(31)6日目-10 専守2
「なんか疲れたね」
「おじちゃん、モモおなかすいた~」
「あー。もう18時回ってるんだ? お菓子食べただけできちんとした昼は食べてないし、頭も使ったし、そりゃお腹もすくよね」
「ご飯に行こうよ。腹が減っては戦はできぬよ」
「だね~。特にやることもないし、食堂にでも行ってダラダラ食べるのもいいかもね」
桃子に連れられて、白木は今晩の食堂と指定されている飯処へ行く。
旅館の大食堂だった。
食堂入り口で部屋番号を告げると、仲居が席へと案内してくれる。
最初に飲み物を選んだら、後の料理は勝手に色々出てきた。
白木達が食事を続けている間に、警察官2人を引き連れた八子もやってきた。
桃子の隣に座った八子が深いため息をつく。
「急に警護の方が増えて、どこに行くにもついていらっしゃるものだから、疲れてしまいました」
「ずっと見張られてるのって嫌だよねー」
「ええ。守っていただけているんでしょうけど、気楽に1人で動ける時間が欲しいです。ずっと他人といると疲れてしまうんですよね」
八子が声のトーンを落とす。
そうして、伏し目がちに周囲に視線を送った。
八子や桃子についていた警察官は、白木達の机から少し離れた、大食堂の壁際で待機している。
けれど視線は白木達から離れていないようで、見張られている感は満載だ。
続いてやってきたのは、八子と同じく警察官を2人引き連れた御茶屋。
すでに3人座っている白木達と同じ席には座らず、隣の席に座った。
「すぐそこにいるとはいえ、多少なりともお巡りから解放される時間って最高だな」
「御茶屋さんにも警察が2人付いたんですね。お疲れ様です」
「もってことは、私の他にもお巡りが2人付いた奴がいるわけ?」
「私に」
八子が小さく手を挙げた。
「お巡り3人にあんたら3人だから、1人に1人ずつ付いてるのかと思ったよ」
「僕は厳密には関係者じゃないですからね。そこの3人は、桃ちゃんの1人と八子さんの2人ですよ」
「八子の嬢ちゃんは、お巡りが増えても平気だったわけ?」
「警察の人数が増えて疲れるって話をしていたところでしたよ」
「だよなー。なんで私ら付きのお巡りだけ増えたのかわからんけど、お互いに災難だったな。お疲れさん」
「お疲れ様です」
喋っている中、次に現れたのは一条だ。
仲居に案内されて、白木達のいる場所へはすんなり来る。
その後、既に白木達が3人座っている4人掛けの席か、御茶屋が1人だけ座っている席、どちらに座るか若干迷っていたようだったが、小さく礼をして白木の横に座った。
よく一緒に行動しているらしい八子がいるのが大きいのかもしれない。
警察官同伴だと食事の他にできることもないので、ダラダラと食事をとっていると、七野と九之坪、一岩もやってくる。
白木席は空いていないので、選択肢なく御茶屋席行きだ。
白木以外だと7人。
これが、最初20人いた企画参加者の生き残りだというのだから驚きだ。
その貴重な生存者が全員そろっていて、会話も交わせる距離にいるというのに、連続不審死についての話題は一切出てこない。
たまに九之坪が何かを話したそうに白木を見るが、その時の話題というか、空気というか――そういうものに負けた様子で黙り込む。
集まっている全員、意図的に地雷を避けているのかもしれない。
ナイーブな部分には互いに触れずに時間を潰し、それも限界になって、20時には各々部屋に引き上げだした。
大食堂に集まってきた時と逆に、1人1人に警察官が付いていく。
夜には時間つぶしによいTV番組が増えるし、風呂やら寝るやらやることが増えるので、警察官に部屋の外に張り付かれていても気になりにくくなるだろう。
就寝中を守ってくれると考えると、むしろ、いてくれてありがとうな存在だ。
食事を終えて部屋に戻ってしばらくして、桃子は大浴場に行った。
他の企画参加者に会いそうな気がして気乗りしないので、白木は部屋風呂を使うことにする。
白木と桃子が別行動をとることになったせいで、警護の警察官を急遽1人増やさねばならなくなったようで、警察側はどたばたしていたが、白木にはどうでもいい話だ。
ようやく桃子から解放された1人の時間。
部屋風呂とはいえ檜の浴槽が用意されていて、湯をためて浸かるのは気持ちいい。
家だとシャワーが多いので、贅沢な時間だ。
桃子が風呂から戻ってきたら、チャンネル争いやらお喋りの相手やらでまた騒がしくなるのだろう。
今くらいゆっくりしておかねば心労で白木が死ぬ。




