(13)4日目-2 シーカヤック体験2
指宿市からマイクロバスで出発した。
道中、シーカヤックに必要な水着をホームセンターで買う。
一緒に仕入れておいた昼食は、移動がてらバス中で食べた。
2時間強で、シーカヤック体験を行っている笠沙市に着く。
13時。シーカヤック体験が始まった。
青島達一行を前にインストラクターが言う。
「カヤックは基本的に2人乗りなので、2人ずつの組に分かれていただきたいのですが。9人ですね。お1人、私とカヤックに乗ってもいいという方はいらっしゃいますか?」
「誰も希望者がいないなら私が。というか、むしろ私はインストラクターさんと組みたい。年のせいか、最近どうにも運動神経が鈍くなってきて」
御茶屋が手を挙げた。
高齢者にそう言われて不可という人間はいない。
インストラクターと組になるのは御茶屋で決定だ。
「残りはちょうど男女4人ずつだし、男と女でペアになるのがいいんじゃないっすかね? 男女でわかれてあみだして、同じ数字の者どうしがペアになるとかどうでしょ?」
阿二がそんなことを言いだした。
言っていることは悪くない。理にかなっている気がする。そこまで仲良くない者とも話をする機会を作れるわけだし。
が、本心は別だろう。
青島にはそんな気がする。
女好きな阿二のことだ。
シーカヤックで確実に女子とペアになれるように言いだしたのだろう。
浮気旅行を共に楽しんでいる青島だけで満足するような男ではない。
シーカヤックで同じ船になったのをきっかけに、他の女も食えれば良いとか思っているに違いないのだ。
阿二は口に出さないが、彼の目線や仕草を見ていればわかる。
移り気な気質を青島にばれていないとでも思っているのだろう。
本当に馬鹿な男だ。
そんな馬鹿男と別れられないのだから、自分はもっと馬鹿か、と、青島は小さく自嘲した。
青島がそんなことを考えている間にもあみだの準備が進む。
男性と女性で分かれて砂浜に線を描きだした。
「モモぉ、おじちゃんと組がいいんだけど」
線を引きながら二階が小声で言う。
「それなら、あみだが終わったら最初に叔父様の番号を訊いて、二階さんもそれだと申告しては? こちらの番号は、本来その番号の人と二階さんの番号を入れ替えればいいですし」
八子が親切な提案をした。
青島としては問題ないが、一条はどうだろうか。
一条や八子といいった、一見大人しそうな女をそのままの人間だと見てはいけない。
表面上は地味な女ほど裏で男遊びが激しいのはよくある話だ。
一条が白木に興味を持っていても不思議には思わない。
「構わないよ。白木さんだっけ? 彼も二階さんと一緒の方が落ち着くだろうし」
しかし、青島の予想に反して一条はにこやかに二階の案に乗った。
青島も了解と返す。
次は番号振りが必要だ。
普通にあみだをしてそれぞれの番号を決め、自分と二階の番号を覚える。
その後は、まず白木の番号を訊いた。
幸いにも二階の番号と同じだったので、2人は問題無くペアになる。
青島は阿二とペアだった。
相手が青島だとわかった時、阿二が一瞬残念そうな顔をした気がするが、見なかったことにする。
青島的には、阿二の他の女への浮気を防げて万々歳だ。
大人しい一条は、素朴な農家七野翠と。
清楚系で青島的に気に食わない八子が、参加者の中で最も高ランクな男九之坪と。
それぞれ組になった。
終わってみれば、なんとなく妥当な分かれ方だ。
女が前、男が後ろに座る形で、2人ずつシーカヤックに乗船する。
インストラクターの指示に従って海へ漕ぎだした。
4月の海は正直まだ寒い。
しかし、ここが鹿児島だからか、日射しはそれなりに強い。
結果、ほどよい体感温度になっている。
海は綺麗だし周囲は自然に囲まれていて癒されるし、何より、普段経験できない体験なのがテンションを上げさせる。
シーカヤック体験に参加している誰もが普段よりはしゃいでいる。
気が付いたらカヤックを漕ぐ時間は終了になった。
シャワーを浴びて、着替えて、サンセットクルージングの船へ乗り換える。
クルーズなんていうから、テレビでよく見るクルーザーを想像していたのだが、提供されている船はただの漁船だ。
地元猟師の小遣い稼ぎ企画か、と、青島のテンションは少し下がった。
けれど、まぁ、大切なのは景色だ。
愚痴は言わずに流れにまかせる。
岬を出港した時はまだまだ青かった空だが、あっという間に日が沈み始めた。
空は夕焼け色へと移り変わる。
海から出ている岩も灰色から黒色へ。
岩や山影に陽が隠れていき、最後のあがきのように見せる光の筋がなんとも言えない。
どさくさに紛れて阿二が一条八子の2人組にちょっかいを出しに行っているが、そんなことを気にかける時間の方がもったいない。
いや、阿二がいなくなった今のうちに、青島も他の男との縁を深めに行くべきだろうか。
といっても、乗り換えるだけの価値のありそうな男は九之坪しかいないのだが。
そんな彼は、今、船べりで1人のんびりと夕景を眺めている。
「綺麗ですね」
なるべく自然を装って青島は九之坪の横に行った。
「私、普段は名古屋住みなので、こんなふうに自然の中での夕焼けなんてほとんど見たことないんです。感動しちゃいました」
「僕も都心住みなので似たようなものですよ。こんな景色見せられちゃうと、田舎に移住しようかなって本気で考えちゃいますよね」
「田舎への移住、最近はやってますよね」
「テレビであれだけ流されてるから、憧れる人が多いんですかね。正直僕も、東京の人の多さにはうんざりしてますし」
困ったように九之坪が笑う。
そんな彼の背中に二階がぶつかってきた。




