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霊トリック  作者: 麻間 竜玄
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02 三島段は夢の中

雨が降り続ける深夜零時、三時までが僕のゴールデンタイム。

明日は日曜日なので、普段よりのんびり過ごせる。

三時まで深夜ラジオを聞いたり、動画観たり、スマホでゲームしたり…それが僕の青春。


期末テストの準備も日課の筋トレもやって、やるべき事やった。

日課をクリアした達成感の後にダラダラする、これが僕の幸せ。

最後の締めは二時から三時まで坐禅をして床に着く。


僕は三島(みしま)(だん)、十六歳。七夜河高校に通う高校一年生。

両親は共に町役場で勤務。妹は中学生。アパートの二階で家族四人で暮している。


ここまでは普通なんだけど、三島家は代々この町の霊達の行事や面倒事のサポートをしている。

世話役と呼ばれていて多種多様な職業の人がいて、警察関係、教育関係、寺社関係、建築関係等々で三島家本家は建築関係を担当している。

分家のウチは両親が役場で勤務しているので必要があれば書類を作成している。


七夜河町のメンバーは総勢三十人くらいだ。

簡単に言うと秘密結社。

日本での通称は『世話役』


日本は独自に弥生時代からその機能を持っていたが、全世界の似た機構と交流を持ち始めたのは奈良時代からだ。

利権に繋がらない様にトップの任期は一年と短い。

基本的に改革が必要としない組織で、本当にマズイ事案は神様に全てブン投げている。

あくまで、人間と神様、妖怪、霊の健全の風紀委員という感じだ。


古代から人間側に霊的な事が明らかになると、普通の善良な人間でも集団ヒステリーに巻き込まれて混乱し、拡大。世の中が乱れるのは昔から枚挙に暇が無い。

こうした霊の暴走も人間側の暴走を抑えたり、人間と霊のクッション役みたいな事を僕達、世話役はやっている。


霊達の平穏の為に、どうしても生きている人間の力が必要な事がある。


ちなみに家族の中で世話役の事を妹だけが知らない、能力が無いからだ。

この町では桜尋(おうじん)神社の主である桜尋(おうじん)須多羅(すたら)様を頂点に組織されている。

次に寺社関係、世話役、霊達という並びになっていて。

大体の申請事、討伐依頼は霊からの伝令で受ける。


僕の場合は少し特殊で、『秘剣』という刃物を生成させる異能を持っている。

秘剣に目覚めたのは小学一年生の夏休みで心霊特集のテレビを観ていた時だった。

座っていたソファーはズタズタになった。

その後もランドセルが切れたり、服も靴も切り裂かれた。

霊が怖くて、見えた霊は無差別に刃物が襲い、コントロールが出来なかった。

霊にとっては、悪意なき切り裂きジャック。

世話役の両親が桜尋様に相談した後。

夏休みだった事もあり暫く桜尋神社に預けられていた。


最初は急に神社に預けられて怖かったけど、一緒にゲームしたり川に魚を採りに行ったり、山に登ったりと、夏休みを満喫した。

夏休みの終わり、秘剣の能力を充分に安定させられる様になった。

両親が迎えに行ったと頃には、家に帰りたくなくて泣いて喚いて両親を困らせたらしい。

昔から、子供に好かれる性格だった。今でもそうだ。


今では秘剣を生かして秘密結社『世話役』のメンバーに入り、神様と霊と人間のパシリに使われている。


今年は特殊で六年に一度の霊達の大祭「魂消祭(こんしょうさい)」がお盆に行われ、全国で予選が行われる。

一人の異能の人間を選び出し、『生贄』と呼ばれた人間を霊達が襲う。

昔は死人続出だったらしいが、現代では悪くて病院送りらしい。

比較的、安全に留意して開催されている。

優勝したら一つだけ、神になる事を上限に幅広く願いが叶えられるらしい。

予選を通過して、お盆の本戦に参加するだけでも相当な名誉で経歴としても一目置かれる。

過去に多数の魂消祭が開かれたが、人間側に盛大にバレた魂消祭と言えば。

江戸時代の広島で開催された『稲生物怪録』が有名だ。

当時の神様や世話役は相当、後処理に苦労したらしい。


人間側に妖怪譚や怪奇譚がバレると、悪い人間も、悪い妖怪や霊達も様々な利益を求めて悪事や扇動を行うので、世話役の存在は重要なのだ。


携帯電話が鳴る。

朝八時から深夜三時迄が僕の営業時間。

時間は選ばず相談に来るけど、大体深夜の相談は幽霊関係だ。


携帯電話を見ると、鬼雀(おにすずめ)さんからメールが来ている。

「メールで失礼します、急ぎです。今、よろしいでしょうか?」

ササっと動く。

部屋着から襟付きに着替えて服装に乱れがないかチェック。

押入れから六枚ある座布団を全て出して、抹茶を立てる。

茶菓子を懐紙に並べて置いて、完了。

変な所から入って来ないようにと返信すると、カツ、カツ、カツと三度廊下の床をノックをした後。

「深夜に失礼致します」

とても申し訳無さげな声で部屋の前から声が聞こえる。

「はい、入って来てください、何かあったんですか?」

そう答えると引き戸が開き廊下にズラリと霊達が正座して頭を下げて並んでいる。

その筆頭は鬼雀 謙三郎、享年七十三歳。


この町の霊達を取り締まる地頭。鬼雀地頭と呼ばれている。

歳の割に屈強な肉体、大太鼓のような声でこの町の霊達の長老なのだが、雰囲気としては大親分といった感じである。

生前は七夜河の漁師網元から海運会社を立ち上げ、町長も務めている。

この町の戦後昭和から平成にかけての大黒柱である。

そんなレジェンドには早々に頭を上げて貰う。

そして…この敬語。

以前からこの堅苦しい感じが好きじゃなかったが、これも作法なのだそうだ。

僕が世話役をする前は桜尋神社から白羽の矢が飛んできて、それに相談伺いの用件が結びつけていたらしい。

今はメールになった。

少しづつ昔ながら作法を残しつつも、最終的には鬼雀さんには敬語は辞めさせたいと思っている。

こんな僕みたいな未成年の子供に人生の大先輩が敬語では恐縮してしまう。


とりあえず、鬼雀さん達にお茶を勧めて、手狭で座布団が足りてないので話の続きは夢の中で話すことにする。


床につき、眠ると鬼雀さんを始め霊達は続々と夢に入ってきた。


舞台は僕の中学の校舎だが、現実の構造とは違う夢の中ならではの変チクリンな場所。

夢ってそんな感じである。


「では、続きを聞かせて貰えますか?」

「はい、今夜は魂消祭に向けて、習儀(ならし)の予定やったんですが、英助が来なくて、家にも迎えに寄越したんですが居らんし、三島さんは何かご存知ないかと」

「僕は禁忌の家だと思います。」

英助は手柄を欲しがってた、あそこしかないだろう。

「英助、前から手柄立てるって言ってたから、あそこっしょ。」

「私もそう思います。あの子だいぶ悩んでましたよ?」

「僕も、相談受けました」

数体の霊達が「そうやろ、そうやろ」とザワザワし始めた。

「ちなみに桜尋様は、何か言ってました?」

「三島さんにお任せで」と聞いてます。

禁忌の家か…それで僕なんだなと納得した。

「因みに万が一の時、桜尋様はサポートしてくれるんですか?」

「はい、聞いてみます」


「今回は、魔女相手だから段の足手纏いになるかもしれない…って皆んなで話してた。そこは大丈夫?」

「うん、情報が無いから何とも言えないけど、特殊な訓練を受けている様子は無さそうだから、身体能力はそこまで高くないと思うよ。でも、人質に取られると困るから僕一人で入った方がいいと思う」


話しかけてきたのは、この町ではナンバー2の通称ビー玉。

小学生女子の血濡れた浴衣姿。幽霊歴三十年で能力の引き出しは多種多様。

体術も鍛えられているが、人魂を飛ばしたり等の中距離での戦闘を好む。

長引く戦闘や拮抗した状況では相当、我慢強い。


「治癒はチイコが一番この中じゃ得意だったよね、霊だけじゃなくて、生きてる人間も治癒出来る様になった?」

「出来るよ、でも…あんまりやり過ぎんなよ。治癒出来る人達、最近成仏して少なくなってっからな」


チイコはヤンキー女子。喧嘩師、木刀を主に使うが、素手での戦闘の方が強いと思う。

気合の入ったヤンキーなので、彼女も言動には気を使う。

ここ最近、治癒スキルが著しく高い事がわかり、意外と慈愛の埋蔵量は膨大。

桜尋様にゾッコンで、桜尋様の前では子猫の様に甘えてる。

周りは引いてるが、僕はそんな彼女が可愛いと思う。


「作戦はどうなってます?」

作戦参謀はダヴィ。金髪蒼眼の父がフランス人、母は日本人のミックス。

小学生姿なので、一見頼り無さそうに見えるが、後方支援と作戦の立て方は僕には出来ない領域。

気弱な性格だけど甘く見ると痛い目に合う。


「まずは家の周りにある魔除けの類の無力化と通信関係はいじる。屋内の情報が無いから、外からの支援がメインになる。捕らえられている霊達の保護と搬送は、ここに居る皆でやるしか無いかな」


「わかった、記憶いじれる人は?」

「魔女に記憶介入が通じるかわからないけど、記憶介入は英助が一番得意なんで、動けるようだったら英助にやらせよう」


「大体こんなもんかな…基本的には交渉。交渉が出来ない場合に備えて、桜尋様に救援要請、救護班は治癒や搬送も含めて全員で。記憶介入は英助。室内が荒れた時の隠蔽は霊達と世話役の田中さんにお願いしよう」


「こんな感じだけど、補足はありますか?」

「いや、一番大事なこと忘れてます。英助達の無事もそうですけど、魔女とはいえ嫁入り前の娘です、派手にならない様に」

「同じ高校の同級生ですし命までは獲りません。基本的には交渉で済めば一番良いと思ってます」

「わかりました。では私は今城殿に救援を頼んでおきます、他の世話役の方々にも連絡しておきますんで、後はゆっくり休んで下さい」

「わかりました、ではこれで解散ということで」

そして、霊達は僕の夢から出て行った。


急に静かになった夢の中で微睡(まどろ)む。

 

あの馬鹿、皆んなに心配かけて…。

でも、桜尋様も悪い。

魂消祭の予選まであと半月も無いのに…。

桜尋様が魂消祭のメンバーを早々に発表しないことが問題なのだ。


英助は魂消祭の選手入りを狙ってたから、こんな無茶したんだろう。

桜尋様は怠け者でも無いし、仕事が遅いわけでも無い。

只…神ゲーが発売されたら諦めるしかない。

僕もさっきまでやっててハマってたから人(神)の事ばかり言えないけど。


水織さん、七夜河(ななよが)で魔女指定。

どういう娘なのかって同級生の誰に聞いても「普通の子じゃん」って返答しか無い。

確かに影は薄くて普通に笑っているところ見たこと無い。

魔女っていう先入観が無かったら普通の子にしか見えない。

むしろ僕の方が「ズレててウケる」って変わり者扱いされている。


あ、思い出した…。 

小学生一回、クラスの皆んなに「お前ら結婚しろ」ってからかわれた事があった。

何がきっかけでそうなったんだろう…。


忘れた。


からかわれた事、水織さんが覚えてたらなんか気まずいな…。


子供の頃の英助が出てきた、夢の中だからな


 

「…織は段が…………んだ。お……絶…………した……い…ぞ」 



え?何?聞こえない。え?



意識が落ちていった、夢の中で眠りに沈んでいく。

読んで頂いてありがとうございました!!

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