聖女が男でナニが悪い【短編用】
王宮の一室。
円柱状に作られたこの部屋の中央には巨大な円形の高台があった。
そして、それを守護するように騎士達が並んでいる。
「ようやく、ここまでこぎつけた・・・」
高台を見上げながら壮年の男が呟く。
煌びやかな装飾に身を包み、威厳を漂わせていた。
「はい。ようやく・・・」
隣に佇む美女が頷く。
「では、巫女殿。頼む」
唯一人
高台に居た女性は、その声を聴いて小さく頷いた。
------------
ここは、ディアストーン王国。
大陸の最北東に位置する、森林に囲まれた静かな王国だ。
正確には、大陸の中央にあるのだが
人も生き物も、植物さえ生きられない瘴気が大陸を覆っており
『生き物が生き物として生存でき得る環境』として最北東に位置している。
瘴気は、生きとし生けるモノを魔物に変え
ナニも生きるものを産まない土地を作る。
そうして今、その瘴気がこの国を蝕み始めたのだ。
王は各国に呼びかけ、瘴気を祓う異世界の使者『聖女』を呼ぶことにしたのだった。
------------
「始めます。」
巫女は詔を発し、神へ『聖女』へ願いを告げる。
円台の中央は光を増し、何も見えない状態を創り出していった。
そして、その中から人の影が少しずつ少しずつ形成されていくのだった。
おお・・・と、ああ・・・とこの一室にいる皆が成功を確信しだのだった。
「『聖女』様の行幸だ。」
ーーーーーーーーーーーーー
さてっと、少し思い出そう。
名前は・・・シオザワノリユキ
年は・・・・38
性別・・・・男
職業・・・・サラリーマン
うん。記憶喪失ではないっと、
で
なんで皆に呆然とされているのか・・
目の前の、うっすい布を纏った女性は「なんでなんで?」言ってるし
後ろのすっごい偉そうな夫婦は、まだ立ち直ってない。
口をあけっぱだ。
周りの屈強な騎士たちは、呆然としている。
んーっと
確か・・・
<<<<<<<<
「すみません!すみません!はい!はい!
そうですね!次は男だけでじっくりと呑みましょう。
ありがとうございます!
それでは、失礼します!」
携帯電話片手で頭をペコペコ下げて対応する。
社内なんだけど、屋外設定なので会社の電話は使えない。
・・・・社内だと上司出せ!とか言われるからな。
どうにかこうにか、お客さんに許しを貰えた。
ふうとため息をついて隣を見る。
ビクビクと後輩の真紀ちゃんがこちらを見ていた。
「なんとか、先方さんから許しはもらえたよ。
ダメだよぉ。ここの部長さんは質が悪いんだから。
一人で対応しちゃ。」
「ごめんなさい。先輩。あ・・ありがとうございます」
「まあ、いいさ。セクハラだのパワハラだのでマシになったとはいえ、
まだまだ、ああいうタイプは居るから気を付けてね」
「はい!」
そういって、真紀ちゃんは自分の椅子に戻っていった。
「じゃ、部長。外回り行ってきまーす。チョッキする予定です」
「おー。行ってこい」
>>>>>>>>
そうそう、そういう流れになって、先方の部長さんに菓子折り買って行く予定で
昼過ぎのエレベータに乗ったんだ。
昼過ぎだから誰も乗ってなくて、
そしたら足元から光がぶわーって・・・・
で、此処にいると。
ん-?
これって巷で有名な異世界に飛ばされたってやつか。
じゃあ、
あの馬鹿っぽく口を開けてる偉そうな人達は王様と王妃なのかな。
「ああ、『聖女』様ではない・・・失敗したのか・・・」
王様(多分)ががくりと膝をつく。
あ、これヤバいやつだ。
「しっぱい・・・?ああ・・・」
「王妃様!」
王妃様(確定)がふらっと倒れ、近くに居た騎士の人が支えた。
多分、あれは騎士団長だな。
だって、王様たちに一番近くに居たし。
そんなことを考えながら、扉のほうへ歩いていく。
このまま留まっていたら多分、捕まるか別の所に飛ばされるか何かされるパターンだし。
「なんで男性?でも『聖女』の力は持ってるし、手のひらに印もあるし。あれ?え?」
巫女(予定)がぶつぶつと呟いている。
なるほど。手のひらに印かぁ。
自分の手のひらを見ると、何もない。
少し念じてみると「印」が浮かび上がってきた。
でも、男なんだから『聖女』ってより『聖者』だよなぁ。
あー、でも『聖者』は爺さんか恰好良い人だから、どっちも当てはまらない俺は別モノか。
何にしても、皆が呆然としている間に出てしまおう。
唯一の扉を開け、外に出る。
扉が少しずつ閉まるときに、巫女と目が合った。
なので、巫女に一言言ってやった。
「『聖女』が男でナニが悪い!」
---------------------
極北の地。
瘴気の原点地、そして唯一の女神崇拝国があった地に俺は居た。
「それでね、<<アイツ>>と世界を作って、3000前年くらい経ったころかな。
『美人は3日で飽きるというじゃん。俺、3000年も我慢したんだから、
ソロソロ良いよな!ベツの相手も作っても!』
とかホザイタ後、別の世界から女の子連れて来てイチャイチャし始めたの!」
そう、プリプリしながら語る、美少女?美女? どちらとも取れる女性がかわいい。
違う!
この世界を作った2柱の一人。女神様だ。
本人が言ってるから多分間違いない・・・はず。
「なんか・・サイテーだな。それ」
「でしょー。私、それ見てブチ切れたみたいで、世界に瘴気が満ち満ちちゃったのよねー。」
あははー。と困った感じで笑う。 ・・・うん。かわいい
「それでね。それを見た<<アイツ>>が慌てちゃって、『ごめんなさい』の印を使ってきたの」
「それがこれかい?」
そう言って、少し念じて「印」を出した。
中央に円形で魔法陣みたいなのが浮かぶ。
その周りに12個の楔が浮いている。
ただもう、その楔が黒く、光を失っているが・・・。
「それー。それ見たら、しょうがないなって思って、思ったら瘴気も減ったのよね。」
「一応<<アイツ>>も悪いと思ったんだろね」
「んーん。持ってきたのは女の子の方。<<アイツ>>がニゲッパだよ!
そして『聖女』ってのにして、私に仕えろ。ってさ。
勝手に連れて来て、勝手に遊んで、その上最後はこっちに押し付けて。
見ててもむかつくからさっさと元の世界に返したよ。女の子は。
でも、それ見ちゃうとね。かわいそうだし、瘴気だらけが申し訳ないから、落ち着いたの。
で、瘴気は消えたんだけど。」
「だけど?」
「人間たち、私のこと忘れて、『聖女』様を信仰し始めた!ひどくない?
私の像壊して『聖女』像作るくらいだよ!ひどいよね。ひどいよね。」
まあ、浮気相手が謝ってきただけで、信仰も取られたとなったらひどいんだろうな。
うん。
人間からしてみたら、瘴気を抑えてくれたうえに、神様同士の喧嘩も収めてくれた人だから
信仰もしたくなるだろうけど・・・
「まあ、人間も救いが欲しかったんだよ」
「まー。そうかもね。そんな訳で、
<<アイツ>>が女の子連れてくる度に、
瘴気が増えて『ごめんなさい』されても許せなくなってきて
今に至るっと。
そもそも、此処までくる人も減ったしね」
なるほどね。
それで瘴気が徐々に増えていって減らなくなったと。
きっと<<アイツ>>も12回あれば綺麗になるだろってくらいしか思ってないんだろうな。
んー。
「<<アイツ>>も<<キミ>>と結婚してるなら、もっとこっち見ればいいのに」
「え?してないよ?」
「は?」
「そもそも神同士にそんな文化ないし。
一緒に<<現れ>>て、<<アイツ>>が『お前は俺のだ』的なこと言ってたから
そうなのかなーって」
なんだそりゃ。
勝手に自分のモノ宣言した挙句、飽いて別のに手を出してったと。
「そしたらさ、<<アイツ>>に三行半叩きつけて、
俺と一緒に過ごさない?
人間は年とるから、若いとき、活発なとき、老いるときと見た目も変わるし飽きがこないよ。
死んだらまた同じ魂?ってのがあるなら、もっかい探してくれればいいしね」
「みくだりはん?」
聞いた事ない言葉だったのか
コトンと小首を傾げて聞いてくる。
「あー・・んと(そこか)
『別れましょう。
もう付き合ってられません。
さようなら』
的な文章書いて別れることかな?」
それを聞いて、ぱあぁっと笑顔になった。
「いいね!いいね!楽しそう。<<アイツ>>と縁が切れるのも最高だね。
そしたら、私も貴方の一生分くらいは人間になって暮らすの。」
「そしたら、女神信仰の国でも興すか。」
「あ、嬉しい。ふふふ。君を見て<<アイツ>>どんな反応するかな。
『聖女』の癖に何してるんだとかかな
その前に、『聖女』なのになんで夫になるんだとかかな」
腕を絡ませながらコレからのことを楽しそうに語ってくれる。
「ふ。夫として仕えるんだから。間違ってないだろ?
そんなこと言われたらこう回答してやるよ」
俺はにっこり笑って、女神に言ってやった。
「「『聖女』が男でナニが悪い!」ってね」