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仔猫殿下と、はつ江ばあさん  作者: 鯨井イルカ
第一章 シマシマな日常
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ガタン

 オリハルコンの板金を手に入れたシーマ十四世殿下一行は、早速『月刊ヌー特別号』の修理に取りかかっていた。


「よし、じゃあ。『月刊ヌー特別号』をその魔導機で読めるようにするぞ」


 オーレルはそう言うと、テーブルに置かれた「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」に手をかざした。そして、ブツブツと呪文を唱えた。すると、「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」の画面上に、「ヌー」という白い線で縁取られた赤い文字のアイコンが現れた。


「ほうほう、これで『ニコニコよい子ぼーど』で、『ぬぅ』が読めるようになるんだね」


 はつ江が感心したように声を漏らすと、シーマが尻尾をダラリと垂らしながら脱力した。


「だから、はつ江、『よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)』だってば……」


「分かっただぁよ、シマちゃん!」


 シーマが訂正すると、はつ江がカラカラと笑いながら元気よく返事をした。シーマは、疑わしそうにはつ江へ視線を送ったが、気を取り直すように、コホン、と咳払いをした。そして、フカフカの手で「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を操作し、画面いっぱいに『月刊ヌー特別号』を表示させた。


「それでは、オーレルさん。切り取られていたページを開いてもらえますか?画面に手を置いて、左から右になぞるように動かせば、ページをめくることができるので」


 シーマが説明しながら「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を手渡すと、オーレルはコクリと頷いた。


「ああ、分かったぜ」


 オーレルは「よい子のニコニコおお手伝いボード(仮称)」を受け取り、スイスイと画面を操作してページをめくり始めた。


「えーと、なくなっちまったページっと……お、あった、あった!」


 オーレルはそう言うと、画面を操作する手を止めて、嬉しそうに微笑んだ。すると、シーマもひょこりと「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を覗き込んだ。


「このページですね。えーと、内容は……ん?」


 シーマは記事の見出しに目を通すと、眉間にシワをよせて尻尾の先をクニャリと曲げた。その様子を見たはつ江は、心配そうな表情を浮かべて首を傾げた。


「シマちゃんや、どうしたのかね?」


「殿下、お腹痛くなっちゃった?」


「みみー?」


 はつ江に続いて、モロコシとミミも心配そうに声をかけた。すると、シーマは片耳をパタパタと動かしながら、苦笑いを浮かべた。


「ああ、大丈夫、何でもないよ。今からこのページの内容を転写するから、ちょっと待っててくれ」


 シーマはそう言うと、「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」に両手をかざし、ムニャムニャと呪文を唱え始めた。すると、「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」は金色の光に包まれた。そして、光はフワフワと浮かんでいたオリハルコンの板金に伸びていき、オリハルコンの板金には見る見るうちに『月刊ヌー特別号』の内容が写されていった。

 切り取られてしまったページの内容が全て転写されると、はつ江は、ほうほう、と声を漏らしながらパチパチと拍手をした。


「シマちゃんの魔法は、凄いだぁね」


「うん!凄いよ、殿下!」


「やるじゃん♪殿下!」


「みー!」


 はつ江に続いて、モロコシ、バービー、ミミも、パチパチと拍手をした。すると、シーマは得意げな表情を浮かべて鼻を鳴らしながら、シマシマの尻尾をピンと立てた。


「ふふん!ボクにかかればこんなもんだね!」


 得意げにするシーマを眺めながら、オーレルも感心したように、ほう、と声を漏らした。


「挿絵の色合いも、文字のインクの濃さもバッチリ写すなんて、すげぇな」


「ええ。さすが、魔王城のキューティーマジカル仔猫ちゃんの異名をもつ殿下ですね」


 オーレルの言葉に、ビフロン……もとい、ロカスト・オ・ランタンもクルリと縦に一回転しながら、同意した。すると、シーマは耳を軽く伏せて、尻尾をブンブンと左右に振った。


「その異名で呼ぶのは、やめてください……」


「申し訳ございません、殿下……」


 ロカスト・オ・ランタンがうつむきながら謝ると、シーマは、いえ、と呟いた。そして、コホンと咳払いをすると、空中に浮かぶオリハルコンの板金を手に取った。


「じゃあ、バービーさん。本の修理をお願いできるか?」


 シーマがオリハルコンの板金を差し出しながら首を傾げると、バービーはニコリと笑ってからウインクをした。


「任せなさい!私にかかれば、あっという間なんだから!」


 バービーは自信に満ちた表情でそう言うと、オリハルコンの板金を受け取った。

 それから、バービーはウエストポーチから、ゴーグル、ペンのような器具、細い針金をとりだした。


「じゃあ、これから修理を始めるけど、ちょっと危ないから皆は離れててね。ミズタマも、ちょっと頭から降りてて」


 バービーがゴーグルをつけながら声をかけると、一同はコクリと頷き、ミズタマシロガネクイバッタはバービーの頭から、モロコシの頭へ飛び移った。

 一同が自分から離れたことを確認すると、バービーはペンのような器具で細い針金を溶かし、なくなってしまったページの切り口に、慎重に塗りつけていった。それから、シーマが記事を転写したオリハルコンの板金を手に取ると、少しのズレもないように注意しながら、ページの切り口に合わせた。

 

 一同が固唾をのんで見守る中、バービーは鋭い爪を器用に動かしながら作業を続けた。そして……


「よーし!これで、完了!」


 バービーはそう言うと、目を閉じながら伸びをした。そして、オーレルに向かって修理の終わった『月刊ヌー特別号』を差し出し、バチンとウインクをした。


「ほら、おっちゃん、これでいいでしょ?」


 オーレルはバービーに近づいて『月刊ヌー特別号』を受け取ると、問題のページをペラペラとめくった。そして、顔を上げると、目を細めてニコリと笑った。


「ああ、継ぎ目が全く分からねぇくらいだ。バビ子、ありがとうな」


「ふっふっふ、いーの、いーの!私とおっちゃんの仲じゃん♪」

 

 バービーが楽しげにそう言うと、オーレルは再び、ありがとう、と呟き、シーマに向かって振り向いた。


「殿下も、ばあさんも、ミミ子も、モロコシも、ありがとうな。おかげで、掃除もできたし、パトリックの野郎が犯人じゃないってことも分かったし、本も見つかって無事に直った」


 オーレルがそう言って微笑むと、四人もニッコリと微笑んだ。


「いえいえ、お役に立てて何よりですよ、オーレルさん」


「構わねぇだぁよ!おおれるさんが満足したなら、何よりさね!」


「どういたしましてー!よかったね、オーレルさん!」


「みみー!」


 四人の返事を受けて、オーレルはコクリと頷いた。


「それから、バッタもありがとな」


 オーレルが声をかけると、モロコシの頭の上でミズタマシロガネクイバッタがパサリと翅を動かした。


「気にすんな、おっさん!本が直ってよかったな!……だって!」


 モロコシが通訳すると、オーレルはニコリと微笑んで、そうだな、と呟いた。そうしていると、ロカスト・オ・ランタンが、フワフワとオーレルの顔の辺りまで浮かび上がった。


「では、オーレルさん。これで、こちらの世界での心残りは全てなくなった、ということでよろしいでしょうか?」


 ロカスト・オ・ランタンが尋ねると、オーレルはコクリと頷いた。


「ああ。ただ、あのフードを被った奴が、なんでページを持って行っちまったのかは気になるが……まあ、人気の雑誌だから、気持ちはちょっと分かるし、これ以上どうこう言うつもりはねぇよ」


 オーレルの言葉を受けて、ロカスト・オ・ランタンは縦にクルリと一回転した。


「かしこまりました。それでは、ただ今から貴方を空へ案内いたします」


「ああ、よろしく頼むぜビフ……ロカスト・オ・ランタンさんよ」


 オーレルが返事をすると、ロカスト・オ・ランタンは再び縦にクルリと一回転した。それと同時に、部屋の窓がガタンと音を立てて、勢いよく開いた。


「では、オーレルさん。参りましょうか」


 ロカスト・オ・ランタンはそう言うと、窓に向かってフワフワと移動しだした。オーレルもコクリと頷き、『月刊ヌー特別号』を抱えて、その後に続いた。しかし、窓辺に辿り着くと、オーレルは不意に足を止め、クルリと振り返った。


「ああ。あ、そうだ、バビ子。修理師の採用試験、頑張れよ。まあ、お前の腕なら、間違いなく受かるだろうけどな!」


 オーレルに声をかけられたバービーは、口の端を上げてニヤリと笑った。


「ふっふっふ、当たり前じゃん!見事突破して、おっちゃんが次に生まれる世界にも、名をとどろかせてやるんだから!」


「がははは!そいつは、楽しみだ!それじゃ、俺はもう行くとするぜ!じゃあな、お前ら!」


 オーレルはそう言うと窓から飛び出し、ロカスト・オ・ランタンに案内されながら空へと登っていった。

 のこされた五人は手を振りながら、その姿を見送った。

 やがて、二人の姿が見えなくなると、五人はそっとその手を下ろした。


「オーレルさん、行っちゃったね」


「みー……」


 モロコシとミミは窓の外を眺めながら、淋しそうに呟いた。すると、バービーが苦笑を浮かべながら、二人の背中をポンポンとなでた。


「こらこら、二人ともそんな顔しないの。たしかにちょっと淋しいけど……笑顔で送り出してあげたほうが、次に生まれたときに幸せになれるって、昔からいわれてるでしょ?」


 バービーがそう言うと、はつ江がシミジミとした表情でコクコクと頷いた。


「心残りが何もなくなったんなら、笑って見送ってあげないとねぇ」


 はつ江はそう言うと、シーマに顔を向けた。すると、シーマは眉間にシワをよせながら口元に手を当て、尻尾の先をクニャリと曲げていた。

 シーマの様子を見たはつ江は、心配そうに首を傾げた。

 

「シマちゃんや、どうしたんだい?」


 はつ江に声をかけられたシーマは、口元から手を放しハッとした表情を浮かべた。それから、フカフカの頬をかいて、片耳をパタパタと動かした。


「ああ……オーレルさんが無事に空に上れたのはよかったんだけど、ちょっと気になることがあって……」


 シーマが答えると、今度はモロコシが首を傾げながら、尻尾の先をクニャリと曲げた。


「気になること?」


「そういえば、なくなったページを見てたときも首を傾げてたけど、何かあったの?」


「みみー?」


 モロコシに続いて、バービーとミミもシーマに問いかけた。すると、シーマは、ああ、と呟いて、コクリと頷いた。


「あの切り取られてたページ、『超・魔導機☆』についての記事が載ってたんだよ……」


 シーマが答えると、「超・魔導機☆」の盗掘について事情を知っているはつ江とモロコシは、目を見開いて驚いた。


「あれまぁよ!」


「えぇー!そうなのー!?」


 一方、事情を知らないバービーとミミは、キョトンとした表情で首を傾げた。


「まあ、超古代文明とかその辺の話題が好きな雑誌だから、そりゃ載ってることもあるんじゃない?」


「みー?」


 バービーとミミの問いかけに、シーマは、そうだよな、と小さな声で呟いた。

 かくして、割と重大な事実かも知れない事柄が発覚しながらも、仔猫殿下とはつ江ばあさんのお化け退治大作戦は幕を閉じたのだった。

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