手を取って、立ち上がらせた。


「村ですか?村ならここからすぐ近くですよ。案内します。とりあえず私の家に来てください。お礼もしたいので」


 どうやら、異世界の第一村人は彼女だったようだ。これまでゾンビやら、ゴブリンやら言葉の通じない、化け物ばかりにであってきたが、やっと言語が通じる相手と巡り合うことができた。


 汚らしいが我慢して、ゴブリンの体をまさぐってみると、一本のナイフと不思議な筒に入った水がでてきた。


 水は匂いをかいでも、手に付けても大丈夫そうなので飲んでみた。

「ぷはぁ」

 怪しい水かもしれないけど、生き返るわぁ


 それにナイフという武器も手に入ったこれで、ゴブリンが出てきてもなんとかなるだろう。

 ただしナイフは、木製の柄に錆が浮いた金属がついている。

 ゴブリンはナイフを作れるのか、それとも人間から盗んだのかはわからないが、手入れはずさんなようだ。


 まあもっとも俺もナイフの手入れなど知らないが...


 それよりも、彼女はどうしてこんなところに1人で歩いていたのだろうか。

 もしかしたら、ゴブリンはいつもは森に住んでいてこの草原には出てこないのかもしれない。


 となると、あの森の中の建物はなんだったのだろうか。


 そう思い聞いてみると、


「森の中に建物ですか?もしかしたらゴブリンが村を作り始めているのかもしれませんね。また、冒険者に討伐依頼を出しませんと」


 冒険者!やはりファンタジー定番の冒険者もいるようだ。

 どうやらゴブリンも建物を作るぐらいの文明を持ち合わせているらしい。


 ただ森の中に住むらしく、あまり深くまで入らなければ安全だし、人間を見ても襲ってくることは少ないそうだ。


 思ったよりも危険な生物ではないのか、と思うと生物を殺した罪悪感がほんの少しだけチクっと痛むが、よく考えるとゴブリンに追いかけられたのだし、致し方ないことだろうと思い直す。




 そう思考しながら、美しい草原を歩くと、綺麗に草が倒された大きな道のような場所にたどり着く。

 特に考えることもなくふらっと渡ろうとすると


「ブモオオオオオオオオオオオオオ」

「危ない!!!!」


 手を引かれ急いで後ろに下がると

 凄まじい轟音とともに、巨大な猪のような生物が走り抜けていった。


 怖、危なかった

 あんなに跳ね飛ばされたらぺしゃんこになっているところだった。


 もの◯け姫で見たぞあのでかい猪。


「あっありがとう」

「さっきとは逆になりましたね」


 そう女性は微笑んだ。見るものが浄化されるような笑顔だ。

 女性、あっそうだ名前を聞いていなかった


「助けてくれてありがとう、そうだ名前を教えて欲しいな。俺は近藤歩夢というよ」

「コンドウアユムさん?ですか?私は、リィと言います。変わった名前ですね?どこから来たんですか?」


 うわーテンプレだ。名前がこの辺りで馴染みがないので出身地を聞く流れは、小説でたくさん呼んだぞ。

「東の方から来たんだよ」

「東ですか?方角はよくわかりませんが、遠いところなのですか?」


 方角を知らないのか、もしかしたら教育レベルが低いのかもしれない。

 まあ方角を知らない日本人もたくさんいたので、何とも言えないが...


「遠いよとっても、太陽が登る方から来たって言ったほうがよかったかな」

「おぉ日の登る方からいらっしゃったんですね」


 そういえばこの世界ってちゃんと太陽は東から登って西に沈んでいるよな。

 逆になってないよなたぶん。


 思案しながら歩くこと10分ほどだろうか。

 ポツンポツンと家が見え始めた。


 なんか異世界の村って柵に覆われた小集落っていうイメージだったけど、違うのね...


 そうだ村に入る前にステータスを確認だ。


 近藤 歩夢こんどうあゆむ

 Lv.3

 異世界転生者

 18歳


 HP 110→120

 MP 560→570

 ATK 37→39

 DEF 6→7

 INT 58→61

 MGR 6→7

 AGL 27→29


 持ち物 

 尖った石

 ロープ

 錆びついたナイフ


 スキル

 暗殺術Lv.1


 称号

 螟「縺ィ迴セ螳溘r豺キ蜷後@縺滓ョコ莠コ鬯シ


 おっなんかスキルが生えてる。

 暗殺術か、ゴブリンを不意打ちで倒したせいかな。

 そしてなんだこの称号、文字化けかよ。


「どうかしましたか?」


 気がつくとリィがこちらを心配そうに見ている。


 考えてるとボーッとしちゃうのは悪い癖だな。


「大丈夫大丈夫ボーッとしてただけ」


 ここは家と畑が並んでいるだけの、のんびりした風景だ。

 いやいいなぁこういうところでスローライフをしたいものだ。

「あそこですよ」


 リィが指を差した先には周りと同じくらいの家があった。

「おとーさん!!いるーー?お客さん連れてきたよ!!」


 呼び鈴はないので当然、大声で呼ぶことになるわけか。


 しかし、返ってきたのは咆哮であった。


「ガアァァァァァ」


 それは青い肌をした。体は2mぐらいだろうか。頭に大きな角が2本生えている化け物であり、腰布が巻かれているだけの粗末な服を着て、大きな棍棒を持っている。


 日本的に言うと青い鬼、ファンタジー的にはオーガというやつだろうか。


 オーガ(仮称)は俺を亡き者にしようと殴りかかってくる。

「な、なんでこんなところにオーガが!!!」


 リィが叫ぶ。

 やはりオーガだったらしい。

 俺はナイフを構えて応戦しようとするが、圧倒的威圧感の前に腰が引けてしまった。


 足がすくんで動けないというのはこういう状態のことをいうのだろう。俺は一歩も動けなかった。


 すると驚いたことに、オーガはリィの腕を掴んで建物内に連れ去ってしまう。


 そしてオーガはまた叫びだした。


 なんだったんだ今のは...


 いや呆けている場合じゃない、あのオーガを倒さないとリィが危ない。

 しかし正面からあれと戦うのはどう考えても厳しい。だいたいオーガって、ゴブリンより3ランク以上強いと思うんだが...


 なぜ、序盤にこんなものが出てくるんだ。

 異世界の現実は厳しい...




 整理するといま手持ちにある武器は、石とロープとナイフか


 オーガは建物に入った。

 何のためにかはわからない

 いやオーガといえば、人間を食べるというのは鉄板だ。


 つまり、リィ食べようと思って...


 今ごろリィが食べられている?

 細い腕がバリバリと、腕が折り足、を折り、血を啜りながら嬉しそうにしているオーガの顔が思い浮かぶ。


 ダメだこんなことを考えている場合じゃない

 そうだやれるのは俺だけなんだ。


 勇気を出せ、近藤歩夢。


 正面からは不可能、であれば

 俺にできるのは奇襲をかけることだけ

 よし


 やるか


 建物の影に隠れ、中の様子を伺おうとするが、窓のようなものが見当たらない。

 クソ、これじゃ作戦も立てられやしない。


 すると、オーガがガタガタと扉を開けて出てきたではないか。


 オーガはこちらに気付いていないようで、キョロキョロとあたりを見ている。

 オーガであれ鬼であれ生き物であるなら心臓を突けばきっと死ぬだろう。


 つまり狙うは心の臓


 古来よりそして今のファンタジーでも心臓というのは、多くの生物の弱点だ。


 俺は持っていた尖った石を家の向こう側に投げるとカシャンといい音が鳴る。


 オーガもその音に釣られて、反対側に動き出した。


 チャンスだ!

 俺は後ろからオーガに向かって足音を殺して走り、一気に背中からナイフを突き立てた。

 もちろん、オーガがこの程度で死ぬとは思っていない。


 俺はナイフを引き抜きもう一度刺す。

 もう一回、もう一回、、、


 何回刺しただろうか。

 俺はオーガの返り血を浴びて真っ赤になっていた。

 どうやら青いオーガにも赤い血が流れているようだ。口を切ったのか返り血が入ったのか、口の中が鉄の味がする。

 最悪の気分だ。


「グギャグギャ」


 馴染みのある声が聞こえたと思うと、後ろにはまたゴブリンがいた。


 オーガを倒して一息もつけさせてくれないのかよ。

 しかしオーガを倒した俺にゴブリン程度は敵でもない。


 オーガの死体にびびっているのか、ヨロヨロと後ずさるゴブリンを正面からナイフで刺し顔面に肘鉄を入れる。


 俺の力が強くなったのか、ゴブリンの顔面がボキッといい音を鳴らして陥没した。


 醜くしわくちゃな顔をしたゴブリンが、ふらふらと地面に倒れる。なんともいじわるそうな顔だ。


 体軽い。力が湧き出してくる。

 もしやレベルアップしたのでは?



 近藤 歩夢こんどうあゆむ

 Lv.33

 異世界転生者

 18歳


 HP 120→420

 MP 570→870

 ATK 39→99

 DEF 7→37

 INT 61→151

 MGR 7→37

 AGL 29→89


 持ち物 

 尖った石

 ロープ

 錆びついたナイフ


 スキル

 暗殺術Lv.1


 称号

 螟「縺ィ迴セ螳溘r豺キ蜷後@縺滓ョコ莠コ鬯シ

 逶ョ繧定ヲ壹∪縺


 おおー大幅レベルアップ。

 通りで体軽いはずだ。


 そして、増える文字化け称号...


 読めないんだが...


 そうだ!リィを助けないと...



「リィ!」


 扉を開けるとそこにはリィがいた。


「ひぃ」

 リィはとても怯えているようだ。


「リィ大丈夫だよ。俺だよ近藤歩夢だよ」


「コンドウアユムさん?き、来ちゃダメです!」


 そういうと、リィはさらに奥の方に逃げてしまった。

 ツンとする臭いがする。あとリィがいた場所が濡れている。


 これは漏らしたのか。

 それは、来てほしくないわけだ。


 俺は鈍感系ではないので、こういう時は一旦離れるのがいいと知っている。

 なので、


「他の村人にオーガが出たって伝えてくるよ!」


 と大声で言って、いったん家から出ることにした。

 とは言ったものの外に出ると、ひとりぼっちの異世界が寂しいというものでして


「とりあえず村を一通り見てまわるか」


 村はやはりのどかで、畑が広がっている。

 というよりお隣さんが数百メートル先にあるってマジかよ。


 こんなのオーガだろうがゴブリンだろうが出ても助けを呼べないじゃん。


 そう思って歩いていると、前方から豚顔をしたくっさい生物があらわれる。


 二足歩行の豚だ。

 体は相当不潔なのかハエがまとわりついている。

 豚面の二足歩行

 ファンタジーだとオークという奴だろう、


 オークはブモォォオと声をあげると逃げ去っていく。

 あれ?


 モンスターが逃げたんだけど...


 あっオーガの血を浴びてるからか。


 といってもオークを逃したりしないけどな。

 経験値になりやがれ


 オークの足は遅い。いや俺が早くなったのか。

 体が軽い。

 オークの背中にナイフを突き立てると断末魔をあげ、あっという間に動かなくなった。

 オークからは一週間煮詰めた、雑巾のような臭いが漂っている。

 これは牛乳をこぼした後雑巾でふいて、それを洗わずに放置した系の臭いだ。


「ふぅ」


 一仕事して気持ちがいいな

 おっとステータスみるか


「ステータスオープン」


 近藤 歩夢こんどうあゆむ

 Lv.33

 異世界転生者

 18歳


 HP 420

 MP 870

 ATK 99

 DEF 37

 INT 151

 MGR 37

 AGL 89


 持ち物 

 尖った石

 ロープ

 錆びついたナイフ


 スキル

 暗殺術Lv.1


 称号

 螟「縺ィ迴セ螳溘r豺キ蜷後@縺滓ョコ莠コ鬯シ

 目を覚ませ


 ん?レベルは変わってないが、称号が読めるようになっている。

【目を覚ませ】?

 どいうことだ。


「ブモォォオ」

「ポォォォォォ」

 大きな鳴き声が聞こえたかと思うと、先程見た猪がこちらに近づいてくる。


 それも3匹。


 なんだ、この村モンスターの巣窟では?


 しかし驚いたのはその猪の上に先ほど見た青いオーガが跨っていることだ。


 猪は止まるとオーガが猪から降りてきて、こちらを睨みつけている。


「ガアァァァァァ」


 もしかしてオーガを殺したから報復にやってきたのだろうか。

 あの猪はオーガの騎獣だったようだ。


 俺はナイフを構え元きた道に引きかえそうとする。

「ガアァァァァァァ」


 背後にも青いオーガと猪が迫ってきていた。

 なんということだ。

 挟み込まれた。


 オーガって群れずに単独で戦うイメージだったが、まるで獲物を追いつめる狼のような見事な連携だ。狼などテレビでしか見たことがないが...


 しかし逃げるしかない、左右はたまたま巨大な石があり逃げるのは難しそうだ。

 ん?何かおかしいぞさっきこんな石あったっけ?


 まあいいそれでも、今は逃げるしかない。

 俺は数が少ない後方のオーガに向けてナイフを握り締め走り出した。


「パァン」


 乾いた音ともに、俺の体が急に鉛のように重くなった。

 腹の当たりが熱い。


 なんだよこれ...


 俺は霞んできた目でオーガの顔を睨みつけると、そこに居たのは



 人間だった。


「え?」


 口から間抜けな声が漏れる。

 目の前には黒い塊、おそらく銃を構えた警察官がこちらを怯えながら見ている。

 そこにいたのは青い鬼でもオーガでもなんでもない


 ただの人間だ。


「確保!!」


 見ると周りにいた青いオーガは全て警察官に変わっていた。

 警察官たちは、ドラマのワンシーンのように、俺にとびかかってくる。

 猪だと思っていたのは、パトカーであった。

 そして救急車も何台か止まっているのが見える。


 そう、これは紛れもなく俺がよく知っている現実の光景だ。


 え?ここは異世界じゃない?


 じゃあ、あのゾンビは?ゴブリンは?オークは?リィは?


 俺が今まで見てきたものは何だったんだよ...


 俺の服は真っ赤に染まっているが、元々は白だったのだろう

 病人が着ているような服だ。


 じゃあ俺が殺してたのはにんげん...

 最初の場所はなんだったのか

 俺は何者だったのだろうか


 あの記憶はなんだったのか。


 俺の意識は全てを拒絶するかのように、白い世界へと沈んでいった。



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