ヒロインに生まれてきたけれど、悪役令嬢に立場奪われています?ヤンデレ殿下のせいで…
これは一体どうなっているの?
乙女ゲームのヒロインに生まれてきたはずなのに、あたしがいるはずの場所には悪役令嬢のはずの彼女がいる。
貴族の子息たちに囲まれて、ご満悦の彼女を後ろから見つめる。
考えられるのは、悪役令嬢であるはずのシンディ様も転生者だという可能性。
ちょっとは、ちょっとは期待していたのよ。逆ハーはないにしても選び放題のイケメン子息たちに口説かれちゃうかも?…なんて。
前世よりは完全にスペックの高い顔に身体に生まれてきたからには、期待しちゃうじゃない?
しかも本当はヒロインだし?
ゲームの世界と違うとため息ばかりついていても仕方ない。前世がしがないOLで、引っ込み思案でヲタクだったのだから、この世界でテンプレのイジメを受けていないだけマシというもの。
現実何てこんなものよ。
平民でちょっと癒しの魔法が使えて、鑑定が出来て、魔道具が出来るだけなんて、身分には到底勝てない。
このまま物語があたしがいなかったものとして進むのなら、卒業と同時にこの国を出るだけ。
…そうよ!なんでそんなことさえ気づかなかったのかしら?
平民なんだから貴族たちに縛られることなんてない。この国の規則だから魔力を持っているものは学園に通わなければならなかっただけで、誰かのモノになったわけじゃない。
ちょっと癒しが出来るだけの認識の平民のままなら、逃げられる。
そうと決まれば早速こんどの休みに家に戻って、家族みんなで引っ越す準備をしてもらわないと!
悪役令嬢が放逐されるはずの森の奥には、ドワーフの国があったはず。
生き残るために行く道はわかるから間違いなく行ける!魔道具が作れるなら、彼らが気に入る酒が作れるから間違いなく受け入れられるはずだし。
なんだか元気が出てきた!ヒロイン役なんてやめて、ただのリリーで異世界チートだ!
一人で納得して小さくガッツポーズをしていたから、気づかなかった。
悪役令嬢のシンディの取り巻きに、対応を間違えるとヤンデレになる一番質の悪い男、殿下が居なかったことを。
意気揚々として貴族主義のこの国から出ていく準備をするリリーは、果たして無事に逃げ切ることができるのか。
この僕から、逃げられると思っているところが可愛いと思わない?
シンディさえ彼らで抑え込んでいれば、僕の邪魔をする者はいないのだから、リリー君は必然的に僕のものだ。