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(23)6日目-2 事件検証1

「おじちゃん頭いいらしいじゃん。小説やドラマの探偵みたいにさ、ぱぱって事件解決できないの」


 桃子がまた無理難題を言う。

 あれは創作物だからできる芸当なのだ。小説やドラマの中だけで成立する世界。

 凡人な白木には逆立ちしても無理な芸当だ。


 それでも、時間が有り余っている状況というのは、人に、何かしようと思わせるもので。

 白木は持ってきたsurfaceを机の上で広げネットにつないだ。

 ついでにエクセルを立ち上げる。


「凡人な僕に事件解決は無理だと思うけど。暇だし、事件の推理ゴッコくらいならしてみてもいいよ」

「やった! さすがおじちゃん! やる気無さそうにしときながら華麗にパパっと解決して、モモの楽しい旅行の日々を取り戻してよー」


 だから、華麗にパパっと解決は無理だと言っているのに。

 再度指摘するのも面倒なので、白木は無言で流して不審死事件に関するネット掲示板を探す。

 書かれている情報の真偽はともかく、量だけならここが一番だ。


「それじゃ、最初の不審死から検証していこっか。えーと、企画が始まった日の夜がスタートだったっけ?」

「うん」

「この企画、何日から始まったっけ?」

「4月26日からだよ~」


 白木はエクセルに表を作る。

 日付欄に4月26日から1週間分の日付を入れた。


「亡くなったのは、ネットの情報によると赤津(あかつ)五十一(いそいち)さんと伊五澤(いごさわ)橙吾(だいご)さんってなってるけど、合ってる?」


 被害者の欄に名前を入れる。

 桃子は鞄を漁りだして、中からややヘタレた紙を出した。

 企画参加者の氏名年齢職業が書かれている。

 今のご時世、個人情報をこんな形で出していいのか不明だが、今は情報源としてありがたい。


「初日の晩ご飯会でちょっと喋っただけだからあんまり覚えてないんだけど、確かそんな名前の2人だったよ」

「赤津さんは脱水、伊五澤さんは酒に酔っぱらいすぎたのが原因で窒息死に陥ったみたいだって言われてるんだけどさ。これも合ってる?」

「あー。お巡りさんがそんなこと言ってたよーな」


 桃子の反応は怪しいが、情報が正しいとの確認はとれた。

 被害者の情報欄に情報をつけ足していく。


 赤津は67歳の女性。

 部屋風呂で入浴中に脱水症状に襲われ意識を失う。

 不運にも顔が水の入った桶に浸かってしまい、溺死。

 年寄りは色んな感覚が鈍っているので、体の渇きにも気付き難いとよく聞く。

 風呂場でウトウトしてそのまま死亡も、そこそこの頻度で起こる事故だ。

 これといって不審には思えない。


 伊五澤は28歳の会社員男性。

 企画初日に催された夕食会で、酒を大量に飲みながら女性に絡みまくっていたらしい。

 自分も飲むからあなたも飲みましょうな感じで、相手を酔い潰して不逞を働くタイプだと掲示板にはコメントが添えられている。

 企画参加者がこの掲示板に書き込んでいるな、と白木に思わせてくれる内容だ。


 それはさておき、女性をナンパするために酒を飲みまくった伊五澤は、酔っぱらったまま部屋で入浴。

 湯船の中で寝てしまい窒息死したらしい。


 風呂に入ってさっぱりしたい気持ちは白木にもわかる。

 が、酩酊状態での入浴は馬鹿だと思う。

 こうなることがあるから、酩酊状態での入浴が推奨されていないのだから。

 ということで、伊五澤の死に方も、確率は低いながらもあり得るパターンではある。


「この人達さ、誰かから恨まれてたとかあったの?」

「そんなの知らないよ。会ったばっかりだし。誰からも恨まれてなかったっぽかったから、お巡りさんが事故で処理したんじゃないの?」

「それもそうだね」


 事件の片鱗すら見つけられない。

 怪しい部分欄は空白のまま、事件事故の判断欄には保留と記入。

 翌日の不審死検証に移る。


「27日の話に移るよ。亡くなったのは黒澤(くろさわ)五十鈴(いすず)さん、小緑(こみどり)十四郎(とうしろう)さん、七海(ななみ)茶和子(さわこ)さん、六斉堂(ろくさいどう)美緑(みどり)さんで合ってる?」

「その4人だったはずだよ」

「開聞岳登山にみんなで行ってて、頂上に登りついた時に急に飛び降りたらしいけど」

「そうだよ~。ドレミちゃんとソニアちゃんも一緒に登ってたらしいんだけどさ。頂上に着いたと思ったら目の前で飛び降り事件が起きて、何がなんだかわかんなくなったって夜に言ってたもん」

「まぁ、普通に考えて、飛び降り前に死ぬ理由を言うのなんて、ドラマのご都合か、自殺を引き留めて欲しい人だけだよね」


 死亡した人と死亡原因は間違いないらしい。

 問題は衆目の前で急に飛び降りた理由だ。


 小緑は38歳男性。小売りの契約社員。

 七海は42歳女性。スーパーのパート社員。

 六斉堂は37歳女性。アルバイトを掛け持ちして生計を立てていた模様。

 3人とも独身。


 このことから、警察は、小緑、七海、六斉堂の3人に関しては、年齢の割に不安定な就業状態のせいで将来に不安を感じて衝動的に自殺。

 主婦の黒澤は3人からその話を聞き、共感しすぎて運命を共にしてしまったのでは、と結論付けたらしい。

 ネットでは「警察強引すぎわろす」と意見が出ている。

 白木も警察の結論はガバガバだと思う。


 そういえば、何日か前に九之坪と話した時、彼はこの時のことを何か言っていたような気がする。

 たしか、彼も登山には参加していて、死亡した4人が登頂した時には九之坪も頂上にいたのだ。

 それで、1人目が急に飛び降りた後ろから誰かもフラフラしだしたから、その誰かを止めようとしたとか言っていたような。


 他に九之坪はなんと言っていただろうか。

 飛び降りようとしているその人物は九之坪の制止など全く聞かず、夢遊病や催眠にかかっているようであったと言っていなかっただろうか。


「九之坪君が言ってた話なんだけどさ。飛び降りた人さ、夢遊病……は可能性が低そうだから除外して、催眠にかかってるみたいだったらしいんだけど」

「催眠って、あの、自分の意志に関係なく動いちゃうあれ?」

「たぶんソレ」


 もしも催眠で自殺を誘導したのだとしたら、立派な殺人事件だ。

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