表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/46

(42)最終日-11

「白水館に着くまでのバスの中で暗示かけられて、帰りのバスで解いてもらえる予定なんだとしたらさ。今高い所に登ったら、モモ死んじゃうってこと?」


 桃子がなんとも心配そうな表情になった。

 けれど、彼女の意見は短絡的だと白木は思う。


「どうだろうね。死ぬかもしれないし死なないかもしれない。暗示がかかっているかは、実際に条件を満たしてみないとわからないから」

「登頂した全員が飛び降りなかった理由はそれですか。暗示にかかっている人間は死んで、そうでない人間は死ななかったと」


 納得したように江戸川がうなずいた。


「自殺した人の基準がわからなくて、迷宮入りしてたでしょう?」


 そんな彼を八子があざ笑う。

 元から渋かった江戸川の表情が、苦虫を嚙み潰したようになった。


「その。暗示を解くには、君が用意したバスに乗らねばならないんですか?」

「バスに乗る必要はありません。車中で流してくれるように頼んであるディスクがあるので、それを聞けばよいだけです」

「そうですか。ならば、暗示の解除については後程こちらで手をうちましょう」

「ええ、そうしてあげてください。このまま放置しておくと、数十年後に謎の飛び降り事件が起こるかもしれませんから。行きのバスの運転手さんと、同乗していたガイドさんまでお願いしますね」


 八子からの許可が下りるや否や、江戸川が無線でディスクの回収を指示する。


「しかしわからないな。なぜ、バス丸ごと暗示などという不確実な手段を選んだんです? 暗示では殺す対象を確定できないでしょう。殺したい相手が生き残って、殺す必要のない人――、例えば、黒澤五十鈴のようなイレギュラーが出ることになる」

「そこがいいんじゃないですか」


 八子が笑う。

 江戸川は不可解といった様子で眉をひそめた。


「登山した全員が死ぬ必要はないのです。殺すタイミングはまだあるのですから。死ななくても良かったのに亡くなってしまった黒澤さんには悪いですけど、彼女が亡くなってくれたおかげで、殺害対象の選択条件がわかりにくくなってくれた。この日の殺人は、犯行計画をややこしくする良い働きをしてくれました」

「関係ない人物が亡くなろうと関係ないと?」

「最終的には10人以上殺すのです。1人増えたところで大差ないでしょう」

「狂ってる」

「そうですよ。2つの人格を持っている私は最初から狂ってる。それを少しでも、あなたがたの言うところの”普通”に修正するために、もう1人の私を殺すのです」


 反論できる言葉が見つからないのか江戸川が黙る。

 一方の八子は我関せずといった様子で口を開いた。


「次の日に移りましょうか。えと、3日目は何日だったでしょうか」

「さっき27日って言ってたから28日だよ」

「では28日。警察の中では毒死事件となっているであろう件について」


 八子が口を開く。

 けれどすぐに閉じて、少し考えるそぶりをした後、予想外の発言がなされた。


「江戸川さん。あなた方警察は毒死だということまではたどり着いているじゃないですか。私がどうやって彼らに毒を盛ったのか、ある程度まではわかっているのではないですか?」

「あの日、君らが昼食を食べた食堂に不審な油が届いた。それを使って調理し、食事に訪れた企画参加者全員が口にしていることは調べがついています。企画参加者以外には決して出さず、使い終わったら捨てろと厳命されていたあたり、この油が毒でしょう」

「ええ、ええ。それで、その先は?」

「その先?」

「その先ですよ。食事処に届いた油が毒。それを全員が食べた。だけでは選択的殺人は成立しません。ですから、誰が死ぬかを決めるための次の手です」

「それは――」


 江戸川が言いよどむ。

 困った江戸川を見て八子は薄くながらもあざ笑っているのだから、いい性格をしている。


「まぁまぁ。そこがわからないから、警察は犯人逮捕できないでいたわけだろうし。聞かせてくれない?」

「お優しいですね白木さん。こういう時くらい、理不尽な公権力にし返ししてもいいと思うのですけど」


 江戸川が八子をギロリと睨んだ。

 八子は肩をすくめる。


「冗談ですよ。これ以上おちょくると罪を重くされそうですから、自白しましょうか。この日はね、引き算をしたんです」


 昼食を食べ終わった時点で、八子含め、全員が毒死する条件を満たしていた。

 毒死の運命から逃げるための鍵は飴だ。


「飴?」

「そういえば、クオンちゃん、すんごい苦い飴食べてたよね」

「そういや、大ハンヤからの帰りで貰ったね。くそ苦い飴」

「覚えていましたか。その飴ですよ。あれが解毒剤なんです」


 致死量の毒を摂取していようとも、体に吸収される前に解毒剤を摂取すれば、毒の効果を弱化、もしくは無効化できる。

 昼食で毒を取り込んだすぐ後、八子は解毒剤の飴を舐めた。

 けれど自分だけではない。

 欲しいと言った人間全員に飴を配った。

 生き残る機会は平等に与えたのだ。

 情報を与えなかっただけで。


「ただ、この毒、時間を置いてもう1度解毒剤を摂取してようやく完全に無効化できるものだったんです。私以外の人は2度目の飴を食べる機会が無かったから、生き残っても、夜は少し体調が悪かったみたいですね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ