表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベルファンマ街道  作者: 餅布団
1/1

忠誠の勇者 デォカルド

ベルファンマ帝国は隣接するサイータ連合に侵略されている。

元の領土の60%を略奪されていた。

なんといったって武力で敵わない。

そんな中、サイータ連合はベルファンマ帝国を滅ぼすことにした。

最強の剣士、デォカルドを以て。

目の前には黒い丘があった。

その丘は異臭を放ち、日に日に溶けてゆく。

その丘は俺が作った。

「異形」のモノたちを斬って、

斬って、斬って、斬って作った。

積み重ねた。

やがて、俺は悔やんだ。

自分の愚かしさを、世界の醜さを。

主よ。もし、願いを叶えてくださるなら、

もう一度青空を見せてください。

澄み渡るような、青空を。




「デェカルダ帝より、ご子息デォカルド様に勇者位を授けます。」

細身の男がそう告げると、二本の剣を青年の前に差し出した。

片方の剣は太陽の紋章が彫られており、わずかに熱を帯びている。

もう片方は月の紋章が彫られており、手の熱を少しずつ奪っていく。

玉座に堂々と座る大柄な男は剣を持った少年に対し、こう告げた。

「これより勇者デォカルドに魔王の討伐を命ずる。」

貫禄のある声が大聖堂に響き渡った。

勇者は静かにうなずく。

儀式を終えて街に出ると、観衆はみな期待の眼差しを彼に向けた。

「勇者様!」「魔王を倒してください!」

彼は少し、心が跳ねながら帝国の門を出、旅に出た。が、

「おい!待てよ勇者さんよ!」

屈強な男が門から少し離れたところで勇者を待ち伏せしていた。

「アンタのせいで俺たちに仕事が回ってこないんだよ!!」

思い出した。たしか傭兵では最強と名高いパーペンリさんではないか。

「何じっと見てやがるんだてめえ!!」

男が殴りかかってきそうなその時、勇者は男を4回突いた。

首と首と首と首。

男は体はそのまま、視線だけ後ろ向きのまま倒れていった。

「もったいないお方だ。」

それだけ告げてデォカルドはまた歩みだした。


ここだけの話、剣は使わせてもらえない。

なぜなら、強すぎたからだ。

幼いころに父が王に選ばれた。

街で靴を売っていたらいきなり王になった。

俺は王子ということで王宮に仕える5人の勇者に剣術を教えてもらえることになっていたらしい。

しかし、その勇者たちを俺はすぐに倒してしまった。

その結果、貴族会議で俺の剣術が流派不明なことから危険だということで使用禁止になったらしい。

まあ、拳法で何とかなってるから良いんですけどね。


早、500日が経った。

そして今は魔王の領域少し手前くらいに入っている。

ここまで邪魔されることもなく進んできた。

そして魔王軍の領域に足を踏み

前方から怪物たちが来た。

拳に力を籠め、殴りこむ!

すると怪物たちは動かなくなり、そのまま逝った。

骸を籠に入れ、歩みだす。

それにしてもこんなのが意外と高く売れるんだから勇者はやめられない。

日に日に俺を襲う獣の数は多くなっていく。

別に倒すのに時間はかからないからいいんだが、あんま多すぎると売りに行くのが大変だ。

やがて、死骸を籠に入れるのが面倒になり、その辺に積み重ねておくようにした。

まあ、金には困らないし、別に獣の剥製なぞ要らない。

ある日、獣に問われた。

「なぜオマエは我々を殺めるのか」と。

俺は答えた。

「勇者の役目だからだ。」

獣は問う。

「勇者が殺める理由ではない。オマエ自身が殺める理由だ。」

俺は...答えられなかった。

俺は掴んでいた獣の首を離し、王に文を出した。

「王よ、勇者デォカルドが問います。なぜ私に彼らを殺めろというのでしょうか。」

王からの返信を待つ間、殺戮はやめることにし、彼らの本質を視ることにした。

最初の頃は俺を恐れていたが、徐々に俺に親しんでくれた。

一体いつ以来だろうか。自分以外の誰かに親しくされたのは。

そして俺の中には恐怖が宿った。

本当は俺のしてきたことは間違いだったのではないだろうか。

俺が積み上げたあの丘は誇りでなく罪の結晶ではないだろうか。

そして返信はきた。

「勇者デォカルドに王より返答する。奴らは異形の者であり、我らの平穏を脅かすため、先に手を打つのだ。」

つまり、「気持ち悪いから殺せ」

そう言ってるのか。

その瞬間、俺の中の勇者は崩れた。

親しくしてくれた村の者たちに別れと謝罪を述べ、魔王、城へ向かった。

道中、何度も眠ろうとするが頭から骸の山が離れない。

重なり合う黒いモノからところどころ見えてくる白目を星と解釈し、

自分自身、骸の山を一種の星空と捉えていた。

しかし違った。あれは星空なんかではない。闇そのものだ。

俺は城にたどり着いた。本来、俺は門を壊さなければならない。

だがしかし、そんな気は起らなかった。

俺はただ謝りたかった。愛する民を無意味に殺めてしまったことを。

もし罰として首を斬れと言うのなら俺は実行する覚悟もできていた。

俺は王の前にひれ伏した。「勇者」が「魔王」にひれ伏す。

魔王に全てを話し、罰を問うた。

全てを聞いた王は少し間を置き、告げる。

「異国の者よ。そなたの罪は決して許されるものではない。だが、お前は罪を認めた。それ以上の償いがあろうか。第一に空虚な者を切り落としても残るのは空洞だけで何も意味はない。」

俺は涙を流していた。

初めて流す涙が慈悲に対する涙であることに幸福を感じた。

俺は誓った。

「デォカルド、そなたに忠誠を誓う。これは償いのためではない、おのれの意志だ。」

王は優しく「そうか」と呟き、黙した。


デォカルドの裏切りはサイータ連合を滅亡させるほどのものとなった。

まず、親子の関係より主従関係が強いことを証明するために父のデェカルダ帝を殺め、

最高位を強引に自分のものにした。

その後、最高位権限で全領土、全国民をベルファンマ帝国に献上。

元サイータ連合の民は自分たちと姿が違うベルファンマ民を恐れたが、

思ったより良い人たちだったので今は隔たり無く過ごしている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ