(9)3日目-4 大ハンヤ4
運営に指定された料理店の入り口には、大きな白熊の像が座っていた。
「なぜに南国鹿児島に白熊」
一行の全員に疑問しか浮かばない。
といっても些細なことだったので、疑問を棚上げして、運営指定の地下1階へ向かう。
迎えてくれた店員に企画参加者であることを四国が告げると、座敷へ通された。
すぐに別の店員がやってくる。
「鉄板焼きと白熊でご予約のお客様ですね。1人1品ずつ料理とかき氷をお選びください」
メニューを机の上に置きながら店員が言う。その作業が終わったら水を配り始めた。
「頼むものの大枠は決められてるわけか。てか、白熊って何? 4月なのにかき氷って何事?」
四国が不思議そうにしている。
「四国さん、コンビニのアイスコーナーとか見ないんですか? 数年前から売ってるじゃないですか。フルーツの乗ってる白いかき氷。それを白熊って言うんですよ。なんでこの店で白熊が出るのかは謎ですけど」
「当店が白熊の発祥の店ですので。観光にいらした方がよく食べて行かれますよ」
「あ、そうなんですか。それはちょっと楽しみだなー」
九之坪のテンションが少しだけ上がった。
「色んなメニューがあるじゃん。これ、ばえるんじゃない?」
「鹿児島旅行してる人とか周りにあんまりいないし~」
紫尾と橙山のコンビは相変わらずだ。
「ねぇ、写真で見た感じだと、ここの白熊って大きそうなんだけど。食べきれるのかな?」
「食べきらなければ俺に回せばいいよ」
「ん、ありがと。頼りにしとく」
阿二と青島の仲の良さも相変わらず。
そんなこんなでみな悩みながら品を選び、まずは鉄板料理が来た。
机に設置されている鉄板で自ら焼くスタイルらしい。
運営が提供してくれたという、カロリーが低いらしい高級油を鉄板に回し調理を開始した。
自分達で焼くという作業は面倒だが、地味に楽しく、あまり話したことの無い人達との話題作りにはほどよいイベントと言えるのかもしれない。
それぞれの品を焼き終わり、食べ始めて、皿が半分ほど空になった頃には、水澪はこのメンツとであればそこそこ気軽に話せるようになっていた。
食べ終わる頃を見計らって白熊も持ってこられる。
「御茶屋さんのそれ何? ほんのり紫色のかき氷ってありえなくない?」
「焼酎みぞれっちゅーのがあったぞ。鹿児島といったらやっぱり焼酎だろ」
「ぇー? そうなのー? よくわかんないけど珍しいから写真撮らせてねー」
「って、水澪っちのはプリン乗ってるじゃんー! やだー! ちょーかわいー! てかデカーイ」
「え? あ、うん。プリンも美味しそうだったから」
「ソニアー。黒音っちのにはソフトクリームが乗ってるよー! うちらもあれ頼めばよかったね」
人の白熊をパシャパシャ撮影しながら紫尾橙山コンビが騒がしい。
「君らのチョコレート白熊とスペシャル白熊も、十分派手で豪華だと思うよ」
色合い的に地味なコーヒー白熊を頼んだ九之坪はあきれ気味だ。
本当に、紫尾橙山コンビの元気はどこから出てくるのだろうか。
というか、この白熊、コンビニで買える物とはサイズが違いすぎて、食べきれるかがかなり怪しい。
さっさと阿二に助けを求めている青島が正解だと思う。
なぜプリン付きの品を頼んでしまったのか、水澪の後悔は深い。
どうにかこうにか白熊を食べ終わって。
ようやく一息ついて一同がお茶を飲んでいる中、八子が鞄から飴を出して舐め始めた。
「まだ食べるの?」
巨大白熊に苦労している同志に見えていたのだが。
見かけに寄らず八子は大食漢なのだろうか。
「口の中が甘いままですから。口直しを」
食べる? とでもいう感じで八子が飴を水澪の方に出してくる。
「飴って甘いんじゃないの?」
「これ、甘くない飴ですから」
「それなら」
満腹だが、飴程度なら舐められないこともない。
水澪は飴を1つ貰い口に放り込んだ。
「甘くない飴なら私にもくれ」
「俺も」
「私も」
御茶屋、阿二、青島も飴を所望している。
そして貰った物をすぐに口に放り込んだ。が、あまりの味にか表情が歪んでいる。
もちろん水澪も苦い顔だ。
「口直しにしてはマズすぎんかこれ?」
御茶屋にいたっては正直すぎる感想を漏らしていた。
飴を貰って食べようとしていた紫尾橙山コンビの手が止まる。
飴を開封していなかったのもあって、八子に返却していた。
「そこまでマズいなら逆に試してみたいから、僕にも1つ貰える?」
チャレンジャーなのは九之坪。
早々に口直しのコーヒーを頼んでいた四国と三枝は飴不要らしい。
「さてと。腹は満たされた……どころか食いすぎなくらいだし。腹ごなしがてらブラブラして、ウォーターフロントパークに移動しましょうかね」
ずずっとコーヒーを飲み干し、四国が音頭をとった。