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仔猫殿下と、はつ江ばあさん  作者: 鯨井イルカ
第三章 仔猫殿下と、はつ江ばあさん
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仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その十八

 バービー達が「超・魔導機・改」の修理を終えたころ、旧カワウソ村の中心にある大きな十字路では……


「ふんふんふん……、あれ?」


「みみ?」


 空に顔を向けて鼻をピスピスと動かしていたモロコシとミミが、キョトンとした表情で首をかしげていた。


「モロコシちゃん、ミミちゃん、どうしたんだい?」


 はつ江が心配そうに尋ねると、モロコシは尻尾の先をクニャリと曲げ、ミミは短い尻尾をピコッと動かした。


「えーとね、殿下の匂いを探してたんだけど、急に分かんなくなっちゃったんだ……、みんな、ごめんね……」


「みみぃ……」


 モロコシとミミがションボリとうなだれると、はつ江はニッコリと微笑んだ。


「大丈夫だぁよ。モロコシちゃんもミミちゃんも、頑張ってくれてありがとうね」


 はつ江がそう言って頭をなでると、モロコシとミミは目を細めて喉をゴロゴロと鳴らした。

 その様子を見て、チョロがキョトンとした表情で首をかしげた。


「モロコシの坊ちゃんに、ミミの嬢ちゃん。消えちまうまで、殿下の匂いはどっちの方からしていやしたか?」


「んーとね、あっちの方だよ」


「みみみ」


 モロコシとミミはふかふかの手で、西側の少し離れた場所にある、他より大きな家を指差した。すると、蘭子がポケットから端末をとりだし、指さされた家と画面を交互に見た。


「あちらだと……、以前は村長のマテオさんのお宅だったところですね……」


 蘭子の答えを聞き、ミミの帽子の上でミズタマガピョインと飛び跳ねた。


「緑のねーちゃんが別れる前に、『一応、リーダーたちは前村長の家にいるから』って言ってたな!」


「首謀者の根城であれば、殿下もいらっしゃる可能性はたかいですわね!」


 ミズタマに続き、ヴィヴィアンもピョインと飛び跳ねた。すると、チョロが胸のあたりで拳を構え、凛々しい表情をうかべた。


「うっし。そんなら、さっそく行ってみやしょう!」


 チョロの掛け声に、一同は元気よくうなずき、歩き出そうとした。


 まさに、そのとき!


「お前ら、こんなところで何をしてるんだ?」


「見ない顔だけど、何の用?」


 一行の背後に、フードを目深に被った紫色をしたローブ姿の男性と、同じくフードを目深に被ったピンク色のローブ姿の女性が現れた。


「あ、えーと……、私たちは、魔界水道局のもので……」


「これから、向こうのお屋敷に、水道管の点検に行くんでさぁ!」


 蘭子とチョロが答えると、紫ローブが顔をしかめた。


「水道管の調査……? おい、そんな話聞いてたか?」


「いえ……、今日は大事な来客があるから、部外者は屋敷に近づけるなって話だったはずだけど……」


 紫ローブとピンクローブの話を受け、はつ江ばあさん一行の間に緊張が走った。そんな中、チョロがヴィヴィアンに向かって、チラリと視線を送った。それを受け、ヴィヴィアンは「わかりましたわ」と言わんばかりに、前翅をかすかに震わせた。


「……悪いが、あの建物には近づかないでもらいたい」


「そこをなんとか、できやせんかねかぇ?」


 紫ローブの言葉に、チョロは愛想笑いを浮かべて食い下がった。すると、ピンクローブが苛立った顔で、深くため息をついた。


「ダメなものはダメよ」


「どうしてもでございやすか?」


「どうしてもよ」


「そいつは残念でございやす……」


「そうよ。分かったらさっさと……」


 ピンクローブは、さっさと帰りなさい、と口にしようとした。


 まさにそのとき!


「ヴィヴィアン!」


「わかりましたわ! 皆さま、いきますわよ!」


 チョロの掛け声と共に、ヴィヴィアンが、はつ江、モロコシ、ミミとミズタマ、蘭子を掴んで飛び上がった。


 そんなヴィヴィアンの行動に……


「あれまぁよ!?」


「わぁ!?」


「みみっ!?」


 はつ江、モロコシ、ミミもさすがにビックリし……


「ヴィ、ヴィヴィアン! い、いきなり、急上、昇す、るんじゃ……、ねぇよ!」


 ミズタマは泣き出しそうな声で抗議し……


「ちょ、チョロさん!? 何をなさるおつもりですか!?」


 ……蘭子は身を乗り出して、チョロの身を案じた。


「な!? おい、お前ら!!」


「ちょっと!? 待ちなさい!!」


 紫ローブとピンクローブは、遠ざかっていくはつ江ばあさん一行を追いかけようとした。


「……アンタらのお相手は、アッシでございやすよ」


「っ!? いつのまに、後ろに……、ぐっ……」


「え、ちょっと、なに……、うっ……」


 しかし、素早く背後に回り込んだチョロによって、首筋に針のようなものを打ち込まれ、ローブたちはその場にドサリと倒れ込んだ。


「安心しなせぇ、ただの眠り薬でございやす……、まあ、聞こえちゃあいないか」


 チョロはいつもよりも低い声でそう呟くと、小さくため息をついて顔を上げた。その目には、ヴィヴィアンがマテオ宅の屋上に降り立つ様子が映った。


「こんだけ離れてりゃあ、大丈夫か。皆さまがたに、荒事を見せるわけにゃいきやせんからね。さて、親方に連絡、連絡っと」


 チョロは小さく伸びをしてから、通信機を探すため、作業着のポケットを探った。


 こうして、マダム・クロの懐刀チョロがその鋭さをチラッと見せながらも、はつ江ばあさん一行は、シーマ十四世殿下が囚われている建物へ乗り込んだのだった。

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