特別編:ドキドキ☆魔界・直翅目大図鑑!
先端が渦を巻いた三日月の浮かぶ夜空。
カサカサと葉擦れの音が響く漆黒の森。
淋しげな夜の鳥達の鳴き声。
ここは魔界。
魔のモノ達が住まう禁断の地。
そんな魔界の町外れにある一軒家。
橙色の灯りがともる居間の中で、薄茶トラの仔猫がソファーに腰掛け鼻歌交じりに本を読んでいた。
丸みをおびた飾り毛つきの小さな耳。
ボタンのように丸い緑色の目。
ピンク色の小さな鼻。
シマシマの長い尻尾。
語り尽くすことの難しい可愛らしさ満載な仔猫の名はモロコシ。
魔王城のキューティーマジカル仔猫ちゃんことシーマ十四世殿下の友達にして、バッタの申し子な仔猫だ。
今日は、そんなモロコシが愛読している「ドキドキ☆魔界・直翅目大図鑑!」をもとに、魔界のバッタ達について紹介しよう。
学名:ウスベニクジャクバッタ(直翅目バッタ亜目バッタ科クジャクバッタ亜科)
分布:不明
全長:45 mm
体色:薄紅色※
食性:不明
生息地、食性が不明となっている謎の多いバッタ。
今まで捕獲された個体は、全て体長が45 mm
寿命は数千年の可能性がある、という論文も発表されている。
伝承では数年に一度、湿度の低い晴れた夜に姿を現すと伝えられている。
また、手に入れた者は富や名声に恵まれるという伝承も残っている。
※後翅は虹色の光沢をおびている。
学名:ギンバネスストリマメバッタ(直翅目バッタ亜目バッタ科コウボクバッタ亜科)
分布:山火事起きた森林、市街地※
全長:20 mm-25 mm
体色:灰色、前翅の部分は銀色
食性:植物食、植物が燃えた際に発生する煤
煤を主食としているバッタ。
煙突や山火事の跡を求め、集団で飛翔する。
現在確認されている個体は全て群生相で、孤独相は未だ発見されていない。
煙突の掃除に利用される他、翅の美しさから観賞用に飼育されることもある。
※煙突のある建物が少なくなった現在、市街地の生息数は激減している。
学名:クサハラマダライナゴモドキ(直翅目バッタ亜目バッタ科クサハラバッタ亜科)
分布:魔界全土の草原
全長:30 mm-60 mm
体色:深緑色、前翅と後脚には黒いまだら模様※
食性:植物食、イネ科を中心とした植物の葉
長年、バッタ亜科に属するのかイナゴ亜科に属するのか争論となっていた種。
イナゴによく似た形態およびイネ科を好む食性から、イナゴ亜科に属するとされていた。
しかし、前胸腹突起が存在しないことからバッタ亜科に属するという学説が優勢となった。
そのため、現在ではバッタ亜科に属するとされている。
ただし、今後研究技術が発達して前胸腹突起が確認された場合は、イナゴ亜科に戻る可能性も充分にある。
※群生相の場合は、まだら模様がカラシ色。
学名:コケトリマルバッタ(直翅目バッタ亜目バッタ科マルバッタ亜科)
分布:魔界中央部の針葉樹林の根元、井戸等のコケ生える場所
全長:30 mm-40 mm
体色:深緑色、後脚には黒い星柄の模様
食性:植物食、苔類
その名の通り丸みをおびた形態と、星柄の模様が特徴的なバッタ。
苔類を主食とし、針葉樹林の根元がおもな生息場所とされていた。
しかし、近年魔界直翅目学会の調査により、針葉樹林の根元に生息する個体数よりも、井戸に生息する個体数の方が多いことが判明した。
積極的に飛び跳ねず、苔類にしがみついていることが多いことから、大人しい性質とされている。
学名:コウボクコトビシマバッタ(直翅目バッタ亜目バッタ科コウボクバッタ亜科)
分布:魔界全土の針葉樹林
全長:25 mm-30 mm
体色:焦げ茶、前翅と後脚には白い縞模様
食性:植物食、針葉樹の樹皮
森林に生息するバッタ。
バッタ科には珍しく行動範囲が垂直的に幅広い。
針葉樹の樹皮を好んで食べるため、林業関係者からはしばしば害虫扱いされている。
学名:スナモグリチャバッタ(直翅目バッタ亜目バッタ科スナモグリバッタ亜科)
分布:砂漠地帯
全長:20 mm-40 mm
体色:薄茶色
食性:動物食、アリ、ムカデ、サソリ
砂漠地帯に生息するバッタ。
地中に巣を作り生息しているため、翅と後脚が退化している。
そのかわりに前肢は発達し、砂を掘るのに適した形になっている。
バッタ科の中では珍しい動物食で、アリ、ムカデ、サソリなどを捕食する。
その食性から、貴族の庭園で害虫駆除用に飼育されることも多い。
学名:ムラサキダンダラオオイナゴ(直翅目バッタ亜目バッタ科オオイナゴ亜科)
分布:魔界南部
全長:2500 mm-3000 mm、体高は850 mm-1000 mm
体色:紫色、前肢と後脚には黒いダンダラ模様
食性:植物食、ムラサキドクイネを中心としたイネ科
魔界南部のムラサキドクイネが群生する鉱山地帯に生息するオオイナゴ。
猛毒植物であるムラサキドクイネを主食としているため、体内には毒素が蓄積されている。
現存する直翅目の中では最大で、全長5000 mmの個体の目撃例もある。
植物食ではあるが非常に凶暴で、縄張りに入り込んだものには容赦なく飛びかかる、毒液を吹きかける等の攻撃を仕掛けてくる。
飼育は非常に難しく、成功例は魔界史上でも数件しか存在しない。
縄張り意識が強いため専ら単独で行動し、群生相は存在しないとされている……
そんな内容を、モロコシは目を輝かせながら読みふけっていた。
すると、そんなモロコシの肩を白いフカフカの手が、ポフポフと優しく叩いた。モロコシが顔を上げると、母親の白猫ユキが優しく微笑んでいた。
「モロコシ。明日も学校なんだから、もう眠りましょうね」
ユキがそう言うと、モロコシはニッコリと笑った。
「はーい!じゃあ、今日はここまでにするね」
モロコシはそう言うと、「ドキドキ☆魔界・直翅目大図鑑!」の表紙を閉じた。そして、ソファーからピョインと飛び降りると、トコトコと歩いて居間に備えられた本棚に「ドキドキ☆魔界・直翅目大図鑑!」を戻した。それから、再びトコトコと歩いてユキに近づくと、ギュッとしがみついた。
「お母さん、おやすみなさい!」
モロコシがそう言うと、ユキは目を細めて微笑んだ。そして、フカフカの頭をポフポフとなでた。
「おやすみなさい、モロコシ」
ユキの言葉にモロコシは、うん、と返事をして、目を擦りながら居間を出て行った。ユキは微笑みながら、その様子を見守った。
きっと、モロコシの夢は、色とりどりのバッタが登場する、とても愉快なものになるのだろう。




