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天滅の魔王-破天編- 1  作者: A.A.
6/12

夜空の下で語られる過去

 処女の星装『マリアス』を纏ったハマリエルは、周囲に短剣の様な物を展開させた。

「ねぇクリプト、あの小物達の相手してくれない?」

「…はぁ、そう来ると思いましたよ。当たって誤爆しても知りませんよ」

「そんなことないと信じてるから頼むんだよ?」

「言うようになったじゃないですか」

「私達置いてけぼり?」

「二人共、ハウス!」

「…はい」

 二人が撤退する姿を見届けると、二人は再び目標に意識を戻す。

『さぁ、滅びの時間だよ!』

 ゼラは瞬時に懐に入り込み、溜めに入った。

「あなたはこれが…」

『雷帝の呪矢よ!』

 周囲に舞っていた短剣のような物が一斉に向かってくるが、全て呪矢によって弾いていく。

「ですが…これがあることを忘れてませんか?」

「そんなもの、私のゼヴォルカンには通じないよ!」

 ゼヴォルカンの一撃は盾に塞がれ、ハマリエル自身に傷は与えられなかった。

「やはり、この盾には敵いませんか…」

「いいえ、その盾はもうおさらばだよ」

「な、なんで…?」

 盾はみるみるひび割れて行き、砕け散った。

「ゼヴォルカンの力は単純にすっごく硬いことじゃない、魔力そのものを壊す力だから。その盾を維持するには魔力が必要でしょう?だから、その魔力を葬っただけだよ」

「それじゃぁ、この大剣で斬りつけようとしても…」

「砕いちゃうよ」

「…仕方ありませんね、ここは一旦引くとしましょう。それでは」

 その刹那、光に包まれたと思うと彼女は跡形もなく姿を消した。

「…とりあえず、これで終わりってことでいいのかな?」

「ええ、私達も帰るとしましょう」

「あ、ちょっと連絡を…」

 ゼラはリティスを呼び出した。

「こちらゼラ、ハマリエルとの交戦の末に撤退を確認したよ。後、先にダリアスとユニが撤退させた。私達もこれから撤退するよ」

『お疲れ様、それじゃぁ、また後に』

「あぁ、皆の分の団子を作るよう料理長に言っといて。ユニと約束したから」

『…了解。皆にも言っておくよ』

 少々笑いが混じった返事を聞くと、会話を終了した。

「さぁてと…帰ろっか?」

「そうね」

 二人は戦いによって荒れた草原を後にした…。




『まさかあの二人が返り討ちにされるとはね…』

『だから言ったのです、ムリエル達を連れて行けとあれほど…』

『まぁ、そこら辺で止めてくださいミカエル。私でさえ想定外だったのです。だから、ウリエルにそこまで言うことはないと思います』

『ラファエルは甘いです!仕方ない、今度は私が行きます。彼女達であの傷なら、私達の誰かが行くしかないです。ガブリエル達も傷が癒えたら連れていきますよ』

『分かった、それじゃぁ頼んだよ』

『まぁ、妥当な判断ですね。私も任せます』

『それでは、私は準備に参ります』

『行ってらっしゃい』

(彼女達を傷付けた罪、必ず私が裁いてみせる!)

 彼女の怒りは誰にも気付かれぬところで静かに燃えていた…。





 ディスペアラーズが城に戻る頃にはもう夜8時、ディネアは会議の準備に追われているようで、姿を見れなかった。そして、彼女達は城の大浴場で疲れを癒やしていた。

「あぁ〜極楽極楽〜」

「戦いの後はやっぱりこれですねぇ…」

「にしてもガルディはいいよね。胸大きくて、腰回りも引き締まってて…」

 ゼラは少し不満そうに呟く。

「あら、それならフィネアの方がいいわよ。身体のライン整っていて、少し背が小さい。萌え要素としては一枚上手よ」

「そ、そんなこと言わないでください!それならリティスの方が…」

「お姉ちゃん!私はそんなこと言われても嬉しくないよ!」

 普段は物静かな二人だが、二人揃うと中の良い姉妹へと早変わりする。

「でも、あなた達って『エスカルの美少女姉妹』として有名よ。そう言えば、彼氏とか作る気ないの?」

「ないです」

 リティスは即答した。これには流石に反応が困ってしまう。

「いいよ、私はリティスがいれば。それより、ガルディはどうなの?」

「私は運命の人に中々巡り会えないのよ…」

 少し溜め息を吐きながら言葉を紡ぐ。

「ゼラは逆にプロポーズ多くて困るかな。私のことをちゃんと真っ直ぐに見てくれる人っていないかなぁ…」

『はぁ…』

 二人揃って大きな溜め息を漏らす。そんな二人を姉妹が宥めるように声をかけようとする。


「あのさ、私の前でそういう話すんの止めてくんない?」


『ごめんなさい…』

 ダリスのまれに見せる否を唱えることを許さぬ声に彼女達は引っ込んでしまった…。




「いやぁ〜やっぱりこうして皆で食べるのっていいなぁ〜」

「ええ、そうね」

 入浴を済ませた一行は、城のテラスで料理長お手製のみたらし団子を食べていた。

「うぅん、やっぱりこれだよぉ〜」

「ユニは食べすぎないようにね」

「フフッ、本当にね?」

「皆さん、ここで一曲いかが?」

 ガルディはピアノの前に座るとそう訪ねた。

「弾くのもいいけど、食べようね?」

「大丈夫、ちゃんと味わって食べたから。それに、弾きたくてうずうずしてね?」

「それじゃぁ、お願いしようかしら?」

「選曲はどうする?」

「お好みで」

「了解」

 彼女は微笑みながら鍵盤の上に指を構えると、笑いながらも真剣な雰囲気を醸し出した。

「そう言えば、アリスティン達はどうしてあんなことできたの?」

「…やはり聞いてくると思っていました。…これから話すことはディネア様以外は知りません」

 周りが静かに耳を澄ますと、ゆったりとした穏やかなメロディーが響き渡り、アリスティンは話し始める。静かながらも、彼女の鼓動が高ぶっているのが伝わってくる。

 そして、アリスティンも語り始める。

「これは今から七年前に遡ります。その頃の私は極普通の小さな村の少女で、戦うことも知らない非力な者でした」

「…ってことは、うちに入る4年前の話か」

「はい。そんな中、私は森の中で親と逸れてしまって、迷子になりました。どこかも分からない森の中で、私は親を探し回ります。その時、どこからか唸り声が聞こえてきたんです」

「それがもしかして…」

「はい、ゲガルトです。私は声がする方、つまりは洞窟の中へと足を踏み入れました。中には魔物が一体もおらず、不思議なモノを感じていました。そして、奥には、遺跡がありました。私は迷わず遺跡の中へと進み、ゲガルトのいる部屋に入ります」

「それで、封印でもされていたのか?」

「はい、重力の檻に囚われていました。私は最初ゲガルトを見たとき、怖いとは全く思いませんでした。『…お前、どうしてこんな所へ来た?』と聞かれると、『あなたを助けるために来たの』と即座に答えました。笑いながら『お前、この重力を切り抜けられるのか?お前なんぞすぐにペチャンコに潰されるぞ』と、言われました。それも当然です」

「じぁあなんで?」

「『私はあなたを助けるためなら、この命も惜しくない』と答えた。理由とかはないけど、助けたいと必死だったから。私は重力の檻に入ると、当然のごとく地面に顔を沈めることになった。ゲガルトも『ほら、もう貴様も逃げられぬ。我よりも先に貴様が息絶える』って言った。けど、私は諦められなかった。だから、少しずつでも近付きたいから、腕を引きずりながら前へと伸ばした。最初はピクリとも動かなかったけど、なぜか少しずつ軽くなっていたの。『私は…必ず、あなたを助ける。だから、ここから出たら、ずっと、私の側に…いて』そして、ゲガルトの身体に触れると、重力は一瞬にして消えた。そして、ゲガルトは『確かにお前は他の者とは違うようだ。…いいだろう、我の生涯をお前と共に歩むとしよう』ってそっぽを向きながら言ったんだ。『私はアリスティン、お前じゃなくてアリスティンだよ』」

「こうして、私はゲガルトと共に地上に戻りました。親は最初は驚きのあまり気絶してしまいましたが、次の日にはゲガルトを受け入れてくれました。けど、村の皆は分かってくれません。だから、私はゲガルトと共に村を飛び出しましました。砂漠、熱帯雨林、大きな街、色々な所を旅して廻りました。そして、五年前にディネア様と出会います。ディネア様はそれまでのことを話すと『私の国に来てくれないか?私の国は多種族が共存している。なに、心配いらない。最初は戸惑うかもしれないが、すぐに受け入れてくれるさ』と言って、私とゲガルトを受け入れてくれました。そしてディネア様に連れられ、このエスカルへとやって来ました。皆さんと出会い、皆さんから沢山のことを学ばせてもらい、ディネア様に命じられてディスペアラーズに入隊し、今に至ります。民も私のことを快く迎え入れてくれて、本当に救われました。」

「…あなたって、本当に人間だったのね」

「いえ、今は竜人と言った所です。ゲガルトの血も混じっています」

「にしても、やっぱりディネア様は凄いですね。私は昔、とある研究所で殺すことを強要する殺し屋にされました。ある時ディネア様を暗殺しようとして捕まったけど、殺そうとせず私を許してくれました。『君の槍では私を殺せない。君は本当はこんなことしたくないはずだ。誰だ、君にこんなことをさせたのは?』って言われてね、次の日にはその研究所が綺麗に燃やし尽くされましたね」

 彼女は一曲奏で終えると、懐かしそうに語っていた。

「こっちもこっちで凄いね…。私達みたいに憧れて入った人っていないのかな?」

「多分お前ら姉妹だけだと思う。あぁ、ディスペアラーズが出来たのは私が元の一番隊に所属していた頃、いつも浮いていたのをなんとかしようと思って作ったらしい。まぁ、ぜレスもそれに賛同していたけど」

『えっ?ダリス、それ本当なの!?』

 フィネアとリティスの驚きは見事にシンクロされた。

「元から一番隊は強者が集まる部隊だった。そこで私はゼレスと並んで戦果を上げていた。ゼレスは周りから親しまれてたが、私はそうはいかんくてな…。そしてディスペアラーズが生まれるとメンバー外の第一部隊は第二部隊へ…って流れで今の部隊状態に繋がる。ゼレスも元々候補に挙がっていたが、『私には不向きです』と辞退した。他にも理由はあるだろう…っていうかさっきの話で合点ついたし」

「そんなお方が今明日の準備で忙しそうにしてるって…なんか変な感じですね」

 クリプトは夜空を見上げながら口にした。

「ですね」

「皆さん、過去の話は一旦終わりにして、そろそろ手伝いに行きますよ?」

「アルセヴィアは相変わらずだね…」

「うん。私達以上にディネア様と繋がりを持ってるね」

 ゼラとアリスティンはその背中を不思議そうに見ていた。

「皆、団子一串余ってるけど欲しい人!」

『はいっ!』

 ダリアスが言うとその場にいた全員が手を上げ、同時に睨み合いが始まった。

「…ここは私に譲るべきでは?」

「あなたは先に手伝いに行っててくださいよ」

「いいえ、私が貰いますよ?」

「これはぁ…私のモノ、だよぉ?」


-その日の夜空はいつも以上に輝いて見えたような気がしていた…。

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