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霊トリック  作者: 麻間 竜玄
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01 禁忌の彼女

近藤英助が主人公の話です。

「この町には魔女が住んでいる」

名前は水織(みずおり)さくや、十六歳、元同級生。

小学校から高校まで一緒だったから、何回か関わったことはあった。

印象としては、地味で一人でいることが多い奴だった。


平和な町の中にある魔女の家、禁忌の家。


八年前からこの家に訪れた者は皆、消息を絶っている。

登校中や学校の中で仕掛けた奴もいたが皆、その後は行方不明になった。


興味本位で向かった者。

腕試しで向かった者。

救助に向かった者。

合計十三名。


救助を絶たれたまま禁忌の家に指定された。

その原因を暴き出し、消息を絶った者を保護する。


幽霊としては未熟だが、根性とやる気は見せとかないとな。


俺は近藤(こんどう)英助(えいすけ)、享年16歳、七夜河(ななよが)生まれ、七夜河育ち。

体格と良い師範に恵まれたこともあり空手で全国大会まで行った事がある。

この前までは高校生だったが、バイト帰りの事故で死んでしまった。


死んだ後、あの世で閻魔大王から出された判決は畜生道。

「次に生まれ変わるのはナメクジです」と閻魔大王に言われた。

俺は納得出来ず、閻魔庁から出て行った。

追手は無い。

引きずり回される事もない。

閻魔大王の脇にいる鬼神は守衛の為にいるそうだ。

文官の鬼神に『生まれ変わりのしおり』を渡される。

「出来るだけ早く生まれて変わって下さいね」

生まれ変わりの減刑制度、講習会。

聖人や菩薩を弁護士を雇う権利もあるらしい。

分厚いパンフレットを封筒に渡されて、現世に戻る。


閻魔大王の判決を拒否した者は、地獄行きを除くと餓鬼道(むしょく)に向かう。

今の俺は餓鬼道に生まれ変わった。

空腹が絶え間なく、痩せこけ腹は膨れ上がる。

子供の頃に洞吟寺で観た『餓鬼草子』の餓鬼の様な化け物。

そんな、おぞましい姿になるかと思ったが、姿形は生前と変わりなく、絶え間無い空腹に()えなまれることはない。

母さんが供養していてくれているし、洞吟寺に行けば生飯(さば)があって飢える事はない。


俺はまだ、生きてやりたい事がいっぱいあった。母に、友達に残したい言葉があった。

行き場のない喪失感、毎朝仏壇に手を合わせる母の姿を見ると、その理不尽さに沈み、何も出来なくなっていった。

しばらく実家に帰ってダラダラしていたが、同じアパートに住む幼馴染みの世話を受けてこの町を治める桜尋(おうじん)神社の主、桜尋様に保護されて現在に至る。


自分と同年代の霊も何人かいて、いい奴ばかりで寂しさはなくなったが、町をブラついている時に見かける同級生のみんなが気にならないかというと、それは無理な話だった。

同級生が学校に通ったり、部活をしたり、遊んでいる姿は凄く輝いて見えた。

「生きてりゃ俺も…」それが俺の口癖になった。

誰にも聞こえない様に呟いている時には涙が溢れた。


俺にも何か無いのかと思っていた時に「魂消祭(こんしょうさい)

全国の霊達の腕試し。

野球でいうところの甲子園みたいな催しが六年に一度行われる。

その予選が、この町で開催される事を知った。

その選手はまだ決まっていない。


「これだ!」と思っていたものの、俺は今年の春に死んだばかりの新参で何の実績も無い。

選手に選ばれる為には大きな手柄がいる。

そこで狙いを付けたのが「禁忌の家」だ。

数日前から少しでも彼女の情報を得ようと、遠巻きながら探っていたが。

普通の女子高生にしか見えない。


夕暮れは過ぎ、厚い雲がを閉ざした昼に温められたアスファルトは雨を温め蒸し暑さを呼ぶ。

この身体は霊体であっても、しっかり雨には濡れる。

物理的な水で濡れるというより、水の霊性が身体を濡らす。

雨で体力を奪われる事は無いが、濡れると気持ちは挫かれる。


禁忌の家に侵入するにあたり色んな人に相談してみたが、満場一致で反対された。

だけど勢いでここまで来てしまった。もう後には退けない。


前から、自分の実力不足を埋めようと思っていた。

その為の努力は惜しまなかった。

俺の特技は筋力、俊敏性の強化、人魂起し、記憶介入だ。

実体化、物質透過と物質干渉は出来るが騒霊(ポルターガイスト)の様な複雑な事は出来ない。


禁忌の家の前に着く。

すぐに生垣の蔭に身を隠し周囲を窺う。

一見すると、生垣のある二階建ての小さな豪邸といった趣で庭には小ぶりの五葉松が植えられている。

梅雨前に雑草は抜かれ綺麗にしてる。

大型の車が三台は止められそうな広めの駐車場の先に凝ったアルミの門があり、レンガ敷きの歩道の向こうに玄関がある。

狭い土地に無理やり建てたような安アパートに住んでいる俺としては羨ましい家だ。

これから侵入するにあたって、玄関から正面突破は無い。


玄関に厄除のお札が貼ってあったらそこでアウト。

裏口にはヒイラギの木が植えてあるからアウト。

勝手口はアロエとサボテンの鉢が置いてありアウト。

魔除けが所々にあり、霊が寄り付きたくない雰囲気がヤバい。

逆に考えれば、捕らえた霊が逃げ出せないように魔除けで囲っている。


自分でも気付かない内に不安になってきている。震えと背汗が止まらない。

空手の大会前はいつも通り空手に専念するだけで良かった。

それ以外の物は不安も功名心も簡単に切り捨てる事が出来た。

しかし、人の家に侵入するのは初めてで、目的の為に悪事を働くのも初めてなのだ。

女子に俺の純粋に鍛え続けた拳を振るうかもしれない事に抵抗がある。


ここまで来たんだ、やるって決めたんだ。


不安だ、弱気だ、怖がりすぎだ。

だから支離滅裂になっいる。

行動と思考がバラバラの今の状況で、やれるのか?俺!

無心で走り出すしかない。

弱っ面を殴り気合いを入れて、二階のベランダに駆け上る。

頬の痛みが迷いを忘れさせてくれる。

空手の真剣勝負中、一発貰ってから俺は強くなる。


窓ガラスの中は空色のシンプルなカーテンで閉じている。

エアコンの室外機は動いていて除湿している。

部屋の中は電気が付いていて人の気配がする。

 

幽霊となった今、物質透過で無音で侵入する事は出来る。

顔から入る、勢いに任せて突入するのは無しだ。

迷いは無く、ゆっくりとカーテンに頭を突っ込み室内を伺う。

水織がベッドに座り電話をしている。

この位置だと完全に水織の視界に入っている。

咄嗟に頭を引っ込める。


見つかったか?


しかし、室内からは叫び声はおろか動揺の欠片も無い。

今一度、室内を窺う。

水織は確かにこっちを向いている。

しかし、俺に気付いていない。

もし水織が魔女だったら、俺が見えない訳がない。

どういう事だ?何故、反応が無い?


断言は出来ないが、水織は魔女ではないという可能性がある。

この町の霊達は皆、水織の情報を持って無いのだ。


…全身を…部屋に…入れても気付いていない。

水織は通話を終えて、スマホを充電し、机に向かった、ノートを広げてる。

呑気に小声で唄っている。

子供の頃唄っていた『カゴメカゴメ』だろう。

捕らえられた霊達はどこにいるんだ?

部屋全体を見渡しても、異常は無い。


この部屋は只の女子の部屋だ。

水織は部屋でエアコンをつけて電話して。

電話が終わったらノートを広げて勉強して。

室内の霊(俺)に見向きもしない只の女子だ。


魔女じゃない。

この部屋じゃない…どこだ?

部屋の出口に向かう。

慎重に静かに出口に向かう。


………。


身体が動かない、力は入るがどこも動かない。

身体にいつの間にか何かが纏わり付き締め上げられている。

格闘家はガチガチに技で固められた時、まず指から動かすことから始めると聞いた事がある

だけど指も動かせない。

何が起こっているのか解らないまま目の前を覆われてが真っ暗になる。

頭をその凄い力で吊られ首の骨は鈍い音を立て皮膚が引っ張り上げられる。

放り飛ばされて壁に落とされると、床に変な違和感がある。

何かが閉じられた音がする。


「最初から…全部見えてたわ」


それは水織(魔女)の声だった。

読んで頂いてありがとうございました!!

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