(3)2日目-2 登場人物
指宿市名物そうめん流しの店に着き注文をする。
店員が立ち去るや否や、桃子が白木に1枚の紙を押しつけてきた。
企画参加者の名簿らしい。
《企画参加者一覧(五十音順)》
青島未紗十 28歳 化粧品メーカー勤務
赤津五十一 67歳 無職
阿二青人 24歳 メーカー勤務
伊五澤橙吾 28歳 会社員
一岩浅黄 55歳 主婦
一条水澪 22歳 大学院1年生
御茶屋伊十五朗 55歳 公務員
黄山勘九郎 54歳 無職
九之坪眞白 32歳 IT系個人事業主
黒澤五十鈴 34歳 主婦
小緑十四郎 38歳 小売業契約社員
四国紫 49歳 銀行員
紫尾十二愛 17歳 高校3年生
橙山十令三 18歳 大学1年生
七野翠 46歳 農家
七海茶和子 42歳 小売業パート
二階桃子 15歳 高校1年生
三枝朱絵 26歳 メーカー勤務
八子黒音 18歳 大学1年生
六斉堂美緑 37歳 アルバイト
(企画外登場人物:白木 一 36歳 総合商社勤め)
企画参加者は合計20人。
企画運営が負担するのは旅館との行き帰りの交通費と1週間分の宿泊費、あと、ちょこちょこと補助程度という話だが、結構な大盤振る舞いだ。
「にしても。世の中には、数字と色の入った名前持ちの人って結構いるもんなんだね」
「モモも思った。てか、それを言ったら、おじちゃんも条件に当てはまるじゃん? モモが申し込んであげておけばよかったね」
「ああ、そうだね。当選してたら兄貴に旅行権をあげたのに」
そうすれば、白木はせっかくの長期休暇の半分を子守に潰されずに済んだのに。
今更どうしようもないのだが。
なんともなしに名簿を眺めながら、年若い参加者の何人かを白木は指した。
紫尾十二愛17歳、橙山十令三18歳、八子黒音18歳。
「いるじゃない。年が近くてすぐに仲良くなれそうな子」
「その子達とならゆうべ喋ったよ! 砂蒸し風呂も一緒に入ったんだ~」
「なら、一緒に登山も行こうって誘えば良かったのに」
「何人かは行くって言ってた気がするよ。でもさ、その程度のお知り合いとより、モモはおじちゃんと行きたかったの」
喋った上に一緒に風呂に入れれば、仲良くなる足がかりには十分ではないだろうか。最近の若い子の基準はわからん。と白木は頭を抱える。
けれど、考えても答えが出ない問いのような気がして、すぐに考えるのをやめた。
そうこう喋っていると頼んでおいた品が届く。
水がぐるぐると流れるそうめん流し器の中に白木は素麺を投入した。
投入したそばから桃子が素麺を豪快にかっさらっていく。
「女子ってもう少し遠慮して取るものじゃないの?」
「おじちゃん相手に遠慮する必要性を感じないな~。おいしいねこれ」
「遠慮はいらないけど、気は使ってあげなさい」
「はーい」
素麺ばかりに食いついていた桃子が、サイドメニューを食べつつの動きに変わった。
ようやく白木も素麺にありつく。
「おじちゃんの都合でモモの登山を潰したんだから、代わりの遊びプラン用意してよね」
「強引に面倒みさせてるのに、更に強気に出てくるわけですか」
まったく、兄夫妻は姪にどのような教育を施しているのだろうか。
もっとも、姪に懐かれているのがまんざらでもなく、白木が甘やかしているのも、彼女が好き勝手しすぎる性格になってしまった一因なのだろうが。
今だって、不平を言いながらも、白木の指は姪が遊ぶのに程よい観光場所を探すためにsurfaceを操作している。
条件が合いそうな場所を見つけ、白木は指を止めた。
「ここなんていいんじゃない? 養蚕農家カフェなんだけど、絹糸でコースター作りしたり、天然美容液が売ってたりするらしいよ。義姉さんに土産に買ってあげてもいいけど」
「お土産買ってくれるんだ! じゃあそこで!」
マスの塩焼きを口いっぱいに詰め込んだ状態で桃子が食いついてくる。
現金なものである。
なにはともあれ、コースター作り体験には予約が必要なようだったので、今日の昼から予約が取れるか白木は電話をした。
無事予約が取れたので、あとはひたすらに料理を楽しむ時間に変わる。
白木の頼んだセットにだけ付いていた鯉のあらいを桃子が奪うという事件はあったものの、平和に昼食は終わった。
白木はそのまま車を走らせて目的の養蚕農家カフェへ向かう。
助手席で桃子はお気楽に寝ているのだから、いい御身分だ。