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仔猫殿下と、はつ江ばあさん  作者: 鯨井イルカ
第一章 シマシマな日常
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ビシッ

 道中イザコザに遭遇しながらも、シーマ十四世殿下一行は無事に『アメ屋さん』に辿り着き、望みののど飴を手に入れた。

 しかし、突如として現れた黒ウサギ、ウェネトのおかげで、再びイザコザが発生してしまっていた。


「ウェネト、こっちに来てるなら連絡をしなさいよ!出発前に脱退を宣言した挙げ句に音信不通になったから、もの凄く心配してたのよ!」


 バステトが尻尾をパシパシと振りながら叱りつけると、ウェネトは頬を膨らませてふいっと顔を反らした。 


「ふーんだ!別に、脱退したんだから、どこに行って何をしようが私の勝手でしょ!?」


 ウェネトが言い返すと、バステトは耳を反らしながら尻尾をさらにパシパシと振った。


「ちょっと、心配をかけたうえにその言い草はなんなのよ!?」


 バステトが軽く牙を剥いて怒りをあらわにすると、ウェネトは怯えた表情でビクッと肩を震わせた。その様子を見たマロは、耳をペタンと伏せながら二人の間に割って入った。


「れ、レディ!ウェネトさんが怯えちゃってるんで、ちょっと落ち着いてください!」


 マロは怯えながらも、バステトとウェネトを仲裁しようとした。すると、二人は同時にマロに顔を向け、眉間にしわを寄せた。


「マロは黙ってなさい!」

「そ、そうよ!マロは黙っててよ!それに、別に怯えてなんかいないんだから!」


 二人に声を合わせて怒鳴られたマロは、尻尾をダラリと垂らして肩を落とした。


「そ、そんな……」


 マロは涙目になりながら、シュンとした表情で呟いた。すると、はつ江がマロに近づき、首の辺りをポフポフとなでた。それから、はつ江はバステトとウェネトに顔を向けた。


「これこれ。バスケットちゃんもゑねとちゃんも、ケンカするのは仕方ないけど、マロちゃんに八つ当たりしちゃだめだぁよ」


 はつ江は諭すように、二人に声をかけた。その様子を見たシーマは、ヒゲと尻尾をダラリと垂らして脱力した。


「はつ江、なんで妙に『うぇ』の発音がいいんだよ……ともかく、お店にも迷惑がかかっちゃうから、マロさんが言ったとおり、二人とも落ち着いてくれ」


 はつ江に続いて、シーマもバステトとウェネトを諭すように声をかけた。二人に諭され、バステトとウェネトはハッとした表情を浮かべた。そして、バツが悪そうに頬を掻きながら、マロに向かって軽く頭を下げた。


「悪かったわね、マロ。アンタの言うとおりだったわね。アメ屋さん、ご迷惑をおかけいたしました」


「ごめんね、マロ。アメ屋さんも、ごめんなさい」


 二人が気まずそうに謝ると、マロは肩を落としながら、いえ、と力なく呟き、店主はニッコリと笑いながら、いえいえ、と返事をした。イザコザが収束したのを見て、はつ江はニッコリと笑った。


「落ち着いてくれたならよかっただぁよ!」


「それで、そっちのウェネトさんが、脱退したっていうメンバーなのか?」


 はつ江の言葉に続いて、シーマが尻尾の先をクニャリと曲げながら首を傾げた。


「そうですわ、殿下。この子が竪琴の演奏担当ですの」


 バステトが説明すると、ウェネトがアメ屋さんに代金を渡しながら、ふん、と鼻を鳴らした。


「『元』だけどね!」


 ウェネトはそう言うと、バステトをビシッと指さした。


「この間言ったとおり、魔界の全員がアンタのことを歌姫と認めても、私は絶対にアンタのことを認めないんだからね!」


 ウェネトがそう宣言すると、バステトはヒゲの先を下に向けて片耳をパタパタと動かした。


「そう」


 バステトが呟くように返事をすると、ウェネトは腕を組みながら再び、ふん、と鼻を鳴らした。


「いい!逆に言ったら私がアンタのことを認めなくても、魔界の全員がアンタのことを認めてるんだからね!下らないポスターのことなんて、そのアメを食べて忘れちゃえばいいのよ!」


 ウェネトの言葉に、バステトはヒゲの先をあげて目を見開いた。そして、戸惑った表情で首を傾げた。二人の様子を見て、はつ江はニッコリと笑みを浮かべた。


「ほうほう。ゑねとちゃんは、バスケットちゃんとマロちゃんを励ましに来てくれたんだね」


 はつ江が優しく声をかけると、ウェネトはハッとした表情を浮かべた。そして、ワタワタと手を動かしたあと、ダンッと足を踏みならした。


「ち、ち、違うわよ!あのポスターはちょっとどうかと思ったから、気分転換にアメをプレゼントしようと思った、なんてことは全然ないんだから!」


 それから、再びバステトをビシッと指さした。


「私は、誰がなんと言おうと魔界の全員は認めてるけど、私だけはアンタのことをレディ・バステトと認めない、って言いに来ただけなんだからね!」


 ウェネトがツンデレ気味な発言をすると、シーマがヒゲと尻尾をダラリと垂らした。


「なんか……励ましにきました、と言ってるようにしかみえないな……」


 シーマが脱力していると、マロが苦笑を浮かべながら頬を掻いた。


「あはは、ウェネトさんもちょっと意地っ張りなところがありますから」


 マロがそう言うと、バステトとウェネトが同時に眉間にしわを寄せた。


「ちょっとマロ?()っていうのはどういうことかしら?」


「そうよ!私はバステトほど意地っ張りじゃないわよ!」


 バステトとウェネトはそう言うと、顔を見合わせた。


「なんですって!?しかも、今さらっと私のことバステトって言ったじゃない!」


「なによ!?そ、それに、今のはちょっと口が滑っちゃっただけですぅー!」


 そして、タジタジとするマロをそよに、二人でにらみ合った。はつ江は苦笑を浮かべながら、バステトとウェネトの背中をポンポンとなでた。


「ほらほら、バスケットちゃんもゑねとちゃんも、ここでケンカしてると、アメ屋さんが困っちゃうだぁよ」


 はつ江が宥めると、二人はハッとした表情を浮かべた。それから、ウェネトはアメ屋さんに向かって、ペコリと泡間を下げた。


「騒いじゃってごめんなさい!じゃあ、私はもう行くから!」

 

 そして、その言葉と共に、店の出入り口まで駆け出していった。出入り口のドアに手をかけたヴェネトは足を止めると、バステトに向かって三度ビシッと指さしをした。


「今日の夕方までには、私の方がバステトに相応しいって思い知らせてやるんだから!せいぜい気をつけなさいよ!」


 ウェネトは脅し文句なのか心配の言葉なのかよく分からない台詞を吐くと、駆け足で店を出て行ってしまった。

 一同はしばらく呆然としていたが、不意にバステトがヒゲと尻尾をダラリと垂らして、深いため息をついた。


「結局、何がしたかったのよ、あの子……」


 バステトが脱力しながらそう言うと、マロが苦笑を浮かべながら頬を掻いた。


「ま、まあ、森山さんが言ったとおり、励ましにも来てくれたんだと思いますよ」


 マロの言葉を受けて、はつ江はニコニコと笑いながらコクコクと頷いた。


「ゑねとちゃんは、照れ屋さんだけど良い子なんだねぇ」


 はつ江がシミジミとそう言うと、隣でシーマが怪訝な表情で尻尾の先をピコピコと動かした。


「うーん……でも、夕方までに自分の方がバステトに相応しいと思い知らせる、っていう発言が気になるな」


 シーマはそう呟くと、尻尾の先をクニャリと曲げながらバステトの顔を覗き込んだ。


「バステトさん、さっきの発言になにか心当たりはないか?」


 シーマの問いかけに、バステトはギクリとした表情を浮かべた。そして、バステトは助けを求めるように、マロに視線を送った。しかし、マロは淋しげに目を伏せると、無言で首を横に振った。マロの反応を受け、バステトは目を伏せると、深いため息を吐いた。


「そうですわね。このままだと、殿下にもご迷惑をおかけしてしまいそうですし……事情をお話しいたしますわ」


 バステトがどこか諦めたようにそう言うと、店主がニコリと微笑みながら首を傾げた。


「それでしたら、二階にあるカフェスペースにご案内いたします」


 店主が提案すると、シーマは耳と尻尾をピンと立てて、目を輝かせた。


「店主!本当に大丈夫なのか!?カフェスペースは人気があるから、いつも予約でいっぱいだって聞いているぞ!?」


 シーマがキラキラとした目で問いかけると、店主は微笑んだままコクリと頷いた。


「ええ。本当はこの時間も予約が入っていたのですが、殿下達がいらっしゃる少し前に、キャンセルするという連絡を急にいただいたのです」


 店主が答えると、シーマはペコリと頭を下げた。

 

「ありがとう、店主!」


 シーマは店主にお礼を言うと、キラキラした目を一同に向けた。


「みんな!アメ屋さんのカフェスペースは、すごく居心地が良くて、美味しいお茶が飲めて、好きなアメを試食できるんだぞ!」


 シーマが楽しそうにそう言うと、はつ江、バステト、マロはニッコリと微笑んだ。


「そうなのですか。それは、とても楽しみですわね」


「ええ、本当に楽しみです」


 バステトとマロが穏やかにそう言うと、はつ江もコクコクと頷いた。


「アメの試食もできるなんて、楽しみだぁよ……あ!」


 シミジミとした表情でそう言うはつ江だったが、不意に何かを思い出した表情を浮かべて、大きな声を出した。途端に、ネコ科一同が尻尾の毛を逆立ててピョコンと跳びはねた。


「き、急に大きな声を出すなよ、はつ江!ビックリするじゃないか!」


 シーマが毛羽立った尻尾をパシパシと振りながら抗議すると、はつ江はバツが悪そうに頭を掻いた。


「悪かっただぁよ、シマちゃん」


 はつ江がペコリと頭を下げると、シーマは顔を洗う仕草をしながら、まったくもう、と呟いた。はつ江はシーマに再びペコリと頭を下げると、真剣な表情を店主に向けた。


「ところで、アメ屋さんや?」


 真剣な表情で問いかけられた店主は、戸惑った表情を浮かべて息を飲んだ。店主だけでなく、シーマ、バステト、マロも不安げな表情ではつ江を見つめた。


「は、はい、なんでしょうか?」


 店主が戸惑いながらも問い返すと、はつ江はすぅっと息を吸い込んだ。

 そして……




「このお店には、たんきりアメは置いてあるかね!?」




 ……渾身の力を込めて、たんきりアメの有無を問いかけた。

 あまりの勢いに店主はしばし呆然としたが、すぐにニコリと微笑んでコクリと頷いた。


「はい、ございますよ」


 店主は答えると、はつ江の全身を見回した。そして、再びニコリと笑顔を浮かべた。


「そちらの世界のアメですと、他にはべっこう飴や、ねりあめなんかもございます」


 店主が続けて答えると、はつ江は目を輝かせた。


「あれまぁよ!本当かね!?」


 目を輝かせるはつ江に対して、店主はニコリと微笑んだままコクリと頷いた。

 そんな二人の様子を見て、シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らして脱力した。


「そうだったな。たんきりアメってのがあるか、店主に聞いてみようって話もしていたよな……でも、聞くタイミングがもうちょっとさぁ……」


 シーマが脱力しながらそう呟くと、バステトとマロが苦笑を浮かべた。


「まあまあ、殿下。元はと言えば、私とウェネトがイザコザして話が逸れてしまったのですから、森山さんのことは責めないでくださいませ」


 バステトがはつ江をフォローすると、マロも苦笑を浮かべたままコクリと頷いた。


「そうですね。ちょっと緊迫した空気になってしまっていたので、この位で丁度良いんですよ」


 バステトに続いて、マロもフォローの言葉を入れた。すると、シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らしたまま、そうか、と力なく呟いた。

 かくして、シーマ十四世殿下一行はたんきりアメの在庫の状況を確認しながらも、アメ屋さんのカフェスペースへ向かうこととなったのだった。

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