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TOKYO異世界不動産 2軒め  作者: すずきあきら
第二章 物件調査は真夏のビーチで
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1

今日から新章です。なにやらリゾートで楽しそうだけど、仕事は?


「海だぁ!」


 弾ける声とともに、波打ち際を駆けていく三人の少女。


 いや、三人、と言ってよいのか。


 なにより、素肌をわずかに隠す水着のボトムから見えているのは、にゅっ、と伸びた、あるいは房飾りのようにフルフル揺れるシッポ。


 頭の上にはピンと尖った、またはふんわりと丸い耳も。


「ほらぁ、アスタリ、遅ぉい! キアもぉ!」


 先頭で手を振るのはマレーヤ。追いかける、というよりしぶしぶついて来ているのがアスタリとキアだ。


「マレーヤ、そんなに先に行ったら危ない、です」


「……水、こんなにいっぱい」


 とくにケットシー族のキアは、膝下まで浸かるのもいっぱいいっぱいで、それ以上とうてい進めずにいる。


 洗われるネコが風呂場でこの世の終わり、という顔をしている……ほどではないが。


「シッポがぶんぶん……、ありゃだいぶ興奮、いや、緊張してるな、だいじょうぶか」


 とは、三人から離れ、浜辺でぼんやり眺めている源大朗。


 アロハシャツに短パン、ビーチサンダル。手には、溶けかけのソフトクリームが。足元にはいくつものバッグやリュック。マレーヤたちの荷物の番を命じられているのだった。


「にしても、なんで海なんだ。オレは不動産屋だぞ。仕事に来たってのに、ったく。どうなって……、ぅん?」


 ぼやく源大朗の視線の先で、


「きゃぁっ!」


 短い悲鳴とともに、さっきまで浅瀬に立っていたキアの姿が消えた。とたん、源大朗、手のアイスを投げ捨てて、


「なんだ!? 海棲の亜人か? キア……!」


 ビーチサンダルを脱ぎ捨て、波の向こうへ駆け出そうとするところ……、


「……いや、違う、な」


 ホッと胸を撫でおろす。ふぅー、と息を吐き出すと、ボリボリ頭を掻きながらUターン。

 たったいま捨てたアイスを眺めおろし、


「ま、いいか」


 どっかり、荷物の上へと腰を下ろ直した。


 そのキア。


「……けほっ! え、えっ、なに、やめて。ちょ、っと」


 水から顔を出し、あわてて立ち上がる。そこへ、


「ぷぁーっ! ぁははは! キ~ア!」


 続いて自ら飛び出して来るのはマレーヤだ。どうやら潜って近づき、キアの足をすくったらしい。


 飛びつくマレーヤに、


「い、いや」


「え~! キアもぉ、いっしょに泳ごうよぉー! ね、ねっ!」


「ぁ、うっ……うう、ぅ!」


「ほら、嫌がってるじゃないですか。ダメですよ、マレーヤ!」


 いつの間にかアスタリもそばにいて、マレーヤを止めようとする。


 人間なら十四歳換算のキアは、紺のワンピース水着。


 マレーヤは赤の紐ビキニ。


 アスタリはレインボーカラーの、やはり三角ビキニだった。どれも前日マレーヤが率先して、池袋のデパートの水着コーナーで買ったものだ。


 スピンクス族のマレーヤとアスタリも、ケットシーのキアと、ざっくりと同じネコ科と言える。けれど、


「だぁーって、せっかく海に来たんだしー! 楽しまないと損じゃぁん! あのおっさんが海なんて連れて来てくれるの、超レアなんだしさぁー!」


 どうやら海も水も、こっちは平気のようだ。


「ぅー……」


 それでもキアは動かない。と思うと、ブルブルッ! とつぜん全身を震わせて、身体の水を弾き飛ばす。


 尖ったフサフサのシッポも、ふだんは帽子の中に隠れている垂れ耳も、まだ濡れた毛が膨らむように立ち上がっている。


「なぁにぃ、怒っちゃヤぁーだ。ほら、ほらぁ!」


 毛が膨らむのは怒ったり警戒している徴だ。無視してマレーヤ、キアに背後から抱きつくと、


「んー! キアの匂い、いいねいいねー! ずっとくんくんしてたーい!」


「ヤ!? だ、離して」


「えー、いいじゃぁーん! ぉ、ちょっと育って来ましたかな。このへんがまえより膨らんでる気がするよー! やっぱりこんなスクール水着みたいのじゃなくてぇ、かわいいビキニにすればよかったのにー」


「び、ビキニなんて、無理、だから……、ひゃ、ん!」


 マレーヤの手はキアの胸のあたりをさわさわ、往復している。びっくりしたキアがしゃがみ込んでしまうと、


「こら! いいかげんにしないと、ほんとに嫌われますよ」


 咎めるアスタリに、


「ほぉ~、アスタリ~、少し太ったんじゃなぁーい?」


「え、えっ! そんな、自分では……、わたし、太りました?」


 人間で言うと十七歳換算で、亜人の専門学園でも高等部に通っているのマレーヤとアスタリ。


 ふたごでも、その身体付きは少し違うようで、マレーヤはいかにもスレンダー。


 アスタリはというと、マレーヤに較べるとわずかながら肉付きがいい。体重などほとんど違いはないのに、顔つきに似て全体に丸みを帯びて見えてしまう。


「ぅ~ん! アスタリはこのや~らか~いのがいいんだから! えいっ!」


 こんどはマレーヤ、アスタリに抱き着くと、水着のヒップをなで回す。


「きゃっ! やめて、お尻、大きいの、イヤなんだからぁ!」


「よいではないかよいではないか~!」


「……」


 風向きがすっかりアスタリに向かって、とりあえず矛先をまぬがれたキア。なんとなく砂浜へと目を向けると、


「ぁ」


 そこにはずっと立ったまま、こっちを見つめている源大朗が。


「……あいつら、なにやってるんだ。さっきから」


 手にしたイカ焼きをひと口、かじり取るように頬張った。


*

 

「わぁー、けっこうきれいじゃぁん! ね! いいねいいね! 海辺の別荘!」


 着くなり、荷物を投げ出してマレーヤ。さっそく上がり込んで、あちこちをバタバタ、走り回っている。


「おい、勝手に入るな。部屋をいじるなって」


 こっちは源大朗。重い荷物をようやく玄関脇に置いたところだ。


 海から歩いて十五分とちょっと。


 そこだけちょっと高くなった土地に建つ洋館ふうの別荘。


 これが今日の宿。そして今回の源大朗の目的なのだ。


「でもほんとう、いいところですね。古いのに、手入れが行き届いている感じ。いますぐ住めそうで」


 玄関ホールから、階段を通じて吹き抜けの二階まで見上げて、アスタリが言う。すると階上から、


「ねえねえ! シャワー浴びてさっぱりしようよぉ! 海から帰って来たばっかじゃん! 早く早く!」


 マレーヤが身を乗り出して手を振る。


 どうやらバスルームは二階にあるようだ。


「あいつ、また勝手に、ったく」


 文句をこぼす源大朗の横で、キアはだまって周りを目でチェックしていた。


「……」


「よかったですね、この物件。これならリフォームもいらないくらいだし、こういう古い洋館の雰囲気が好きな人なら、きっと気に入ると思います」


「ああ。まだ細かいところはわからないが、おおむね、感じはいいな。お時婆さんも喜ぶだろうぜ」


 アスタリの言葉に、源大朗も満足げにあごの無精ひげを撫でた。



明日も更新予定です。

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