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(43)最終日-12

「焼きに使う程度で致死量に達するとは、とても強力な毒ですね。そんな危険な物を君は使ったというのですか」

「弱毒を継続的に摂取させるのは難しいですから」

「その毒劇物の処理を任せるだなんて、食事処の人間を随分と信頼しているようだ。以前から従業員と親交が?」

「そんなものありません」


 八子が首を横に振った。


「店で毒がどう扱われるのかに私は関与できないので、指示だけ出しておいて、あとは彼らに投げただけです。物を怪しまれて、指示した通りに提供されてこなかったら、企画後半で巻き返せばいいだけですし」

「違うだろう」

「はい?」

「気にするべきはそこだけではないだろう! 君が、食事処に送り付けた油を店員が事前に味見してたらどうする? それに、もし、他の客の料理にも使われてたら? 後処理の仕方が悪ければ? 幸い毒死らしい死亡者はここ数日出ていないが、一歩間違えば巻き込まれ死者が出ていてもおかしくない状態だぞ!」


 八子を横から監視していた警察官の1人が怒鳴った。

 本来なら捜査に口出す立場ではないが、言わずにはいられなかったのだろう。


「それくらい考えましたよ」


 そんな警察官を八子は冷めた目で見る。


「それくらい考えましたよ。けれど、だから何だというのです? あなたが今仰ったパターンで死人が出るのは、私の指示を破った店側が悪いのではないですか? 私は、お店の人達が、少なくとも他の客にまでは怪しい油を出さないだろうと踏んで、この計画を実行したのです」


 油を持ち込むにあたって、油を口にした客が食中毒を起こしても店側は一切責任を負わない、との契約は事前に交わしておいた。

 もちろん、企画参加者のみに油を提供するとの縛りの上でだ。

 それを、契約を破って他の客にまで提供して、食中毒が発生した日には。

 患者には医療費を請求され、運営にも違約金を請求され、店は業務停止に追い込まれ、評判は地の底へ。

 そこそこ有名な店舗なのだから、見えている危険は避けるだろう。


「だが!」

「よさないか。彼女の行動全てに一々突っ込んでいては話が進まない。話の腰を折ってすみませんでした。翌日、29日の話を聞かせてください」


 興奮気味の警察官を江戸川がなだめる。

 渋々といった様子で警察官は少しばかり身を引いた。

 その様子を確認しながら江戸川が話を続ける。


「29日、笠沙(かささ)で青島未紗十と阿二青人が亡くなった事件です」

「笠沙。サンセットクルーズに行ったあそこですね。そこで、私は、適当に作った噂を流しました。近くのとある小島に2人で訪れ願掛けすれば、永遠に結ばれるって」

「それだけですか?」

「あとは、事前に依頼していた殺し屋さんに仕事を進めてくれるように頼んだだけです。こういう人達がここら辺に行くだろうから、殺してくれと」

「どうりで、被害者の死亡推定時刻に、誰も彼も旅館にいれたわけだ。では、殺し屋は誰なんです?」

「言えるわけないでしょう? 大金と秘密を厳守する契約の上で、仕事を頼んだのですから」

「……。殺人教唆(きょうさ)罪を追加ですね」

「いくらでもどうぞ」


 場の空気が冷え込む。

 話が違う方向に転がって行きだしそうな気配に、白木は口を挟んだ。


「あのー。量刑とか、殺し屋が誰だとか、そこら辺の話は後でしてもらえませんかね? 彼女、僕に、事件のあらましを話して聞かせてくれるって言ってたはずなのに、流れが微妙になってるんですけど?」


 江戸川と八子が白木を見た。

 その2人が互いを見合って、微妙に視線をずらす。

 八子は左手で横髪を少しすくって手遊びを再開させた。


「ええ。確かにそういう話をしていました。ちょっと余計なものに流されてしまったようです。ごめんなさい」

「こちらこそすみませんね、我がまま言っちゃって。って、次の事件ってなんですっけ? 江戸川さんメモ持ってます?」

「30日。黄山勘九郎が旅館そばの浜で毒殺された件ですね」

「だそうです。この事件、桃ちゃんが少し怖がってたんですよね。だからってわけじゃないんですけど、スッキリさせるために、詳細を話してもらえると嬉しいんですよね」


 八子の前に体育座りしている桃子がびくっとした。

 八子は桃子を見る。

 困ったように笑った。


「二階さんまで怖がらせてしまいましたか。ええ、そう。確かに、私は、残っている方々の心理状況まではあまり考えませんでした。二階さんに意図的に危害を加えるつもりは無かったのですけど」

「らしいよ桃ちゃん。真犯人さんから危害を加えるつもりはないって言質もらえたから、もう完全に安全なんじゃない?」

「あー。うん、そうだね。うん」


 桃子が曖昧にうなずく。

 肯定的な反応はしているが、あの様子だとよくわかっていないだろう。

 けれど、警察と八子の間に流れていた邪険な雰囲気が飛んだようなので、今は良しとする。


「黄山さんはどうやって殺害したんです? というか、どうやって外に誘い出したんです? 聞いたところによると、彼、企画参加者の誰ともほとんど接触してなかったらしいじゃないですか」

「部屋から誘い出すのは簡単でした。ええ、本当に簡単でした。彼の部屋のすぐ外で、探し物をしているフリをしながらわざと物音を立ててやっただけなので」

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