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希望編・協力

 

(注)本話「希望編」は、「絶望編」の分岐ルートを描いた話となっています。ネタバレするようなモノもぶっちゃけありませんが、先に「絶望編」を読了してから読むことをお勧めします。


 ↓↓↓↓↓↓(本編)










「気付いて、ない、の?」

「え?」


 女性は、綺麗を通り越して生気が感じられない程に真っ白な腕を上げて「僕」を指差す。そして、それが道理、それが当たり前であるかのように――


「あなたは、()()()()()()()のよ?」


「僕」に、文字通りの()を宣告した。


「……は?」


 女性が告げた言葉の意味を、「僕」は理解出来なかった。唐突過ぎる上に、意味不明過ぎて理解不能……いや、理解してしまえば、頭がおかしくなってしまいそうだったが故に、本能が理解を拒んだ。


「ぼ、僕が死んでる? は、ははっ、面白い冗談ですね。でもまったく笑えませんよ?」

「嘘じゃ、ない。二つの、世界を繋ぐ、あの『門』を、超えた時点で、あなたの魂は、体から、乖離した。今の、あなたは、魂、だけとなって、この、生と、死の、世界の、狭間を、彷徨って、いるに、過ぎない」


 狼狽し、引き()り笑いをする「僕」の言葉を、女性は感情のまったく籠っていない声音で、極めて冷静に否定した。「門」、というのは……あのエレベーターのドアの事を言っているのか?


 女性の言う事が正しければ――この場所は天国でも地獄でも、現実世界でもない場所? 僕がもう死んでる? 何の変哲もないエレベーターのドアをくぐっただけで? 三流作家が書いたホラー小説でも、もうちょっとマシな設定を思いつくってものだろう。


「うっ、あ、あぁ……!!」


 暗く陰鬱な‟何か”が、心の隙間から染み込んでくる。そんなクソふざけた理由で、「僕」の命はあっけなく失われた?  まだたったの18歳で? 何も成していないのに? そんなもの、そんなもの――ッ!!  


(……いや)


 一旦、落ち着こう。ここでみっともなく騒ぎ喚いても、仕方の無い事だ。女性が見ている前で、「僕」は目を閉じ大きく深呼吸をする。息と一緒に、心に溜まった嫌な‟何か”も吐き出すように。


 自分の体に何らかの異変が起こっているのは、他でもない「僕」自身がよく分かっている事だ。認めたくないけど……女性の言うとおり、「僕」は死んでしまったのかもしれない。


 ――だからどうした? 「僕」の願いは何だ? こんな意味の分からないふざけた理由で死ぬ事か? この世界を永遠に彷徨い続ける事か? 違うだろう? 家族の元に帰る事だ。


 これでは死んでも死にきれない。生きてもう一度家族と会うまでは、絶対に諦められない。出来る限りの全てを尽くそう。絶望するのは……その時だ。だから先ずは、


「……何か、何か無いんですか!? 元の世界に帰る方法、生き返る方法は!?」


「僕」はこの世界について殆ど知らない。けれど、目の前の女性は「僕」よりも遥かにこの世界について熟知している様子だ。元の世界に帰るためには、女性の力を借りるしかない。


「……驚いた。迷い込んだ、人は、大抵、酷く狼狽えたり、怒鳴ったり、するものだけど、あなたは、あまり、動揺しないのね」

「そんな事無いです。内心、絶望感とかその他諸々の感情でぐちゃぐちゃですよ……でも、だからといって諦めることは出来ない。僕は何としてでも、家族の元に帰りたいんです! そのためにも、この世界から抜け出す方法は無いんですか!?」


 ネガティブな思考を強引に振り払って詰め寄る「僕」の剣幕に、揺れる黒髪の切れ目から覗く女性の瞳が微かに見開かれた。こんなナリをしているからどんな顔が隠れているのだろうと思っていたけど、意外にも女性は端正で綺麗な顔つきをしていた。絶世の美女と言っても良い。


「そう……確かにあなたは、無自覚にも、『門』を通って、死んだ。そして、当然だけど、生と死は、不可逆の関係。死んだ人間が、生き返ることは、絶対に無い」

「……っ」


「僕」の希望を断つように、女性は生き返る事は不可能と断言する……その直後、言葉の終に「でも」と付け加え、さらに話を進める。


「今のあなた――魂が肉体から、乖離して、間もない人間なら、話は別」  

「……え?」


 自身が断言した物事に例外があるかのような気配を仄めかし、女性はさらに話を進める。


「あなたにはまだ、戻るべき肉体が、残っている。そして、あなたの、魂に根付く、世界との縁は、まだ『あちら側』の方が、強固。だから、魂を、肉体にさえ戻せば、生き返るのも、不可能じゃない」


 女性の解説にはまたまた分からない理屈があったけど……何となく分かる。要は、今の「僕」の体は心肺停止状態、つまり見かけ上の死亡状態であり、昏睡している間の意識だけがこの世界に迷い込んだような感じなのだろうか。


「そ、それで!? どうやって魂を体に戻すんですか!?」

「方法としては、簡単。この世界の、何処かにある、あなたの魂の、帰り道となる『門』。それを探して、もう一度通ることが出来れば、現実世界へ、帰れる……筈」


 あぁ、何という幸運だろうか!! 最後の最後で呟いた一言が気になるところだけど、この際気にしないようにしよう! 少なくとも、行くアテもなく延々と彷徨うよりは遥かにマシな目標が出来たのだから!


「『門』ってのは、どうやったら見つけられるんですか!?」

「……あなたは、運が良い。こうして、私と早く、この世界で、巡り合えたのだから。安心して。私なら、正しき『門』の位置を、あなたに教えられる」

「ほ、本当ですか!?」

「ええ。だから、少しじっと、していて」


 そう言って、女性は「僕」の胸にコートの上からそっと手を当てた。互いの吐息が聞こえる程の距離、女性が伸ばした細腕を通し、「僕」と女性は暫くの間、至近距離で黙り合った。滝の垂れ下がる長髪が顔にかかってくすぐったかったけど。


「……うん。大体の位置は、分かる。『門』までの場所は、私が案内する」

「あ、ありがとうございます!!」


 初めて会った時は、不気味な印象以外の何物でもなかった。けれど、今はまったく違う。この人は、「僕」を現実世界の、家族の元に導いてくれる希望そのものだった。


「そうと決まったら、早く、行こう。あなたの魂が、『こちら側』に、引き込まれてしまえば、もう脱出は不可能。時間が無い」

「は、はい! あ、あの、僕、石田と言います。えっと……あなたの名前は?」


 同行する間、ずっと「あなた」呼びでは流石に気まずいかと思い、「僕」は先に名乗った上で女性に名前を尋ねる。「僕」の問いに、もう歩き出していた女性はふと立ち止まり、少し考えるような素振りを見せ、


「……覚えてない。名前なんて、とっくの昔に、忘れた。でも……今の私は、未練を抱えて、この世界を徘徊する、幽霊のような、存在。だから……幽子で、良い」


 今考えたらしき名を、「僕」に教えるのだった。



読んでいただきありがとうございました。この希望編は、主人公のメンタルがもうちょっと強かった際のIFルートです

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