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仔猫殿下と、はつ江ばあさん  作者: 鯨井イルカ
第三章 仔猫殿下と、はつ江ばあさん
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仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その二十四

 シーマ十四世殿下一行の話がなんとなくまとまってきたころ、村役場跡では……


「えー、皆さま。本日はお集まりいただき、まことにありがとうございました!」


 ……燕尾服を着た銀髪ポニーテールの美女が、「超・魔導機⭐︎」を前に、芝居めいたお辞儀をしていた。


「いえ、こちらこそ、ご足労いただき、まことに、ありがとうござい、ました……、あ、でござる!」


 変身薬の効果が切れた五郎左衛門が、ぎこちない動きで姿勢を正すと、おなじく変身薬の効果が切れたバービーが、心配そうに首をかしげた。


「ちょっと、ござる大丈夫? さすがに緊張しすぎじゃない?」


「そういうバービー殿は、緊張しなすぎでござるよ……」


 そんな二人のやり取りを見て、合流した樫村がポリポリと頭をかきながらうなずいた。


「まあ、緊張するのも無理ねぇよな」


 樫村の隣で、ポバールが同意するように、上下にぷるんぷるんと震えた。


「ええ、まったくです。なんたって、魔界一の大魔法使い、リッチー・徒野猊下の、よりによってフルパワー姿の御前なんですからね……」


 一回ひっぱたわりには、予想どおりの正体が発表されると、リッチーはカラカラと笑いだした。


「ははははは! お気遣いや、緊張は無用ですぞ! たしかに、フルパワーではありますが、反乱分子たちや、ましては皆様をおどかすために、やってきたわけではありませんから!」


「それじゃあ、猊下はなにしに来たの?」


 物怖じせずにバービーが尋ねると、リッチーは不敵な笑みを浮かべた。


「ふっふっふ、それはですな、バービーさん……」


 リッチーは、勿体ぶりながら深く息を吸い込んだ。


 そして……



「この『超・魔導機⭐︎』を敵度に暴走させに、参ったのですぞ!」



 ……そこそこ物騒な言葉を口にした。



 当然、一同は……


「な、なんだってー!? で、ござる!」

「え、ちょっと待って!? なんでさ!?」

「なん……、だと……?」

「え、あ、あの? えーと、えーと……」

 

 ……わりとバラバラなかんじで、ビックリ仰天した。



 そんな慌てふためく一同を見て、リッチーは再びカラカラと笑った。


「はっはっはっ! いやぁ、皆さま! いい驚きっぷりですな!」


「そりゃ、驚くだろ……、なんだってそんなことするんですか?」


 樫村が尋ねると、リッチーはコクリとうなずいた。


「それはで、ありますな……、皆さまちょっとお耳を拝借」


 手招きをされ、一同はリッチーのもとに集まった。


「じつは、かくかくしかじかで……」


 役場跡には、テンプレートなかんじで省略された説明と、ふんふん、という一同の相槌が響いた。



 一方そのころ、村長宅の屋上では……


「それにしても、先ほどの蘭子さんの撞木反りは、本当に見事でしたわ!」

「うむ! まったくでおじゃるな!」

「やっぱ、河童の相撲力は半端ねえな……」



「へぇ! そいつぁ、是非ともこの目で見たかったでございやす!」

「蘭子ちゃん、もう一回やってみてー!」

「蘭子ちゃん、もう一回やってみてぇ!」


「えーと、その……」


 ……直翅目トリオと、忠一忠二を拾って再合流したチョロに褒められ、蘭子がタジタジとしていた。


「あの、撞木反りはかなり激しい技ですし、緊急事態以外は土俵の外で使うわけには……」


 冷静さを取り戻した蘭子は、拘束した頭巾たちを治療しながら、恥ずかしそうに答えた。すると、チョロが歯を見せながら、ニカっと笑った。


「強い上に優しいなんて、緑川のお嬢はいい嫁さんになりそうでございやすな!」


「あ、あの、ええと、その……」


 蘭子が頬を染めながらワタワタとすると、忠一忠二が顔を見合わせて、コクリとうなずいた。


「ユーたち、つきあっちゃいなよー!」

「ユゥたち、つきあっちゃいなよぉ!」


 二人が囃し立てると、チョロが目くじらを立てながら、尻尾をピシャリと振った。


「こら、お前ら! 緑川のお嬢をからかうんじゃねぇ! すっげぇ困ってんだろ!」


「あ、あの、困っているというか、その……、それよりも、チョロさんが合流したということは、また新しい作戦があるんですか?」


 蘭子がドギマギしながらも話題を変えると、チョロがハッとした表情で手を打った。


「おっと、こいつぁいけねぇ! 実は、親方からの伝令で、ことが起こるまでここで待機するよう言われてやして」


「みんなで待機ー!」

「みんなで待機ぃ!」


 チョロと忠一忠二の言葉に、直翅目トリオと蘭子は首をかしげた。


「お館様から、待機命令ですの?」

「それが新たな作戦でおじゃるか?」

「まあ、それなら待つけどよ……」


「……いったい、いつまで待機すればいいのでしょうか?」


 直翅目トリオと蘭子に尋ねられ、チョロは困り顔で頭をかいた。


「それが、『動くタイミングは、ひと目見ればわかるわよ!』、と話を切られちまいまして、アッシにも詳しくは……」



 詳しくは分かんねぇんでさぁ、とチョロが答えようとした。


 まさにそのとき!



 

  ゴゴゴゴゴゴ!


  バキバキバキバキッ!

  ドサドサドサッ!




 轟音とともに、役場跡の建物が崩れ、土煙が上がった。


 そして……


 ガラガラガラガラッ!

「ごめんね! そのお願いはかなえられないよ!」

 ガラガラガラガラッ!


 ……その煙の中から、巨大な福引のときに回すアレこと、「超・魔導機⭐︎」が、四本の腕と日本の脚を生やした姿で現れた。



「な、なんですの!? あの巨大な物体は!?」

「『超・魔導機⭐︎』が進化したでおじゃるか!?」

「カトリーヌ、形態をかえることは、進化じゃなくて変態だぜ……」



「これが、親方の言ってた、動くタイミングっつーやつか……」

「間違いなく、そうでしょうね……」

「なんだか福引したくなってきたー!」

「なんだか福引したくなってきたぁ!」


 割とわかりやすい動くべきタイミングに、一同は慌てふためいたり、ツッコミを入れたり、固唾を飲んだり、呑気な発言をしたりした。



 かくして、旧カワウソ村でのイザコザ、最終決戦が幕を開けたのだった。

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