(33)最終日-2 朝風呂と出会い2
知り合いの刑事から聞いたという話を九之坪がしてくれる。
「っていうか。九之坪さん、刑事に知り合いがいるんですか? それも、その感じだと、今回の現場に出張ってきてる?」
「現場に来てるのまで気付きましたか。ええ、捜査に参加してますね。誰だかお教えするのは勘弁願いますが」
九之坪が困ったように肩をすくめる。
白木はぽかんとしつつ、一方で警戒を深めた。
捜査情報を流してもらっていると九之坪は言っているが、その内容は犯人も知っていることだ。
現状、連続不審死の犯人は、外部犯・内部犯、確定していない。
九之坪が情報提供者を明かさない限り、情報源が知り合いの刑事だという言葉は嘘である可能性がつきまとう。
犯人度が上がった以上、九之坪を警戒しておく方が安全だ。
黄山の件で判明したとおり、旅館1階に泊まっている人間は警察の監視をすり抜けて自由に行動できた。
九之坪の部屋も1階。
自称知り合いの刑事からの情報提供で、連続不審死に関する情報も豊富。
フリーランスで生計をたてられているというのなら、頭もそこそこきれる、有能な人物なのだろう。
連続殺人を計画する頭と、冷静に慎重に犯行を行う理性を持っていてもおかしくない。
様々な条件が九之坪が犯人であると示唆しているようで、少し怖い。
「ま。こんな状況も今日でさようならできるはずなんですけどね。これから企画参加者全員出席の朝食会があって、10時にチェックアウトして、鹿児島中央駅までバスで送ってもらったら解散になるはずなので」
「あ、そんな計画なんですね」
「そこは二階さんに聞いてなかったんですか? ええ、そういう予定になってます」
九之坪が軽くうなずいた。
それから何かを考えているように視線をずらす。
少しして、ゆっくりと白木の方を向いた。
「朝食が終わってからチェックアウトまで少し時間があるので、どうやって時間を潰そうか悩んでいたんです。この前のビリヤード、勝負が中途半端なままですし、再戦どうですか?」
まさかの提案に、白木はなんと答えればよいのかわからなかった。
というか、この非常事態に、たかがゲームの再戦をしたい感情がよくわからない。
物事の決着はきっちりつけないと気が済まないタチなのだろうか。
それとも他に目的があって言っているのか。
九之坪の行動理由が読めない以上、おいそれと誘いに乗らない方が利口な気がする。
「あのクラブ、夜しか開いてなさそうでしたけど、朝でもビリヤード台を使えるものなんですか?」
「あ、そうですね。そうか、施設が開いてないか」
九之坪がはっとした表情になった。
本気で気付いていなかったらしい。
「僕としたことがうっかりしていました。すみません」
そうして頭をかく。
九之坪の誘いに乗らないですんだ白木は曖昧に笑っておいた。
その時、何かが頭にひっかかった。
なんだろうか。
九之坪が犯人ぽい要素の何かを無意識に拾ったのだろうか。
あくまで勘でしかないが、大きな気付きなような気がする。
自分は何に反応したのだろうか。
今になって急に引っかかったということは、会話の後半に引っかかりがあった確率が高い。
「そっか。ビリヤード」
疑問が晴れた。
そうだ。ビリヤードだ。
「はい?」
突然白木が喋ったものだから、九之坪が疑問満載の表情をしている。
「いえなんでもないです。僕微妙にのぼせてきたので、先にあがりますね」
「は? あ、ええ」
九之坪が唖然としているうちにさっさと風呂から出る。
犯人である可能性を持っている九之坪に、連続不審死の被害者選びのルールがわかっただなんて言う馬鹿はいない。
それに、まだ、正解に辿り着いた気がするだけだ。
部屋に戻ってネットで情報を引いて、思いついたことが正しいかの検証をせねばならない。




