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(16)4日目-5 暇潰しのお誘い1

 部外者だし、最初に事情聴取されてさくっと解放されるだろう、と、白木は軽く考えていた。

 けれども、警察官の対応は白木の予想の逆だった。


「皆さん以外の白水館の宿泊客の方々に、先行して事情聴取を行っているのですが、何せ人数が多くて。未だ終わっておりません。皆さんを聴取するのはその後になります」


 一行の夕食がまだだったり疲れがたまっていることをダシに、しばらくゆっくりしていてくれと言い渡される。

 ただし、旅館から外出しないで、という制限付きで。


 桃子達女子は「とりあえずお風呂」と自室に引き上げて行った。

 白木としてはとりあえず飯といきたいところなのだが、去り際の桃子から「お風呂あがったら一緒にご飯食べようね!」と釘を刺されてしまっている。

 理由も無しに先に食べた日には、しばらくぶちぶち言われるだろう。


 手持無沙汰になって旅館内をぶらぶらする。

 といっても、客室がほとんどを占める温泉旅館で見て回れる場所などそう多くはなく。

 すぐにロビーのソファに落ち着いた。

 そんな白木の斜め前に誰かが立つ。

 なかなかいなくならないので視線を向けてみたら、知った顔がいた。


「暇しているみたいですね白木さん」

「どーも。えと、九之坪さんでしたっけ」

「そう、九之坪です。覚えていただいてどうも。覚えていただいたついでに、一緒に暇つぶししませんか?」


 にこにこしながら九之坪がどこかを指す。

 こっちに行こうということだろうか。

 その先に何があるのかわからないが、時間が潰せるのであれば、白木としては万々歳だ。

 九之坪も30を過ぎた人間だと聞いたので、あまり無茶な時間潰しは提案してこないだろう。

 軽い気持ちで白木は提案に乗った。


 館内を少し歩いて1つの扉を開く。

 クラブのような趣の部屋だった。

 目の前にはカウンターが設置されていて、数々の酒が置かれている。


「何か飲みます?」


 九之坪が訊ねてきた。


「あるなら水を」

「酒は飲まれない方でした?」

「いやー。何も無ければ飲みたいんですけど、帰りに車を運転しないとならないもので」

「なるほど。僕は失礼して酒を貰いますね」


 カウンターに立っているバーテンダーに九之坪が注文をする。ついでに軽食も頼んでいた。


「僕まだ何も食べていないもので。良ければ白木さんもどうぞ。あ、注文品、僕達のいる所に持ってきてくれるそうですよ」


 そう言って九之坪は部屋の一角を指す。

 そちらにはビリヤード台が置かれていた。

 その近くの席に座るのかと思いきや、九之坪は台に置かれていた(キュー)の1本を手に取る。


「どうですか? ビリヤード。ちょうど球がセットされているので、エイトボールを」

「昔遊びでやった程度なのでヘタクソですよ? それでよければ」

「誘っておきながら僕も同じです。では下手同士、ハンデは無しということで」


 九之坪が白木にもう1本の棒を取ってくれる。

 2人とも同じ辺に立ち、それぞれの球をショットした。

 跳ね返ってきた球がどれだけ自分の近くで止まるかで、先攻・後攻を決める。


「僕が先行ですね。うわー、久々で緊張するな」


 先攻を取った九之坪が球を囲っているラックを外す。

 正三角形に並べられた球の塊を白球でブレイクした。

 16個の球がころころ転がるが、1つもポケットしない。


「僕だとこんなものですかね。白木さんどうぞ」


 九之坪が台からわずかに離れる。

 白木は台を見渡した。


 エイトボールは自球(白)と15個の球を使って行われる。

 1番~7番までのローボールと9番~15番までのハイボール、どちらかを自分のグループとしてポケットに落としていく。

 自グループの球であれば落とす順番は関係ない。

 自グループの球を全て落とした者には最後の8番を落とす権利が与えられ、見事ポケットできれば勝者となる。


 白木のビリヤードの腕は素人同然だが、最初のショットを見たところ、九之坪もそう上手いようには見えなかった。

 的球の配置が易しい方のグループを選べれば勝てるかもしれない。

 勝敗にこだわる方ではないが、どうせなら勝てる方がいいので、真剣に、的球の配置と手球を打つ角度を考える。


「5ボール、コーナー」


 コールして、手球でオレンジ色の5番球を弾いた。

 上手い具合に5番球が角のポケットに落ちる。手球は5番球に当たった所で止まった。

 ブレイク後、最初にポケットした球のグループを、落とせたプレイヤーが担当する。

 今回の場合、白木は1~7番球(ローボール)を落とせばよい。


「お見事。それじゃ僕はハイボールですね」


 九之坪が静かに拍手する。


「面倒ですし、暇つぶし程度のお遊びなので、コールは無しにしましょうか。8番の時だけコールのタイプで」


 さっそくルール変更も提案してくる。

 九之坪の提案してきたルールに変更すれば難易度が下がるので、白木としては大歓迎だ。


「コール無し了解。んじゃ、適当に行きますかね」


 引き続き、白木は緑色の6番球をポケットした。

 白木のターンが続く。


「ところで白木さん、今、うちの企画に参加してる人間の間で、おかしな事件が起こってるんですよ」

「おかしな事件?」


 1番球を狙ったけれど、ポケットから外れた。

 ターンが九之坪に移る。


「企画参加者ばかりバタバタ亡くなってるんですよね。しかも連日」

「いやいや、御冗談を」

「それが事実だから、おかしな事件だと言っているんです」


 九之坪が赤白ストライプの11番球をポケットした。


「白木さんは、日本人なら誰でも知っている総合商社にお勤めできるほど頭がよろしいのでしょう? 考えを聞かせていただけませんか」

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かにこれだけ人死にが出れば――というか1人亡くなっただけでもおおごとだとは思いますが、他人事だから皆あっけらかんとしているのは、まだ「そんなもんなのかね?」くらいの感覚で受け取れないことも…
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