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(7)3日目-2 大ハンヤ2

 鹿児島県内外の踊り連が一同に参加する、よさこい形式のダンスイベントを大ハンヤという。

 鹿児島の伝統楽曲の掛け声を取り入れつつも、自由な楽曲で披露される独創的な演舞が特徴である。


 一条(いちじょう)水澪(みお)は長崎在住だ。

 しかしながら、同じ九州県の鹿児島でこんなイベントが開催されているだなんて、知らなかった。


 ほぼタダで1週間旅行に行けるという話だけに釣られて、観光名所など特に調べてこなかった水澪のようなズボラ人間には、運営が提供してくれている観光情報はとてもありがたい。

 といっても、運動嫌いで体力に自信がない水澪では、昨日の開聞岳登山はパスするしかなかった。

 けれど、イベント見学なら余裕で参加できる。

 疲れたら適当に喫茶店にでも避難すればいいだけだ。


 それにしても、昨日の登山には参加しないでおいて正解だった。


 鹿児島市内を走るマイクロバスに揺られながら水澪は思った。

 共に登山した人間が目の前で4人も死ぬだなんて、水澪なら耐えられない。

 事故が頭から離れなくなって、企画の残り期間を部屋にこもって過ごすはめになっていただろう。


 今日の大ハンヤ見学ツアーに参加しているのは10人。


 青島未紗十、阿二青人、一条水澪、御茶屋伊十五朗、九之坪眞白、四国紫、紫尾十二愛、橙山十令三、三枝朱絵、八子黒音


 このうち、青島未紗十、阿二青人、御茶屋伊十五朗、九之坪眞白、紫尾十二愛、橙山十令三の6人は、昨日の開聞岳登山にも参加している。

 頂上で人が落ちていく現場を目撃した人間もいたという。

 そんな場面に遭遇していながら、今日はもう祭りに行ける神経の太さが水澪には理解できない。

 いや、部屋にこもっていては気分がめいっていくばかりだから、逆に祭りで全てを忘れたいのだろうか?


 そういえば、一昨日の夜に入浴中に死人が出たとかで、旅館から入浴時の注意が申し渡されていたが。

 死んだ赤津(あかつ)五十一(いそいち)伊五澤(いごさわ)橙吾(だいご)も企画参加者ではなかっただろうか?

 確か、部屋風呂で入浴中に寝入って溺死と言っていた。

 赤津は60を超えた年よりだったから、似たような事件はたまにニュースで聞く。

 伊五澤は酒が体内に残りまくっていたという話だったから、こちらも、まぁ、本人が馬鹿だったと思っていたけれど。


 企画が始まって2日。

 死亡者が6人も出ている。偶然にしてはおかしくないだろうか?


「一条さん、みなさん降りられましたよ。私達も行きましょう?」


 水澪の二の腕を八子が軽く叩いた。

 言われてみればバスは止まっていて、自分達2人以外の乗客は降りきろうとしている。

 水澪が通路側に座っているせいで八子まで降りられなかったようだ。


「ごめんなさい。すぐに降りるね」


 水澪は慌てて立ち上がってバスを降りた。

 すぐ後ろから落ち着いた様子で八子が降りてくる。

 さらに後ろから運転手も降りてきた。


「帰りは、20時にメイン会場のウォーターフロントパークからバスを出します。19時からバスには乗れるようにしておきますので、バスをご利用の方は駐車場までおいでください。誰が乗っていてもいなくても時間になったらバスは出ますので、ご利用予定の方はご注意ください」


 それだけ言って運転手はバスに戻る。

 すぐにバスはどこかへ走り去って行った。

 帰りの足まで用意してくれているのは、とても親切だと思う。

 その足を使う使わないは自由で、申告も不要だというのだから、他人への迷惑を考えなくてよくて気分的に楽だ。


「ここは、たしか、大河ドラマのロケ地でしたね」

「よく知ってるね。そう、篤姫(あつひめ)のロケ地だよ。私は篤姫が大好きだったから、ここにはぜひ行きたいと思っていたんだ。いやー、来れて良かった。お、看板もあるじゃないか」


 カメラ片手に御茶屋(おちゃや)が立て看板の方に走っていく。

 50代半ばだというのに元気なことだ。好きなことに対しての体力は別物だということか。

 御茶屋と楽しそうに語っている四国(しこく)(ゆかり)も、篤姫好きな仲間なのだろう。


 大河ドラマの話に夢中な男2人を残して企画参加者は仙巌園の入口をくぐる。

 入場チケットは運営が用意してくれていた。

 運営がお薦めしているイベントに参加する分にはこまごまと金銭面の補助を受けられて、貧乏学生の水澪には大変ありがたい。


 振り返ってみたら晴れ渡った青空が見えた。

 その空を背景に、悠然と桜島が鎮座する。

 島までを隔てる鹿児島湾には野生のイルカが住んでいて、運が良ければ見れるのだったか。


「ここって島津のお殿様のお城だったの? 戦争になったらすぐ落とされそうだよね!」

「ほんと弱そう」


 紫尾(しび)橙山(とうやま)がパンフレットを見ながら笑っている。


「言われてみればそうですね。景観をとって防御を捨てたんでしょうか」


 八子も複雑そうに笑う。

 水澪は対応に困って、八子と似たような顔をしておいた。


 確かに脆そうな城だけれど、そんな建物があってもいいんじゃないかなと、水澪には思える。

 なにせ、関ヶ原の合戦で、敵中に突撃することで退却するなんて狂った戦法をとった島津の城だ。

 色々狂っている方が自然なのではないか? と思えてしまうのも仕方ない。

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