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TOKYO異世界不動産 2軒め  作者: すずきあきら
第二章 物件調査は真夏のビーチで
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3

謎の屋敷といったら夜はやっぱり・・「ハウス」!


「あー、美味しかった! アスタリのお料理、いつも美味しいー! ほんと、お腹いっぱい、幸せ~!」


 笑顔で自身のお腹をぽんぽんと叩いて見せるマレーヤ。


「ほら、お行儀悪いですよ、マレーヤ」


 笑ってアスタリ。もう空いた食器を手に立ち上がっている。


 一階奥のリビングダイニングキッチン。


 窓の向こうはもうすっかり陽が暮れて、カーテンのないキッチンの小さな出窓は黒く染まっている。


「洗い物、するから」


 すぐに立ち上がるのはキア。それに、


「マレーヤもー! アスタリは座ってて。お料理作ったんだから。マレーヤとキアでやるよー」


 マレーヤも加わり、


「おいおい、早すぎだろ。てか、なんで酒がないんだ。晩飯に酒抜きとか、どうなってる。信じられんぞ」


 憮然とする源大朗を残して、テーブルの上はあっという間にきれいに片づけれられて行く。


「ごめんなさい。お買い物に行ったとき、すっかり忘れていて」


 苦笑するアスタリが頭を下げる。


 源大朗が昼寝してしまったので、女子たちだけで買い物に行ったのだ。


 幸い歩いても十五分くらいに市場があって、そこで仕入れた新鮮な魚介類で、ホタテやエビのグリルをメインに、献立は豪華で満足のいくものになったのだが。


「えー、いいじゃーん。マレーヤのジンジャーエール、半分あげたっしょー」


「あんな甘いもんでメシが食えるかって」


「飲んだくせにー、じゃあ返してよー、半分!」


「甘い飲み物ならまだ冷蔵庫にあるだろ、ったく。……でもまぁ、料理はうまかった。ごちそうさん」


 席を立つ源大朗、


「風呂は先に入っておけよ。終わったら呼んでくれればいいからな」


 そう言ってそのまま一階の自分の部屋へと入るところ、


「シャワーだけ、だから」


「そうだよ、おっさんだけ風呂入れば」


 キアとマレーヤに言われて、


「……そうだな。オヤジといっしょの湯とか、ヤだもんな」


「そんなことないんですけれど、温かいし、わたしたちはそれでいいかな、って」


「傷ついたぁ? へっへー、ごめーん! あっ! でも、変なものとか、探さないでよね! お風呂でっ!」


「はっ! 変なモノってなんだ。ガキにそんな気、起きるかって」


「はぁー!? ガキとはなによぉ! マレーヤ、こう見えてCカップはあるんだからね! アスタリなんかもっとだよぉ、ほらぁ!」


「ちょ、っと! マレーヤ!」


 なぜかバスト較べになってしまって、マレーヤ、ちらっ、とキアを見る。も、


「ええー、っと、とにかく、マレーヤたち、もう子どもじゃないんだから、ね!」


 そこには言及せず。


「……ぅ」


 キア自身、自分の胸を見下ろし、かすかに頬の染まった顔を背ける。


「だいたいなぁ、おまえらそれで大人だなんだって、ラウネアに較べたら、だな……!」


 そこまで言って源大朗、急に言葉に詰まり、


「……風呂入って寝るか。よし、解散!」


 背を向けると、こんどこそ割り当てられた自分の部屋へ入っていってしまった。


「なぁーに、あれ」


「ラウネアさんのことになると、急に意識しちゃうんですね。くすっ」


「……」


*


 その晩。


「んぁ、ふが……、んー」


 夜中にベッドの上で目が覚める。源大朗、二度寝を試みるが、


「……ダメだ。トイレ」


 朝まで持つか、と携帯の時計を眺めてまだ午前二時半。


 諦めてベッドから起き上がった。


「なんで使えるトイレが二階にしかないんだ。めんどくせえ」


 ぶつぶつ言いながら部屋を出る。


 この物件。


 一階にキッチンやLDKのほかに小さめの洋室がひとつあり、そこが源大朗の部屋になっていた。


 その隣にトイレも本来あるのだが、なぜか水が出ず、排水も流れないので使用はできない。


「修理案件だなぁ」


 ギシギシ、オープン階段を上る。一階の広間から二階のホールへ。中央部分が吹き抜けとなっていた。


 二階は洋室が三つ。


 南の角がアスタリ、東南がキア、北東向きがマレーヤの部屋。くじ引きで決めたらしい。最初は、


『えーーー! いっしょに寝ようよぉ! ベッドくっつけてさぁ! ね! ね! キアといっしょに寝たーい!』


 主張したマレーヤだったが、各部屋にあるベッドをこのときのためだけに動かすのは全員が首を振り、


『なら、マレーヤ、床に寝る! それならいいよね! ねっ! みんなでお菓子食べながら、朝までお話しようよぉー!』


 それでもまだ食い下がるマレーヤだったが、


『もう歯磨きしちゃったから、無理』


『明日は早いですから。もう寝ないと、マレーヤ』


 キア、アスタリにきっぱり拒絶される。


『ええ~~~! つまんないつまんない、せっかく三人でお泊りなのに、つまんな~~~い!』


 最後は涙目のマレーヤだったが、どうやら受け入れ、自分の部屋で寝た、らしい。


 さて源大朗。


「こっち、だよな」


 灯りのない二階ホールを手探り、足探りで進む。電灯は階下でスイッチを入れたが点かなかった。


 辺り一帯、街灯も密な地域でないと夜はほんとうに暗い。都会の家は、なんだかんだでカーテン越しにも灯りが入ってきているのだ。


「やれやれ、電気配線、電灯、湯沸かし器に、ぁー、水回りは全部見直して、場合によっちゃ取り替えないとダメか。こりゃあ思ったより高くつくかもな」


 それにしても、


(昨日まで住んでたみたいに内装、外観が整ってるのに、水道光熱なんかの基本設備がガタが来たまんまってのは、妙だな)


 ようやくトイレのドアを確認して、手を伸ばす。洗面スペースと並んで、二階の西の角に配置されているのだが、


「そういや、階段ホールのここんとこだけ、無駄に広いような」


 思ったときだ。


 ビュッ! 強い風が突然吹き付けた。


 それはもう、身体ごと持っていかれるような強風。決して軽くはない源大朗が、ひと吹きで階段の手すりにまで押し付けられるほど。


「な! んだ、どこから!?」


 なおも風は収まらない。


 それどころか、けんめいに手摺にしがみつく源大朗を、さらに押しやり、突き落とすかのように吹きすさぶ。


(まずい!)


 階段ホールから、吹き抜けで繋がった一階ホールの床まで、このままでは三メートル近くを落ちてしまう。


 運が良くても大けがは免れない高さ。


「くそ……お、い! 誰か!」


 ずるっ! 足が持っていかれる。もう源大朗は、手摺の支柱のひとつにぶら下がっているだけだった。


「誰か! 起きろ! マレーヤ、アスタリ! ……キア!」


*


 源大朗が強風と戦う、その数分まえ。


「……う~ん。やっぱりキアといっしょに寝た~い!」


 むくっ! ベッドの上でマレーヤ。身を起こすと、ベッドから降りる。スリッパを履いて、


「あれぇ、電気点かない。ま、いいか。隣だもんね」


 部屋を出る。


 真っ暗な廊下を、やはり手探りで進み、すぐ隣のキアの部屋まではわずかに五メートルほどしかない。


 なのに、


「なんで? ずっと歩いてるのにぜんぜん着かないんですけど。この家、こんなに広かったっけ?」


 五分、十分、左手で壁に触れながら歩き続ける。しだいに息が切れて来た。壁に触れている指先も痛くなって来たころ、


「あれだ! やったー!」


 部屋のドアを見つけて歓声を上げるマレーヤ。


「ふふふ~ん! いきなりベッドに入って驚かせちゃお! いっぱいさわっちゃうぞー。へへぇ、お風呂もいっしょに入りたかったのにー!」


 それまでさんざん歩いたことや、建物の構造上の疑問は、なぜかすっかり頭から消し飛んでいる。


 ドアノブに手をかけ、ドアを開ける。


 そっと部屋の中へ忍び込む。壁際のベッドは、掛け具がこんもりと膨らんで見えた。スピンクスの夜目がようやく効いてきたのか。


「キア、おじゃま~!」


 小声で言いながら、頭から毛布の中へ滑り込む。手を伸ばすと、


(ふぅーん、抱き着いちゃお~、っと! へへへー、しあわせー! ほぉほぉ、まだまだ胸はぺったんこですなぁ。いいのいいの、お姉ちゃんがいっぱい触ってあげるよぉー! そのうちアスタリみたいにおっきくなるから、心配しなくていい……、って、なんか、固くない? ゴツゴツして……)


 戸惑いながらも、まさぐり続けるマレーヤ。


(まだ女の子っぽくなってないからかな。でも、こんなに胴回り、太かったっけ。てか、キア、こんなに背、高かったぁ? それになんだか、不思議な匂いも……、ん!? なにこれなにこれ。なんか、出っ張ってて)


「ぷぁっ!」


 そこまでして、マレーヤ、いきなり自分もかぶっていた毛布を引きはがす。膝立ちになってベッドを見下ろした。


 そこに見たのは、


「ふひぇっ!? お、おっさん! 源大朗、なんでなんでえっ!? なんでおっさんがキアのベッドに寝てるのぉ!? マレーヤ、いままでおっさんに抱き着いて……、や、やだぁ! もぉおおおっ!」


 寝間着をはだけた源大朗の姿。


 マレーヤ、ショックで涙目になりながらベッドを飛び降りる。そのまま勢いよくドアを開け、逃げるように走り出て行った。


 源大朗が目を覚ましたのは、じつはこのことがきっかけだったのだ。


 そして当の源大朗。


「くそっ! なんで……!」


 吹き付けて来る強風が、まるで彼の両手をしがみついた支柱から引きはがそうとするかのようだ。


 そうでなければ、こんな体勢からでもじゅうぶん二階に這い上がれるはず。


(いちかばちか、下へ自分から飛び降りるか。三メートルほどなら、うまくすれば)


 しかし下を見ると、とてつもなく床が遠い。


 三メートルどころか、十メートルほどにも感じられる。


「こりゃあ、確実にケガじゃすまないな」


 命まで取られる高さ。とうてい錯覚とは思えない。


「どうやら、自分の身体で確かめるしかないようだ、な」


 吹き飛ばされるよりは、自分で手を離したほうが着地の姿勢を自覚できる。


 意を決して源大朗が手を離そうとした。


 その瞬間。


「だめ!」


 その腕をつかむ手。


 小さな手のひら、細い手首。両手でけんめいにつかみ止める。


「キア!」


 階上、腹這いになって手を伸ばし、必死に支えるのはキアだ。源大朗、見上げて、


「よせ! 無理だ。おまえまで落ちる!」


 吹き付ける風で、源大朗でも手を離さざるを得なかったほどだ。キアの軽い身体ごと、吹き飛ばされそうになる。


「離さな、い。源大朗も、離しちゃ、ダメ……、ぅぅ」


「バカ! なんで来た! いますぐ……!」


 源大朗が自分から振り払おうとするも、キアは首を振ってしがみつく。だがもうそんな抵抗も限界、ふたりともに落ちる、というところ。


「呼ばれた、から……、ふぁっ!」


 キアの身体が浮き上がった。


 が、次の瞬間、


「ぅおっ」


 まるで大型ヘリコプターのダウンウォッシュのような強烈な下向きの風が、不意に止んだ。


 戸惑っているヒマはない。この機を逃さず、


「どいてろ、キア!」


 源大朗は自分から床の縁をつかむ。風さえなければ、


「自分の身体くらい……ぅううう、ぉおっ!」


 よじ登る。その寝間着の背中をキアがつかんで、わずかでもと引っ張る。なんとか源大朗、階上に自分の身体を乗せ掛けた。


「うぉあ!」


 折り重なるように倒れるふたり。


 しばらく何も言えず、ただ荒い呼吸に身を波打たせていたが、


「ぉお、だいじょうぶか、キア」


「うん……、ぁっ」


 キア、自分も源大朗も、寝間着だけ、という姿を意識して、離れる。


「なんだ、気にするな。ノーブラくらい、平気だろ……、って、ぬぼ!」


 という源大朗の顔面には、キアのパンチがしっかり入った。


「気にする、の! ……でも、よかった」


「ああ、それだけ元気なら、な。おまえも」



明日も更新予定です。

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