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天滅の魔王-破天編- 1  作者: A.A.
2/12

エスカル魔術部隊一番隊『ディスペアラーズ』

「んぅ…」


 街が黒く染まった天使達、いや、もう堕天使と呼ぶことにしている、に破壊された次の日の朝、ウトウトしながら部屋のカーテンを開けた。昨夜は難民の受け入れや城内会談があったのであまり眠れなかったから仕方ない。


「主様、もう起きていらしたのですか」

「あぁ、こんなときに長寝なんてしてられんしな」

「いつもこの位に起きてくだされば私も助かるのですがね」

「むぅ…」


 この家臣はアルセヴィア、ベージュの茶髪に橙色の目をしていて悪魔特有の角がある。そして、現在のようなメイド姿の彼女はまるで規則正しさの固まりかのようにことある毎に矯正されてしまうため、頭が上がらない。そして、私より魔術が遥かに優れていて、私の右手に相応しい魔術師だ。


「それよりアルセヴィア、緊急魔族会談の方はどうなっておる?」

「他の魔王方も同じことを考えていたようで、早ければ明日にでも開きたいと」


 この世界には魔王は一人と言うわけではなく、世界の各地にいる。普段は人類に干渉しないようにしていて、人類にはなにかの遺跡に見えるように幻惑の障壁によって遮断しているが、なぜかそれが破られてしまったのだ。故に、今はここエスカルを含め、全て丸腰同然である。


「なるほど、では明日に開こう。で、多分場所はここになるな」

「話が早くて助かります」

「当然だ、ここは近くにあの街以外に街がなく、なにより一番栄えているからな…。それでは遣いの者達によろしく伝えておいてくれ」

「はい、それより今は朝食ですよ」

「あぁ、確かに昨日は夕飯が食べれなかったからな…。難民たちにも顔を出さねばな、心が酷く抉られているだろう」

「そう、ですね…」


 いつも通りのようで不穏な会話をしながら着付けを終え、二人は部屋を後にするのだった。




 食堂に入るといつもとは違った光景が広がっていた。どうやら今日はシチューのようだ。いつもは私とアルセヴィア、家臣達の席なのだが、今日は難民達を招いている。シチューを涙を流しながら口にする人も見受けられる。


「おはようございますディネア様、アルセヴィア様」

「おはようございます」

「おはよう爺や、どうやら喜んでもらえたようだな」

「はい、皆喜んでおります。調理長も『人をもてなすのは初めてだが、最高の飯を用意しよう!』と、燃えていましたよ」


 そんな話をしていると一人の少女がこちらに来るのに気付いた。


「やっぱり、昨日救ってくれた魔王様だ」

「あぁ、あのときの…。そう言えば名前を聞いてなかったな」

「私はアリム…私ね、決めたの。もうこれ以上大切な者を失いたくないからね、魔剣士になるって。でも、お金もないから学校にも…」


 アリムと名乗った少女はアッシュの黒い髪に茶色い目をしていて背は私よりも顔一つ分くらい小さい。だが、彼女が愛する両親を亡くしたためか本来見えるはずの笑顔が見られなかった。


「アリム、君は魔術師ではなく魔剣士になりたいと、強く願うのだな」

「うん、もう誰も、失いたくない」

「よし、分かった。おぉぉいゼレス」

「なんでしょう?ディネア様」


 男ながら長い黒髪をしたキッチリとした青年ゼレス、彼は私直属の軍、エスカル魔術部隊二番隊隊長であり、影を操る魔剣士である。彼を超える魔剣士はそういない。というより、いてたまるか。彼はその戦い方から『幻影の剣士[ファントムフェヒター]』と呼ばれている。

 え?なんで二番隊かって?一番隊隊長はアルセヴィアだからに決まっている…。ちなみに彼女の二つ名は『狂気の戦乙女[ワシン・ヴァルキュリア]』だ。


「アリムに剣術と魔術を教えてやってくれ。なに、心配ない。今気付いたが、魔力量が人では考えられん位になっているからな」

「承知しました(確かに、この魔力量なら部下達を一掃されかねん位強くなるな)」


 まるで日常会話のようなやり取りを聞いているアリムはうるうるしながら口を開いた。


「いい…の?本当にいい、の?」

「当たり前だ。だが、とても厳しい道のりになるぞ。」

「・・・・!はい!絶対に優しくて強い信念を持った、最強の魔剣士になります!」

「その言葉、忘れるんじゃないぞ」


 そう言いながら頭に手を乗せる。サラサラした茶髪は触り心地がとてもよかった。アリムも気持ち良さそうに笑みを浮かべている。


「さてと…アルセヴィア、私達も食べようか」

「はい、主様」

「ありがとう!魔王様」

「なに、私は道を示しただけだよ。これからを期待しているよ、アリム」

「頑張ります!」


 昨日の泣きじゃくる様子とは真反対な満面な笑みのまま、ゼレスに話しかけにいく。そして、私達も感謝の声に包まれながら席に着いた。


「ちょっと難民を心配し過ぎたかな…。まぁ、喜んでくれているしいいか。さて、これ食べて今日も頑張るとするか」

「はい、忙しさが何倍も膨れ上がりますからね」

「言うな!」


 そう言いながらシチューを口にする。

 うむ、流石料理長だ。料理長が自ら栽培や飼育をしている農場から鮮度抜群の馬鈴薯はホクホクで、人参、ブロッコリーは程よい柔らかさになり、そしてこの滑らかな舌触りのホワイトソース、脂濃くなく朝の胃に優しい。実に美味である。


「うむ、やはり美味い!」

「そうですね。私でもこの域には辿り着けませんよ」

「アルセヴィアの料理も美味いが、やはり料理長には到底及ばない」

「こればかりは仕方ありません」


 実際、アルセヴィアも中々料理が美味い。だが料理長とは次元が違う。それは彼女自身が一番知っているが。


「ディネア様、伝言です!」

「なんだ?」

「天使達が…街を出てこちらに向かってきております!」


 まぁ、想定はしていた。昨日の会談でも話していたしな。だから別に焦ることもない。


「…アルセヴィア、食事を終えたら一番隊を率いて華を咲かせてやれ。ただし、殺すなよ。あくまで闇に堕ちているだけだ。気を失わせるだけでいい」

「承知しました」


 言葉を返す頃にはもう食べ終えていた。いつも私より速いが、今朝は更に速かった。こういうときの彼女は普段より一層怖さが増す。


「気を付けろ、十二宮のやつらもいるかもしれん」


 十二宮とは天界の各地にある首都みたいなものであり、その一つ一つを収める守護天使がそれぞれの宮にいる。通常の天使とは違い、普段はあまり姿を表さない。会ったことはないが、とても強いらしい。


「はい、それでは行って参ります」


 怖い笑みを浮かべたまま瞬時に魔術で換装し、彼女は城を後にした。




 アルセヴィアが城門に行くと、一番隊の兵士達が和気あいあいとしていた。まぁ、いつでも出れるように城門前で待機していてくれと言ったのは私ですが。


「皆さん、話は聞いていると思うけど堕天使が向かってきているわ。殺さないようにね」

『了解!』

「それでは、我ら一番隊が一つ、華を咲かせましょう」

『戦場に舞う、華を!!!』


 一番隊、それはたった10人しかいない部隊。普通に考えれば他の隊より圧倒的に弱く見える。だが、なぜ10人しかいないか。それは単純明快である。



―たった10人で戦況を覆すだけの力があるからである



「敵の数はどの位?フィネア」

「魔力感知できる中であれば一万はいます」


 ピンクのポニーテールに黄色い目をした少女、フィネアは魔力感知のスペシャリスト、彼女が気付かなかった魔力はこれまでない。また、高度な治癒魔術の使い手でもある。


「それじゃあ、フィネア、リティス、ガルディ、ダリアスは城門で待機。私とアスティン、ダリスは右の高台から。ゼラ、クリプト、ユニ、は左の林からやるわよ」

『了解』

「では、散!」


 私達は翼を広げ、それぞらの待機位置に散開した。


―一時間後、堕天使たちを見張り台から確認したのだった。


『こちらリティス、堕天使を確認。リティスとガルディが先行します』

「了解、それじゃ、私達も動くわ」


 フィネアと同じピンク色のロングヘアに赤い目をした少女、リティスの魔術はテレパシーだ。範囲内にいる誰とでも交信できる。交信できる数には限りがあるが、範囲はとても広い。城からあの街まで位なら普通に交信できるらしい。

 私達の目の前には堕天使の群の後尾が見える。ここまでは作戦通りである。さて、このまま何もなく終わるといいけど。


「それでは、参りましょうか」

『白き罪竜よ、今一度黒輪と共に、世の全てを裂け』


 黒髪ロングの黄色い目をした少女、アリスティンは少し特殊でこの無数の黒輪を身に纏い、姿を表した白き罪竜[ゲガルト]の力を借りて戦う。正直、主様でなければ止められないと思う。


「それじゃ、お先ィイ!」


 藍色のショートヘアの背が少し高めの女性、ダリスは魔術師ならぬ魔銃士だ。彼女の魔力は主様に匹敵するほどの魔力量で、彼女の愛銃“フレイカーナ”は通常の銃とは違い、魔力を弾丸として放つものだ。

 彼女いわく『魔力の込め方によって弾丸の特性を変えるんだ』だそうだ。だが、私には全く分からない。


「ソヴラアアアァァァァアア!!!」


 彼女は華麗なバク宙をしながら銃弾の雨を戦場にバラ撒く。綺麗なのか残酷なのかよくわかりませんが、全弾急所を狙って外しているのが怖い。


「今日のダリスさん、なんか楽しそうですね」

「ええ、あまり出番なかったから嬉しかったのよ。でも、一番嬉しいのは私ですがね」

「いいえ、私ですよ」

「あちらでは相変わらず竜巻と雷撃の嵐が発生していますね」

「ゼラとクリプトね。少しやり過ぎな気がしなくもないわ」


―そう、これこそが私達。個性豊かな常識離れした猛者達の部隊。それこそがこのエスカル魔術部隊一番隊、別名『ディスペアラーズ』である。

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