(25)6日目-4 事件検証3
「あのさ。大ハンヤがあった日にさ、帰りの車の中で桃ちゃん八子さんと喋ってたじゃん? その中で、昼ご飯はみんなで運営お薦めの店で食べたって言ってなかったっけ?」
「言ってた、気がするよーな?」
「そこでさ、亡くなった4人だけ同じものを食べたとかないのかな?」
桃子が首をかしげる。
しばらく視線が天井辺りでうろちょろし、ふいに、ぽんと手を打った。
「なんかちょっと思い出してきたかも。確かね、鉄板焼きとおっきなかき氷を、みんなそれぞれ好きなもの食べたって言ってたよ。それぞれの席の鉄板でジュージューして楽しかったって。モモもちょっと食べたかったから、羨ましいなって思ったんだもん」
「一緒の店ではあるけど、食べたものはバラバラかぁ」
「そのね、みんなでお昼を食べたお店にね、運営から低カロリーな油が届けられてて、企画参加者が来たら使ってねって指示があったんだって。で、企画参加者にだけ使わせて、残りは全部廃棄してって」
「何それ。それが原因の毒物でほぼ確定じゃない?」
大ハンヤ参加組の昼食には鉄板焼きがあった。
それぞれの席に設置されている鉄板に油をひいて、数人分の料理を一気に作る。
油は共通。
調理工程で食材は毒油に侵されたと考えられる。
「てか、安全性のわからないものを出すだなんて、飲食店として失格なんじゃない?」
「ところがさー。モモは名前忘れたけど、そこそこ有名な油だったらしいんだよね。それが未開封の状態で送られてきたんだって。そんなのだったら、モモなら何も考えずに使っちゃうな」
それなら白木だって使う。
市販されている商品は安全基準をクリアしていると信用しているから。
「ついでに、お店がきっちり油を捨てちゃってたせいで、証拠が無いんだって」
「現物が無いとなると、ただの低カロリー油って言いきられたら終わりだね。てか、桃ちゃんその情報どこから手に入れたの?」
「んとー。大ハンヤに行ってた誰かからだったと思うよ。"君も被害者と同じものを食べてるはずなのに無事なのは何故だ"って警察から疑われたとかなんとか、愚痴と一緒だったような」
「無事といえば、八子さんもケロっとしてたね」
「だね~。クオンちゃんといえば、あの時貰った飴は苦かったよね。クオンちゃん、ああいうのが好きなんて、味覚が大人」
大人になれば誰でも苦いものを好きになるわけではないと思うのだが。
いや、今はそんなことはどうでもいい。推理だ。
仮に、全員が毒を一度は口にしたとして、死に至った人とそうでなかった人との違いはなんだったのだろう?
死亡した人物は男性も女性もいる。性別での選択は起こっていない。
男性が被害者に含まれていることから、毒物摂取量の不足も考えられない(一般的に、致死量は体重に比例する)。
「良薬は口に苦しって言うしさ、苦いものを食べたら体にいい影響とかあるのかな?」
「体に悪いものにも苦いものが多い気がするけどね」
「おじちゃんってば夢がないな~」
夢ではなく現実だ。
だがしかし、薬が苦いは確かにある。
ひょっとして、食べ合わせで毒の効果を弱めたり無効化できたりといったことがあるのかもしれない。
この推理はいい線をいっている気がする。
とりあえず保留には違いないが、思いついたことを表に書き込んでおいた。




