仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その六
ミミの一言により、バタバタしたシーマ十四世殿下一行と緑ローブだったが……
「えーと、とりあえず……、兄貴も悪気があったわけじゃないと思うぞ、絶対」
シーマがヒゲと尻尾をダラリと垂らして、力なくつぶやき……
「ふん! でも私は傷ついたの!」
緑ローブが腕を組んでほおを膨らませながら、そっぽを向き……
「みみみみ」
ミミはお手上げのポーズをしながら、ため息まじりに声をもらし……
「ちょっと! ミケネコ! 今度は呆れたでしょ!?」
緑ローブが今度は足をダンッと踏み鳴らし……
「ミミちゃん、お姉さんは真剣なんだから、やれやれとか言っちゃダメだよ」
モロコシが耳をペタッと伏せて、耳を諭す……、という感じで、まだ、わりとイザコザしていた。
そんな中、不意にモロコシがキョトンとした表情で、尻尾の先をクニャリと曲げた。
「あ、でも、殿下。魔王さまって、結婚はしないの?」
「え、兄貴が結婚? ああ、そういえば、ちょっと前に……、結婚するとしたらどんな相手がいいんだ? って話になったっけかな……」
シーマが口元に手を当ててつぶやくと、モロコシ、ミミ、緑ローブは興味津々といった表情を浮かべた。
「へー! どんな人だったの!?」
「みー! みみみみ!?」
「……まあ、どうしても話したいっていうなら、参考程度にはしてあげるけど?」
三人の言葉を受けて、シーマは尻尾の先をクニャリと曲げた。
「そうだな……、たしか、三ヶ月くらい前に……、鉱山の国での会合から帰ってきたときに聞いた話だと……」
そんな言葉とともに、シーマ十四世殿下の回想が始まった。
魔王城のリビング的な部屋にて、シーマと魔王は部屋着でくつろいでいた。
「ふぅむ、プルソンとセクメトさんって相思相愛なのに、いつもなんかギクシャクしてるんだよな……」
「まあ、鉱石の国のトップと、熱砂の国の大貴族のご令嬢だし、色々とあるんだろ」
「でもさぁ、なんかじれったいっていうか……、関係が急激に進展する魔導機でも贈ってやろうかな」
「よけいなお世話になるから、やめとけよ」
「そうか……」
「そうそう。そんなことより、自分はどうなんだよ?」
「え、俺?」
「ああ。別に、ボクに気兼ねしないで妃捜しをしていいって、いつも言ってるだろ?」
「結婚か……、でも、俺、面倒くさいくらい人見知りだしなぁ……」
「自覚はあったのか……、じゃあ結婚願望とかってないのか?」
「うーん、まあ……、理想の相手像ってのは、あるっちゃあるが……」
「へー、そうだったんだ。どんな人が好みなんだ?」
「そうだな……、まずは、人見知りで引きこもりなやつに対しても優しい」
「人見知りと引きこもりは治した方がいいと思うけど……、優しいのはたしかに」
「あとは、シーマのこともあるし、フカフカが好き」
「まあ、ボクに気を遣いすぎることはないけど……、毛嫌いされてギスギスするよりはいいかな」
「だろ? あとは、ほら、公務とかも一緒にすることになるわけだから、魔力と……、体力もある程度は必要かなぁ……」
「そういう兄貴は、体力が驚きのひどさだけどな」
「う……、ま、まあ、俺の体力のことはひとまず置いておいてだな……、最後が一番重要なんだ」
「……まさか、コミュニケーション能力の高さ、とか言って、人と関わる系の仕事を全部丸投げするつもりか?」
「そ、そんなことは……、ちょっとだけ思ったけど……、それよりも、もっと大事な条件がある」
「もっと大事な条件?」
「ああ……、ハックアンドスラッシュ系のゲームで、伝説級の装備が一式揃うまで、不眠不休でステージの周回を付き合ってくれるってことだ!」
「……」
「あ、あれ、どうしてそんなジトっとした目をしてるんだ? ……あ! もちろん、付き合ってもらうだけじゃなくて、向こうの装備が揃うまで俺も付き合うぞ! たぶん千時間くらいあれば、余裕で……」
「ゲームは一日一時間にしろって、いつも言ってるだろ!」
魔王城にはシーマのお叱りの声が響き渡った。
「……ということがあったんだよ。そのあと、兄貴は落ち込むし、駆けつけたリッチーには、『二人とも、もうお休みになる時間ですぞ!』って、ボクまで叱られるし、大変だったんだ……」
シーマは回想を終えると、ヒゲと尻尾をダラリと垂らした。
「まあ、趣味が合うのは必要かもしれないけど……、止める人がいた方がいいと思うんだよな、ボクは」
シーマが力なくつぶやくと、モロコシとミミが肩をポフポフと叩いた。
「うん。ゲームばっかりだと、二人とも目が悪くなっちゃうもんね」
「みーみー」
二人がフォローをする中、緑ローブは口元に指を当てて、真剣な表情を浮かべた。
「前の三つはどうにでもなるとして……、乙女ゲームなら、累計で千時間以上は余裕してたはずだけど……、ハクスラ? たしか……、RPGみたいなやつだったわよね……」
緑ローブがわりと前向きに四つ目の条件を検討していると、シーマはヒゲと尻尾を更にダラリと垂らした。
「あー、頼むから……、その条件だけは検討しないでくれ……」
「うん! 『ゲームは一日一時間!』だよ、お姉さん!」
「みー! みみみみみみー!」
魔王城の庭先には、仔猫たちのお叱りの声が響いた。
かくして、魔王の好みが暴露されつつ、仔猫殿下一行が陥った緊迫した状況のようなものは、続いていくのだった。




