(12)4日目-1 シーカヤック体験1
4月29日(月)
9:45 指宿市白水館
今日運営が提案してくれているイベントは、シーカヤック体験とサンセットクルーズだ。
まずは笠沙市に行き、昼過ぎからのシーカヤック体験に参加する。
笠沙行きのマイクロバスが10時に出発ということなので、間に合うように阿二青人はロビーに降りてきた。
ここ2日で暗黙の了解的に集合場所になったロビーの一角に、イベントに参加するメンツが集まってきている。
その集団の中に、1人、知らない壮年男が混ざって挨拶をしているのだが、あれは誰だろう。
運営の1人だろうか。
気にしつつ阿二はその場へ行った。
「お、阿二君おはよう」
目があった御茶屋が挨拶してくる。
「おはようっす」
阿二は軽い調子で挨拶を返した。
御茶屋とは、開聞岳登山、大ハンヤと、連日同じイベントに参加しているので、気ごころが知れてきた気がする。
連日同じイベントに参加しているのは九之坪もなのだが、阿二としては、九之坪とはあまり一緒に行動したくない。
なぜなら、いい男っぷりで阿二より勝る相手だからである。
九之坪は安定して利益を上げているIT系個人事業主で金払いが良く、見た目はそれなり、センスも悪くない。おごっている部分はほぼなく、どちらかというと、他人への気配りができている方だ。
自分のことで手いっぱいの阿二の完敗である。
三枝がいないか集団を眺める。
阿二と2歳しか離れていない三枝は、会社は違うながらメーカー勤務同士なのもあって話しやすい。
今日のイベントも参加すると昨夜は言っていたが、まだ顔を見せていないようだ。
というか、このイベントに参加するつもりだと昨日言っていた人間が、他にも数人来ていないことに阿二は気付いた。
顔を見せていないのは、三枝、四国、紫尾、橙山。
この4人は昨日はしゃぎ過ぎたのか、夕食時や帰りのバスでだるそうにしていた。
揃いもそろって疲れが取れずに寝過ごしているのかもしれない。
寝かせておいてやるのが優しさだろう。
そんなことを考えて自分の世界に浸っていた阿二だったけれど、
「どうも白木です。えーと、企画からしてみれば部外者なんですが、今日のシーカヤック体験なんかに飛び入り参加させてもらうことになりました。二階桃子の叔父です。ご迷惑おかけしてすみません」
正体不明だった見知らぬ男に話しかけられて、意識が現実に戻った。
反射的にゆるい笑顔を浮かべて対応する。
「桃子ちゃんの叔父さんだったんですね~。阿二っす。こちらこそよろしくお願いしますわー」
愛想良く返事しながら相手を観察する。
年は九之坪と同じくらいだろうか。
九之坪と比べると若干疲れた感じがするから、もう少し上かもしれない。
疲れた感じというか、やる気の無さというか。
二階の叔父という立場はあまり嬉しくないが、九之坪よりは接しやすい相手な気がする。
「あと5分でバスの出発予定時刻ですね。そろそろ乗りこんでおきますか」
九之坪が動き出した。
それに合わせて他のメンツも動き出す。
青島未紗十、阿二青人、一条水澪、御茶屋伊十五朗、九之坪眞白、白木一、七野翠、二階桃子、八子黒音
駆け込みがなければ、今日はこの9人で動くことになりそうだ。
紫尾と橙山がいないのは阿二としては少し残念だが、他にも女はいる。
旅の恥はかき捨てというか、旅先でのアバンチュールな展開なら許されるというか。
相手のガードが比較的緩くなるこういう機会は、阿二のように後腐れなく複数の女と遊びたい男にとっては、最高のシチュエーションだ。
青島未紗十との浮気旅行のつもりで参加した企画だったけれど、他にも阿二好みの女性参加者が数人いる。
大人しめな一条や八子を落とすのも面白そうだ。
それとも、二階や紫尾、橙山といった若者を徹底的に狙うべきか。
バスで隣同士に座っている阿二がそんなことを考えているだなんて、青島は知らないだろう。
他の女に手を出したとしても、青島に感付かれないようにするつもりだ。
浮気するならバレないようにやる。
これが阿二のモットーであり、そこを徹底しているからこそ、彼女4股なんていう生活ができているのだから。
バスが出発した。
イベント参加者は結局9人から増えなかった。
それでも、参加女子は誰もかれも阿二好み。
今日も楽しい1日になりそうだ。




