宝瓶宮の守護天使
-高台付近
「これで、こちらは片付いたようですね。私はフィネアと戦況共有してきます」
「了解、さっさと済ませて十二宮のやつ叩きに行こうぜ」
「ちょっと待って。…ゲガルト、まだいける?」
『・・・・・・・!!!(愚問だな、我はまだ切り裂き足りんぞ!)』
「わかった…。ごめん、それじゃ行こうか?」
ダリスは最初にこうしてゲガルトに話しかけている姿を見て『なにしてんの?』と聞いたことがある。その答えは『ゲガルトは変なところで無理するからこうして聞いているの』である。
「ええ、行きましょうか」
アルセヴィア達は再び翼を広げ、空を翔けようとした。
『ねぇ、どこ行こうとしてるの?』
声がする方に振り返ると、信じられないモノを見た。
-通常の天使のような鎧がなければ、雰囲気も桁違いに凄まじい。明らかに他と違う堕天使、瞬時に三人は十二宮の一人だと確信した。
「それはこっちの台詞かな、あなたはどこ行こうとしてるの?」
「ガブ?ガブはねぇ、そこの城をぶっ壊しに来たんだよ」
「その自分の呼び方…ってことは、あなたはガブリエルなの?」
「そうだよ。ヒンメリア十二宮、『宝瓶宮』の守護天使、ガブリエルだよ。ねぇ、そこ通してくれない?」
「…それを聞いて『はいどうぞ』って通すと思うのかしら?」
「そうこなくっちゃね!さぁ、ガブを楽しませてよ!」
その言葉と共に地面から巨大な岩槍が飛び出してきた。三人は間一髪で回避した。
「あれ?当たらなかったか。まぁ、そうじゃないと面白くないね」
「あ、危ないわ…。これは想像以上ね。アリスティン、城門に報告…」
「いいえ、その必要はないわ」
『…え?』
ガブリエルでさえも耳を疑った。今のは何かの聞き間違いだと思った。
「アルセヴィア、多分ダリアスの場合は避けられる。ガルディは多分クールタイム。それに会話をむざむざ待ってくれるわけがない」
「なら、私達三人で…」
「いや、銃弾と水は岩槍で止められる無理。だから、彼女と戦えるのは私だけ。だから…」
『バカ!』
「痛ッ…」
ダリスから放たれたビンタは頬を赤く染めた。
「なに言ってんだ!私の限界をお前が決めんな!お前の理論なんて知ったことか!」
『…俺達は、ディスペアラーズだ。これまでもなにかあったら皆で切り抜いてきただろ。だから、俺達を信じろ。なにがあっても、一人で突っ走んな』
「・・・・・うん。ごめん」
「泣くのはこれが終わってからしろ。後でみっちり反省してもらうからな」
溢れる涙をなんとか止め、再び顔を上げる。
「ねぇ?茶番劇はもういいかな?いいならやるよ?…それに、さっきガブを少し愚弄したね?」
『後悔させてあげる』
すると、身体が急激に重苦しくなり、滞空維持できなくなった。
「グッ…なにこれ?地面に引き寄せられる…」
「立ってるのもやっとだわ…」
「ハハッ!ガブを愚弄する者は皆跪くがいい!…ってあれ?なんでお前達は跪かない?」
二人は地にバッタリ着いているのに、アリスティンとゲガルトは何事もなかったように空に立っていた。
「私達には重力は効かない。こんなのあれに比べたら…ね、ゲガルト?」
『・・・・・・・・・・・!!!!(あぁ!こんなのやつのより何万倍も楽だ!)』
「そんな、バカな…。ガブのこの攻撃を受けて平然としているなんて…」
「ゲガルト、久しぶりにあれ、やるよ?」
『・・・・・・・・!!!!!!!(それを待っていた!)』
『白き罪竜よ、我が血肉に身を委ね、一つとなれ!』
アリスティンとゲガルトは閃光に包まれ、姿が見えなくなった。そして、光が薄れていくとその姿は見えた…。
「えっ?ナニアレ?ミタコトナイケド?」
「私も知らないですよ…」
アリスティンの肌は少しずつ白く染まり、左目は紫から赤へと変わった。そして、無数の黒輪が身体の周りに漂っている。
『…さぁ、貴方の罪を断とうか!』
「ガブ、カブの罪?そんなもの…あるわけがないだろ!?」
無数の岩が降ってきたが、それを全て黒輪で断ち切った。
『貴様の罪は皆を傷つけたこと!その罪…我が断ち切る!」
『黒輪よ、罪有りし者の、呪縛となれ』
すると、飛び交う中の四つの黒輪が標的へと向うと…、脚と腕に纏わりついた。
「なにこれ!?抜けろ!抜けろ!」
『黒輪よ、その呪縛を解き、断罪の糧となられ!』
黒輪は右足に集まり、それぞれに回転していく。それは小さな鎌鼬さえも起こす。そして、空高く舞う。
「や、やめろ!く、く…来るなアアアァァァアアア!!!!」
次々と岩槍が飛んできたが、止まることはなく、流星の如く対象へと真っ直ぐに加速し、突き進む。
『ハアァァァアアアアアア!!!!!!』
「グアアアアァァァァァァァ…」
そして爆発と共に派手に街の方へと吹っ飛んでいった。
『断罪、完了!』
「…なぁ、あいつってあんなにカッコよかったっけ?」
「さぁ?どちらかと言うと可愛いと思いますよ?」
「お前も変な趣味してんな…」
(なにもともあれ、あれだけ派手にやられたんだ。流石に戻っているだろう)
風変わりしたアリスティンを苦笑いしながら見ていた。
「こちらアルセヴィア、宝瓶宮の守護天使、ガブリエルを確認。アリスティンが派手にふっ飛ばしちゃったわ。多分ユニが確認したやつではないわ」
『そう…クリプトに伝えておくわ。それより、ダリアスが暴れ出そうとしてるけど、どうすればいい?』
「クリプトの方に行ってもらうわ。私達は一旦城に撤退するわ」
『了解、それじゃぁまた後で』
会話を終えてアリスティンを見ると、いつもの状態に戻っていた。ゲガルトもいない。
「ゲガルトは休んでもらってる。さっき張り切りすぎてパワーダウンしてる。正直私も疲れちゃってる」
「ダリス、アリスティン、城に戻るわよ。こんなボロボロじゃ戦う気にもならないわ」
「あぁ、私もフレイカーナも手入れしたいし」
「うん、戻ろう」
少し傷付いた翼を広げ、三人はゆっくりと空を行くのだった。